大久保混声合唱団創立50周年演奏会〜チーム力〜

週末、大久保混声合唱団の創立50周年記念演奏会を、ステージマネージャとしてお手伝い。強力な助っ人のおかげで、今までのどのステマネ仕事よりもストレスの少ない仕事になりました。

今回の会場は、池袋の東京芸術劇場。音響的にはとても恵まれた素晴らしい劇場なんですが、私としては大変な思い出のある場所です。駅前の立地を効率的に使った劇場だけに、内部構造が複雑で、エントランスから劇場までの階段やエスカレータの上り下りが大変なんですね。TCF合唱団の「カルミナ・ブラーナ」の演奏会を、合唱団側担当ステマネということでお手伝いした時に、楽屋と地下のリハーサル室の鍵閉めと忘れ物チェックを全部一人でやる羽目になって、階段を短時間で駆け上がったり駆け下りたり、死ぬ思いをした記憶があります。

なので、ステマネのお話をいただいた時には、「芸劇ですか?」と一瞬しり込みしたのですが、他ならぬ大久保混声合唱団のMさんからのご依頼ということもあり、大きな劇場でのステマネ仕事の充実感も忘れがたく、思い切ってお引受けすることにしました。さらに、補助スタッフも私の方で手配してほしい、とのご依頼だったので、ガレリア座の仲間であるSさんとKさんにお手伝いをお願い。結果的には、これが非常によかった。

例えば、上手と下手の扉を同じタイミングで開ける、といった段取りが必要な場合や、会場が広くてとても一人では目が届かない、といった場合、合唱団に、当日補助スタッフを確保していただくことが多いです。今までもそれでこなしてきたのですが、やはり、当日突然現場で顔合わせした、気心知れない初対面の方に、色々とお願いするのも気詰まりなもの。そういう意味では、気心知れたガレリア座の仲間、中でも、舞台活動にはすっかり慣れているお二人が手伝ってくれたおかげで、そういうストレスを一切感じることなく本番をこなすことができました。こちらが目の届かないところにまで気配りして、どんどん先回りしてサポートしてくれて、本当に助かりました。Sさん、Kさん、ありがとうございました。

演奏会自体も、OB/OGの皆さん含めた合唱団の熱演と、3人の指揮者の先生方によるバラエティに富んだステージで、とても充実した演奏会でした。若干身びいきながら、我が女房どのが演出した、オープニングとアンコールの演出もとても素敵だった。「おわりのない海」で、会場全体がふわん、と歌声に包まれた瞬間や、「北極星の子守歌」で、客席後方から、OB/OG合唱団が現役の声に応えて歌いだす演出などは、ホールの音響の美しさも相俟って、リハーサルの時から鳥肌ものでした。実際、リハーサルの時には、近づく開場時間にハラハラしながらも、あまりに感動的な演奏に、何度も目頭が熱くなりました。「無声慟哭」なんて涙無しには聞けないし、「ほほえみ」もちょっと平静な気持ちでは聞けないんだよねぇ。本番では色々と不手際もあり、ご迷惑をかけたと思いますが、出演者の皆さん、本当にお疲れ様でした。大きな演奏会で緊張していたせいもあり、ちょっと「怖い」ステマネになってしまって、申し訳ありませんでした。

それにしても、団長さんのご紹介に合わせて、「ステマネさん、ちょっと顔を出して」と言われて、私が舞台に出て行った時に、客席に起こった笑い声はなんだったのだろう。どうしてもよく分からない。出てきただけで笑いが取れるってのは、役者としては喜ぶべきことのような気もするが。ううむ。

今回の演奏会で、改めて思ったのですけど、「チーム力」って本当に大事なんですね。演出家にせよ、俳優にせよ、歌手にせよ、作家にせよ、およそ表現ということに関わっている人たちは、その人個人の力だけじゃなくって、「チーム」としての力で勝負してるんじゃないかな、と思うんです。私の兄は最近、新人作家の一員として、色んな仕事のお声がかかるようになってきたんですが、彼自身の能力も勿論なんだけど、その能力を(悪い意味ではなく)利用して、自分の表現したいものを世の中に出していこう、という、編集者の方々に代表されるサポートの力や、企画の力がすごく大きい気がする。そういう裏事情を色々聞いていると、一人の作家を支えるスタッフの力って、すごく大きいんですよね。

大田区民オペラ合唱団で、今回の「ノルマ」を演出されている三浦安浩さんにしても、三浦さんの持っている「ノルマ」へのイメージがあり、基本的な演出プランがあるだけじゃない。それだけでは舞台にならないんです。それを実際に舞台上の俳優の所作として形にしていく振り付け師や、合唱団の配置に具体化していったり、細かい注意事項をメモっている演出助手の方々など、「チーム」として動いている姿が見える。伊藤明子先生も、演出助手や舞台監督の人脈などをきちんと持ってらっしゃって、「明子チーム」とでも言うような「チーム力」で、舞台を作ってらっしゃいました。

映画監督、なんて典型的な例で、黒澤明さんにせよ、小津安二郎さんにせよ、撮影監督、美術監督などの同じスタッフを常に抱えて、「黒澤組」「小津組」というチームで、映画を作ってらっしゃいました。どの映画監督も、自分の「組」をきっちり持っている。ガレリア座も、大きな舞台をこなせるようになってきましたけど、これは、主催のY氏を中心とする裏方スタッフと、団内スタッフのチーム力の賜物です。

手前味噌にはなるけれど、私と女房がやっている「GAG公演」や、「蔵しっくこんさぁと」のシリーズにしても、いつもサポートをお願いするスタッフの皆さんや、気心知れた出演者たちの「チーム力」があるから続けていられること。今回の大久保混声合唱団の裏方仕事では、舞台を作っていく上で、そういう仲間を持っていることの幸せと、その仲間たちがサポートしてくれることで、一人の力以上の力が発揮できることの素晴らしさを、あらためて実感しました。Sさん、Kさん、重ね重ねありがとう。大久保混声合唱団の皆さん、OB/OGの皆さん、指揮者・ピアニストの先生方、受付スタッフその他のスタッフの皆様、50年間にわたって培われた、皆さんの素晴らしい「チーム力」があって、今回の演奏会が成功したのだと思います。改めておめでとうございます。本当に素晴らしい時間をありがとうございました。