ステージマネージャというお仕事 完結編

今日もどんよりした天気ですね。今年は、毎年苦しむ花粉症の症状が軽くて済んでます。天候不順のおかげと、花粉の量が少ないのと、カミサンの実家(小児科&アレルギー科)が処方してくれた薬の効果が相乗しているみたい。
花粉症の症状が出始めると、なんか、地球から嫌われているような気分になるんですよね。人間社会がここまで肥大化して、自然破壊をどんどん進めていってる、そのしっぺ返しをくらっているような。鳥インフルエンザとか、狂牛病とかも、そういう一環のような気がしています。
こういう見方って、少し昔にベストセラーになっていた、エボラ出血熱の恐怖を描いた、「ホット・ゾーン」、という本にも書かれていましたっけ。この本を原作にした映画、「アウトブレイク」でも、冒頭で、人間が森を汚したから、森が復讐をしているんだ、というセリフが出てきてました。
娘が大きくなる頃には、自然と人の関係が、もう少し改善されているといいんですけど・・・

さて、今日はステマネのお仕事の完結編です。まだやってます。すみません。

  • キュー出し

ステマネのお仕事で、一番重要な部分の一つが、本番のキュー出しです。「キュー」というのは、鍵、とかきっかけ、という意味のようですが、要するに、出演者の入退場の合図や、照明を変えるタイミング等を指示する合図のこと。

入場のパターンは色々です。上手と下手から分かれて入場するケースもあるし、緞帳という大きな幕で舞台を隠しておいて、団員を並べた状態で、幕を上げる、というパターンもあるし、普通に下手から一列になって入場する場合もあります。先日やったTCF合唱団の演奏会の場合、合唱団員が300人という大人数で、舞台上に入りきらず、バルコニー席も使いました。この場合には、入り口が4つあったので、それぞれの入り口に担当者をつけて、合図を決めておき、その合図が出たら、一斉に入場してもらう、という形を取りました。

ハケの段取りは、大きな合唱団になればなるほど、全員の意思統一を取るのが難しくなります。全員きちんとそろってからでないと、入場の合図は出せませんし(一人だけ遅れて駆け込む、というのは一番みっともない)、舞台袖で順番通りにきちんと並んでいないと、うまく列になって入れない。演奏する時の並び順や、誰が歌うのかを把握している人、例えば各声部のパートリーダーさんに、確認をお願いし、その人に、「入場準備OKですか?」と確認を取ってから、キューを出します。

演出を使うステージになると、キューの数は格段に増えます。そのほとんどは、照明のキューです。舞台上で起こることを2・30秒くらい前に、会場スタッフに伝えて、ここから、という時に、キューを出します。「夕焼け明かりまもなくです・・・お願いします」みたいな感じです。
これを出すためには、その曲を十分理解し、どこで何が起こるのかをきちんと把握しておく必要があります。演出ステージの簡単なシナリオと、キュー出しの場所を対照表にしたものを、別に作ることが多いですね。
以前、オペラの舞台監督をやったときには、全部で200近いキューを次々に出していく、という経験をしました。本番前日、うまくキューが出せるか自信がなくて、眠れなかったのを覚えています。

このキュー出し、入退場の段取りは、大抵、リハーサルの最後などに、少し時間をとって、団員さんに実際に動いてもらったり、口頭で説明したりして、ちゃんと事前に了解してもらうようにします。団員さんに伝えたい内容がきちんと伝わるように、大きな声ではっきりと、簡潔な言葉で伝えることが大事。

  • インカム

ステマネは、大抵は下手袖にある操作盤の側に陣取ります。操作盤には、会場のスタッフの方が座って、幕の上げ下げや、その他の吊りものの操作を行ったり、時には照明さんへの連絡を中継ぎしてくれたりします。

照明の担当さんは、舞台を正面から見ることができる投光室というところにいらっしゃることが多いです。そこと、舞台の袖(大抵は下手)にある操作盤との連絡手段は、大抵の場合、「インカム」というヘッドマイクを通して行います。「インカム」の会話は、客席に漏れることがないように、ひそひそ声でやりますが、照明スタッフが愉快な人だと、本番中にもくだらない冗談を言い合っていたり、「お、前列のあの子、可愛いねぇ」とか、アホたれな会話をしていたりします。
一度、そういうインカム越しの会話が、客席に少し漏れてしまったことがあって、アンケートに書かれて恥ずかしい思いをしたことがありましたっけ。気をつけましょう。

