ステージマネージャというお仕事 そのに

昨夜、カミサンを迎えに、新宿文化センターにお邪魔しました。カミサンは、週末、新宿文化センターの小ホールで開催される、新宿オペレッタ劇場の「ヴェロニク」に合唱として参加しています。立ち稽古の終わったホールで、娘とカミサンと私と3人で、少し遊ばせてもらいました。先日も、少しだけ稽古風景を拝見させていただきましたけど、フランスらしい、うねうねとどこまでも流麗なメロディーと、オペレッタの軽快さが同居した、とても楽しい舞台になりそうです。何より楽しみなのは、エレーナ=ヴェロニク役の嶋崎裕美さん!私の日記のタイトルにもなっている「歌役者」Singspielerという言葉そのままに、芝居も歌も踊りもピカイチの方。以前のオペレッタ劇場の公演もすごく素敵でしたから、週末の舞台がほんとに楽しみです。

さて、昨日の続きで、ステージマネージャというお仕事について、今日は、会場との打ち合わせ、から参ります。

  • 会場との打ち合わせ:

主催者側との意識あわせが終わったら、会場との打ち合わせです。会場との打ち合わせ項目は多岐に渡るので、主催者側とステマネが同席して、意識のずれがないようにしながら進めるのが理想です。ステマネが作成したタイムスケジュールの簡易版を作って、それをベースに当日の段取り・やりたいことを説明し、会場側でできること、できないこと、をすり合せていきます。
特に、受付・会計などの部分については、ステマネ側ではわからないことが多いので、主催者側と会場さんで直接話をしてもらうか、持ち帰って確認、という形にすることが多いです。

大きな会場になると、音響・照明・舞台・受付、会計事務、と、機能別に担当者の方が次々に現れて、自分の担当部門について確認していくこともありますし、よくお世話になっている新宿文化センターなんかは、Kさんという、マリオブラザーズのマリオそっくりの楽しいおじさん(失礼)が、全体をきっちり把握されていて、ポイントを説明しておけば、担当の方につないでくれる、という方式です。このあたりのやり方は、ほんとに会場によって千差万別。

昨日も書きましたけど、会場ごとに設備も違うし、担当の方のノウハウも異なります。こちら側は、「こういうことをやりたいのですが、どうやれば可能でしょうか?」という所を、先入観なしで、まっさらに問い掛けていくのが大切です。

例えば、合唱団の方なら必ず御世話になったことがあるだろう、「山台」というものがあります。合唱団の方々が歌うときに立ち並ぶ、ひな壇を作るための台。大抵の会場では、この山台を組み上げてひな壇を作りますが、会場によっては、この山台がない所もあります。舞台上で電動でひな壇が作れるようになっていたり、会場側で全く構造の違う特注の台を持っていたり。そういうことも含めて、会場ごとに条件は全然異なります。

特に、演出つきステージをやろう、という場合。照明設備や、音響設備、道具の出し入れや演技空間の確保など、会場によって様々なルールや、条件が絡んできます。特に照明については、仕込みや、本番の追加人件費の発生など、様々な制約があります。

虚心坦懐に、「やりたいこと」=WHAT、をぶつけていけば、「どうやるか」=HOWについては、プロの知恵をいやというほど見せてくれる、それが会場づきのスタッフさんたちです。逆に、打ち合わせの席上で、「そういうことをやりたいのなら、こんな風に作るのはどう?」と、アイデアをどんどん出してくださる方もいらっしゃいます。なるほど、そういう手があるのか、とびっくりさせられたり。ステマネをやっていて、この会場との打ち合わせ、というのも、色んな舞台の作法を勉強することができる、充実した時間です。

また、もし本番会場の舞台裏などを見学させてもらえるようなら、絶対に見せてもらっておいた方がいいです。合唱団員さんには、この場所に待機してもらって、ここから入場してもらって・・・といったシミュレーションをする上で、現場を目で確かめる以上の情報はありません。

  • 練習見学、団員さんにご挨拶

人によっては、当日やGPの時に初めて団員さんの前に現れて、「僕がステマネです!」と挨拶される方もいらっしゃるようですが、私はなるべく、本番の直前練習に、2回以上は足を運ぶようにしています。
団員の方々にちゃんと顔を覚えてもらう、ということ、それと、演奏曲の雰囲気だけでも把握すること、が目的です。
もちろん、会場打ち合わせで判明した懸念事項などを、主催者や、指揮者の先生と相談する場にも使います。場合によっては、団員さんに注意事項を連絡することもあります。
団員の方が、「この人に相談すれば、どんなことでもきちんと答えてくれる」と思ってくださるように、信頼感と安心感を与えることが大切。そうすることで、団員の皆さんが演奏に集中できるわけですからね。

  • いよいよ当日

当日、朝に会場に入ってからは、自分が事前に書いたタイムスケジュール通りにコトが進んでいるかどうか、絶えず目配りをしていくことになります。

でも、自分の考えた段取りにこだわりすぎるのは厳禁。その場に行かないと分からないことや、トラブルはいくらでもあります。その時、ステマネに求められるのは、一瞬の判断です。ひな壇を10センチ前に出すか、とか、ピアノの位置をあと1センチ動かすか、など、非常に細かいことも、誰かが「決め」ないと前に進みません。演奏者と相談しながら、「では、これで決めます!」という声を上げ、舞台上をバミる(ビニールテープで位置にマークをする)のは、ステマネの仕事です。つまり、最終決定権は、全て、ステマネの手に委ねられているのです。
時間が限られていますから、後で、しまった、と思うかもしれないけど、とにかくその場でどんどん決めて、前に進んでいくしかない。失敗したら、後でフォローすればいいのです。
この「物事を決めていく」プロセスが、ステマネの腕の見せ所ですし、やりがいの一つにもなります。その時々に、的確な判断をし、分かりやすくはっきりした指示を出すことで、団員さんにも、「この人に任せておけばいい」という安心感が与えられます。そうすれば、団員さんも演奏に集中できる。

全ては、いい演奏のための努力です。中でも、リハーサルのタイムキープは非常に大事です。指揮者の先生や、ソリストの気分によって、想定していたリハーサル時間が守られることは滅多にありません。大抵の場合は長引きます。でも、指揮者の先生の直前の指導ほど、合唱団にとって大事なものもないのです。「時間がないので、切り上げてください!」と練習中に声を上げる、なんてことは言語道断です。指揮者の先生の様子をうかがいながら、一瞬のスキに、そっと、「あとxx分です」と耳打ちする。指導の様子を見ながら、ここで切り上げるよりも、もう少し時間をあげた方が、演奏の質があがる、と思えたなら、後の段取りを素早く計算して、どの程度の時間なら大丈夫か、見極める。そのあたりの判断が一番大事。

私の場合、時間が余ったら、なるべく客席で演奏を聞いてあげるようにしています。ただ、そうやって聞いていると、備品の位置とか、舞台裏の段取りとか、他のことが気になってしまって、客席を出たり入ったり、舞台裏に行ったり出てきたり、どうしてもウロウロしてしまうんですよね。これは本当はやってはいけないことです。団員さんの気が散る原因になりますから。
客席に座って聞くならずっと聞いている。舞台裏にこもるならこもる。動きたくなったら、曲の合間とか、休憩時間とかを見計らって動く。いずれにせよ、団員さんの集中力を殺がないよう、かつ、舞台上で起こっていることに常に集中する、というのが、リハーサルの際のステマネの基本作法です。


次回は、本番開始から終演まで。(まだ続くのかよ)