幸福な時間

週末、土曜日はヴェルレクの練習と、日曜日は夏の演奏会に向けての初練習。ヴェルレクはリベラメの練習が中心だったのですが、やっぱりこのレクイエム、圧倒的にベースが旋律を取ることが多くて、我々ベース族にとっては無茶苦茶「おいしい」曲ですねぇ。練習でも、ベースの旋律から各パートに展開していくところが多くて、各パートの音確認練習とのお付き合いもあり、同じフレーズを10回以上歌わされました。おいしい曲、ということはしんどい曲、ということ。これの全曲演奏ってのは相当ペース配分等考えないとダメだなぁ。しかも、ほんとに最後の方で、「Domine, Libera Me de morte」(主よ、死から我を救いたまえ!)のユニゾンで合唱が絶叫する所の楽譜には、Tutta Forza(全力で)なんて書いてある。ここまで、さんざん歌わせた挙句に全力かよ。何の力が残ってるっていうんだよ。しかもこの旋律が、またヴェルディらしくベタベタの応援歌みたいな旋律。これがまたかっこいいんだ。なんてベタなんだ。

ヴェルレクの練習の後で、山口俊彦先生のリサイタルの、マクベスの女声合唱(魔女の合唱)の練習にお付き合い。かっこいい曲です。曲と明かりのきっかけなどの確認もできて、非常に勉強になりました。

日曜日は、夏の演奏会に向けての初練習。参加メンバーのほとんど全員がそろっての練習だったのですが、ほんとに楽しかったです。しんどいんだけど楽しい。「闘牛士の歌」を初めて通して歌ったのですが、無茶苦茶きつい。フランス語が英語みたいになっちゃう、という問題と、ポジションが全然保てない、という問題。後半になるともうばててしまって、全然ポジションが降りてこない。ペース配分の問題もあるんだけど、ブレスの仕方に最大の問題があるような気がする。ブレスをした後の最初の音できちんとポジションを取り直すことができずに、そのまま先に進んでいってしまうから、どんどん上に上がってきてしまうんですよね。2つの問題、共にかなり致命的な問題なんですが、あと3ヶ月、精一杯あがいてみたいと思います。

練習の中で、一番楽しかったのは、カールマンのオペレッタ「マリツァ伯爵令嬢」の、ジュパンとマリツァのデュエット「行こうヴァラシュディン!」の練習でした。このジュパン、という役、元々テノールの役なので、私にとっては相当高い音域です。また、マリツァもソプラノの役なんですが、今回、メゾソプラノのKさんにお願いしてみました。これがすごく面白かった。

そもそもオペレッタの曲って、中音域で勝負する曲が多くて、テノールとかベースとか、ソプラノとかメゾ、という区分けがかなりあいまいだったりするんです。トーマス・ハンプソンが出しているオペレッタの名曲集、というのも、結構テノールのアリアが取り上げられていたりするし。でも、やっぱりジュパンとマリツァ、というデュエットだと、テノールとソプラノがやることが多い。なので、全般的に軽い響きの歌になるし、そういう歌だと思っていた。

でも、Kさんと私でやると、低音から中音域の下のあたりがやたらに鳴る。全然別の曲みたい。口の悪い女房に言わせれば、「路地裏をダンプが軽やかに駆け抜けていくみたいな感じ」になって、これはこれですごく面白い響きがしました。

練習終了後、そのまま飲み会へ。非常に幸福な時間を共有しました。この幸福感は何から来るのかなぁ。端的に言えば、価値観を共有している、ということなんでしょうけど。例えば今回の演奏会にしても、岩手の田舎でサロンコンサートをやりましょう、という企画ですから、手を抜こうと思えばいくらでも抜ける。「どうせアマチュアなんだから」ということを言い訳にして、辛い練習を適当にこなして、「楽しかったねぇ」で終わらせることだってできる。でも、今回のメンバーは、全員、きっちりした演奏会にするための努力や、辛い練習を厭わない。そういう努力や練習の向こうに、本当の「楽しさ」があるということを知っている。今回の演奏会で、私の「闘牛士の歌」含め、全員が、今の実力だとちょっと厳しい、くらいの曲にチャレンジしよう、としています。例え小さなコンサートでも人前で演奏する以上、きちんと練習をして、きちんとした演奏会にしたい。できれば、その経験を経て、一つのハードルを越えたい。みんながそういう価値観を共有している。そういう仲間と一緒に音楽を作る機会を持てることの幸福、というのを、本当に感じた時間でした。