  • いよいよ本番

リハーサルも終わり、短い休憩時間にお弁当をかっ込む(そんな時間もない場合もある)と、本番が始まります。
舞台上に忘れ物がないか、確認。リハーサルの時に出しておいた椅子とか、ペットボトルが置きっぱなしになっていないか、チェックします。指揮者の先生によっては、演奏用の楽譜を前もって指揮台に置いておく方もいらっしゃるので、そのセッティングも確認します。舞台上のスタンバイがOKであれば、受付の状況を確認し、開場OKの連絡をします。

開場して、お客様が客席にいるときに、「しまった、舞台上にあれを忘れた!」ということがあったりします。そういう時に、慌てて駆け込んだり、照れくさそうに頭をかきながら舞台に出て行ったりすると、かえってみっともないです。まるでそれが段取りであったかのように、堂々と出て行って、堂々と対応すれば、お客様も別に違和感は感じません。

大きな会場だと、想定している開演時間になっても、まだお客様が入りきっていないことがあります。内線電話などで受付と状況を確認しながら、「では、開演時間を5分押し(延期し)ましょう」という話をします。その状況は、きちんと団員さんの楽屋に伝えてあげるのがベストです。(直前の準備でばたばたしていて、そこまで手が回らないことが多いですが)

1ベルが鳴り、場内アナウンスが流れ、本ベル、そして、客電が落ちます。舞台袖に待機した団員さんに、入場のキューを出します。みんな緊張した面持ち。そんなときだから、ステマネはにこやかに、穏やかに、みんなを送り出してあげないといけません。緊張を煽るような、引きつった顔は厳禁。にこにこと、「頑張ってくださいね」と声をかけながら、送り出します。

舞台上の明かりが明るくなりました。指揮者の先生と、ピアニストに、「では、お願いします」と声をかけます。先生方が入場し、大きな拍手が起こります。あとは一人の聴衆になって、演奏を楽しみながら、頭の隅で、次のステージの段取り、予定演奏時間、カーテンコールの時の花束は準備してあるか、など、常に先の段取りを確認しつづけます。演出つきステージでは、演奏している人たちのノリをそのままに、舞台と一体となってキューを出していく。これもまた、ステマネにとって、至福の時間です。

  • バラし、撤収!

演奏会が終わり、指揮者の先生方のカーテンコール、花束贈呈が終わりました。客電が上がり、終演アナウンスが流れる中、団員の方々が舞台袖に戻ってきます。みんな充実した顔をしています。この時の団員の皆さんの満足した顔を見るのも、ステマネにとってはとても嬉しい時間です。

でも、余韻に浸っているわけにはいきません。舞台に仕込んだいろんな備品を全部元の姿に戻し、楽屋その他もからっぽの状態に戻す、いわゆる、「バラし」の作業が残っています。

この時には、ひたすら作業員の一人になって作業を手伝うのがステマネの役目。それも、極力、みんなと同じことをやるのではなく、手が足りていないところ、誰も手をつけていないけど、早く処理しないといけないところを見つけて、どんどん片付けていきます。

大抵の場合、バラしの作業には時間がありません。限られた時間の中、団員さんにも手伝ってもらって、山台を崩したり、廊下に出たゴミを片付けたり、舞台裏を走り回ります。この時間が、一番の修羅場かもしれません。

・・・団員さんが立ち去って、あれだけ華やかな音楽が満ちていた舞台上が、何もないただの板場に戻ります。その時、時間が許せば、その何も無くなった舞台で、大の字に寝そべるのが私の楽しみです。今日一日起こった様々な出来事、トラブル、大変だったこと、素晴らしかった演奏、袖で待機していた団員さんたちとの会話。色んなことを、からっぽの舞台上で反芻しながら、火照った身体の熱が、舞台の板の奥に吸い込まれていくのに身を任せて・・・

会場スタッフさんにご挨拶し、楽屋の鍵を全部閉めると、事務室に鍵を返して、会場にお別れです。明日からはまた、普通の会社員としての日常が始まるぞ。その前に、打ち上げ会場でビールを一杯ごちそうになって、帰るか・・・

・・・こうして、ステマネの1日が終わります。なんだかだらだらと書き連ねてしまった。次は、私がステマネとして関わった舞台での、色んなアクシデントや、忘れられない出来事をちょっと書いてみようかな。(・・・え、続くのか!?)