さくら学院の閉校に寄せて~みんなが他の誰かの笑顔を祈っていた世界~

さくら学院が8月31日に閉校。29日に開催された中野サンプラザでのラストライブと、31日に開催されたそのライブビューイングに参戦。この奇跡のような学校が眠りにつく瞬間をしっかり見届けることができました。

このグループのことはこのブログに何度も取り上げてきたし、色んな視点から論じてきたけど、ツイッターに溢れた惜しむ声の数々や、父兄さん達の涙ながらのコメントや、卒業生たちの感想なんかを見て、この学校がどれだけ奇跡的な存在だったのか、というのを改めて実感させられました。関わった人たちの全てがひたすらに感謝を捧げるグループなんて他にある?

中でも、閉校の日の翌日に放送された、2018年度卒業生の新谷ゆづみさんのラジオ番組「新谷ゆづみのひとりゴト。」では、涙ながらに父兄(さくら学院のファンのこと)への感謝を語る新谷さんにこっちも思わずもらい泣き。その中で新谷さんが、父兄の方々がどれだけ優しい人たちだったか、というエピソードとして、コンサート会場の外で急な雨に降られた新谷さんのご家族の方に、傘を差しだして立ち去っていった父兄さんの話を紹介していて、父兄さん達を含めてこのグループを中心にした世界って、本当に優しい世界だったんだなって改めて思いました。

でもねぇ、関わった人たち皆が優しい気持ちになる原動力は、やっぱりさくら学院の生徒さん達のピュアなひたむきさだったと思うんです。プロのパフォーマーを目指す小中学生が、賢い子供なりに計算したプロのあざとさを演じていたとしても、どこかで素の性格が見えてしまうもの。生徒さんのそんな素の魅力を嫌味なく引き出す担任の森ハヤシ先生の鋭い人間観察眼も手伝って、レギュラー番組のfreshマンデーでは何度も生徒さんのピュアな感情があふれ出す瞬間を見ることが出来ました。課題をクリアできなくて思わず流す涙や、ライバルでもあり、支え合う仲間でもある生徒さん達の激しい感情のぶつかり合い。でもそんな素の感情は、パフォーマンスの質を上げていく、という明確な目標に向かっていてぶれることがない。目標に向かって真っ直ぐにぶつかっていく10代の少女たちのピュアな素の想いを浴びてしまえば、浮世の塵芥に汚れきったこちらの心も洗われて、色んな人に優しくしなけりゃって襟を正す気持ちになっちゃうんだよねぇ。

そういう生徒さんの素の思いに対して、アミューズのスタッフ陣である職員室の先生方は決して妥協をせず、プロのクオリティを求め続ける。ここでゴールを下げて妥協することだって出来ると思うのに、それをしてしまうと生徒さん達の未来の可能性を損なってしまう、というぶれない想いの強さ。駄作が一切ない楽曲のクオリティ、魅力的な楽曲の世界観と生徒さんのキュートさを最大限に引き出すMIKIKO先生の振り付け、毎年最高クオリティを更新する生徒さん達に、さらに「前の年度を超える」という目標を掲げ続ける和音先生の指導。プロのパフォーマーになること、ではなく、日本最高峰のスタッフが作りあげ、歴代の卒業生が磨き上げてきた歌やダンス、という高い壁への挑戦を通して、スーパーレディという理想の人間像に至るための「努力する姿勢」をたたき込む教育方針。

さくら学院は最後までその軸を曲げなかったと思います。閉校が決まってからも1年間、コロナ禍の中でできる限りのパフォーマンスを様々な試行錯誤を重ねながら実施していった誠実さは、父兄さん達に対するよりも、生徒さん達の未来に対する職員室の誠意だったと想う。10周年、しかもラストイヤーというずっしりと重い一年を担うことになった8人の生徒さんに、慰めの言葉ではなく、「この最後の年を自分たち8人が任されたのだという自覚を持て」と言い切れる指導者の誠意と、生徒さん達への信頼と愛の深さ。そしてそれに全力で応える生徒さん達の覚悟。

そして何より、この学校に関わった人たちの優しさの源泉は、この学校が生徒さん達の「今」のために存在するのではなくて、「未来」のために存在している、という立ち位置だったんじゃないかなって思います。プロのパフォーマーの育成学校、という初期の設定をゼロクリアした杉崎寧々さんの存在が、スーパーレディとは「笑顔で幸せになること」(by森先生)なのだ、というパラダイムシフトを起こして以降、学院に関わる人たち全てが、生徒さん達が笑顔で幸せになれる未来を願うようになった。さくら学院に関わった人たちの優しさは、皆が、自分の幸せや欲望の充足ではなく、生徒さんのパフォーマーとしての成功という商業上の成果でもなく、ひたすらに生徒さんの幸せや笑顔を祈る所から生まれてきたのじゃないかな。生徒さん達の未来の笑顔を祈る思いは、生徒さん達のご家族の笑顔を祈る思いへ広がり、さらに生徒さん達が卒業後に関わった素敵なパフォーマーさん達の笑顔を祈る思いや、同じように生徒さんの笑顔を祈る父兄さん仲間の幸せを祈る想いへとどんどん増幅していく。そんな気持ちで生徒さん達や父兄さん仲間に接している人たちが、優しくならないわけがない。

さらに、そんな父兄の思いを本当にピュアに返してくれる生徒さん達の誠実さ。冒頭の新谷さん初め、プロのパフォーマーとして活躍している方々は勿論、目標にしていた看護師になったことを報告してくれた杉崎さん、夢見ていた職員室の先生になれた磯野莉音さんは、「夢は叶う」とか、「想いは届く」なんていう夢物語を現実のものにしてくれた。そしてラストライブで、田中美空さんが、「父兄さんの笑顔が見たくて、それが楽しくてさくら学院をずっとやってきた」と言ってくれた時、誰かの笑顔を、幸せを祈る思いって、何倍もの自分自身の幸福感になって返ってくるんだなぁって、またものすごく大切なことを10代の女の子に教えられた気持ちになりました。

多分、一度生まれたこの「誰かの笑顔を祈る気持ちの連鎖」っていうのは、さくら学院が閉校してしまった後も簡単に失われることはないんだろうなって思います。父兄さんは皆、36人の卒業生達一人一人の笑顔をこれからも祈り続けると思う。自分の欲望を満たすためなら、人が泣いても不幸になっても気にしない、なんていうのが当たり前の時代に、他の誰かの笑顔を祈り続けることができるっていうのは、本当に幸福なことだと思うんだよね。そしていつか、眠りについたさくら学院が、また再び目を覚ます日がくることを信じていたいと思います。誰かの笑顔を祈り続けることの幸せを、幼い真っ直ぐなひたむきさで沢山の人たちに教えてくれる新しい天使達が降臨するその日まで。