さくら学院 Road to graduation 2018 ~未完成だからいいんだ~

さくら学院2018年度最後のライブ、さくら学院Road to graduation2018に参戦してきました。今日、調布で見たライブビューイングで色々再確認して、まずはその速報的レポート。結局2018年度は、新谷さんと麻生さんがドラマを作り、日高さんに支えられた一年だったなぁ、というのが一番の感想なんだけど、さらに言えば、永遠に成長し続ける、常に未完成であり続けるこのグループの魅力を、色んな意味で再確認した現場でした。


開演前の中三ずのアナウンスから、3人がとてもリラックスしている感じが伝わってきて、とにかく何事もなく無事にこの日を迎えられたことにまずはホッとする。実は結構奇跡的なことだと思うんですよ。毎年の卒業式に、誰一人欠席者がいないというのは。それだけ、職員室の先生方や生徒さんのリアル父兄さん達含めた学院全体が、この日に向けて、メンバーの体調管理含めてしっかり準備してきている成果だと思う。


一曲目の「目指せスーパーレディー」では、メンバーの一人一人が本当に楽しそうで、この曲は自己紹介ソング、という意味づけだけじゃなくて、メンバーの個性を解放するための呪文のような役割を果たしてるんだな、という気がしました。途中の出席を取るシーンで森先生が後半、白鳥さんのところで噛んじゃったのはメンバーもびっくりしてたみたいだけど、でもそれを笑顔で乗り越えてしまうメンバーの楽しそうな雰囲気に癒されてしまう。


「Hello! Ivy」も本当にのびのびしたパフォーマンスで、これが卒業公演だということを忘れてしまうような楽しい雰囲気。多分こういう温かい空気感が、2018年度の空気感なんだね。リラックスした雰囲気のMCの後の「Fly Away」、「Fairy tale」も、いつも通りの全力のパフォーマンスと完璧なフォーメーションダンスで、このグループのポテンシャルの高さを見せつけられる感じ。


続いて、今年の歩みの映像が流れて、この辺りから、今日が特別な日だ、ということを示す演出が徐々に加わってくる。美術部の「C’est la vie」の、新谷さんの桜の胸章や卒業生の名前を映し出した映像。そしてその後、帰宅部sleepiecesの「すいみん不足」「めだかの兄妹」がパフォーマンスされたのは本当に興奮しました。麻生さんが参加した唯一の部活動、最後にパフォーマンスさせてあげたい、という職員室の思いも伝わったし、日高さんを参加させてあげた配慮も素敵だったし、それにしっかり答える日高さんのパフォーマンス力の高さにも感動。8年間の歴史の中で、12人でしかできない名曲がたくさん積み上がってきて、部活動に割く時間がなかなか確保できないのじゃないか、とは思うのだけど、少人数のユニットだからこそ学べることもたくさんあると思うので、やっぱり部活動という試みは続けて欲しいなぁと思います。購買部のコントでは、吉田さんがちょっとだけテンパった瞬間があったけど、それでも笑えるってのはこのコンビの安定感だねぇ。「ピースde Check」も本当にかっこよかった。


中三3人のMCに続いての中三曲、「clover」は、初めて舞台で観たんですけど、曲調の昭和っぽさから想像していたのとちょっと違って、perfumeを思わせるかなり現代的な振り付けが付いていて、そのギャップも面白かった。この辺りから、もう麻生さんの感情は決壊寸前だったみたい。


「未完成シルエット」のパフォーマンス中に、麻生さんが決壊してしまったのは、ご本人としては悔しい事かもしれないけど、見ていた側としてはそれが胸をぎゅっと掴まれてしまった瞬間で、私の周囲の父兄さんもこの辺りから目頭を押さえる人たち続出でした。涙のせいで一瞬音程が狂ってしまった麻生さんが、その後の「Jump up」でも何度か咳き込んでいて、それを気遣う仲間たちとのアイコンタクトでまた涙。そのJump upの途中で、野中ここなさんが途中退場するトラブルもあり、この辺りから、みんな最後まで顔笑れ、というドキドキも重なって、見る側の感情ミルフィーユがどんどん重なっていく。(と言いつつ、野中さんの退場は、本当にいつ退場しただろうと思わせるほど自然で、昨年の新谷さんの退場のような見事な所作でしたが。)その後の「My graduation toss」で、麻生さんが見事に立ち直った伸びやかなソロを聴かせてくれてホッとして、麻生さんのチェシャ猫が見れた「スリープワンダー」で、ああ、これも麻生さんへのプレゼント選曲だなぁ、と思う。


その「スリープワンダー」で、「足についた泥を見つけて」の箇所で麻生さんのソロが飛んでしまう、というトラブルがありました。でもそんなミスが出るのも無理のないことで、今年のフォーメーションになって今回が初披露なんですよね。昨年やっているとしても、歌割りは全然違う。こういうトラブルというのは、パフォーマンスとしての完成度、という意味では明らかな瑕疵で、完璧なパフォーマンスを届けたい、という目標を掲げる生徒さんたちからすれば、ものすごく悔しい事だとは思います。前述の野中さんの途中退場もそうだし、美術部の「C’est la vie」の途中で、下手側、森さんに当たるはずのスポットが点灯しなくて、一瞬森さんの周囲が真っ暗になってしまった、という機材トラブルも含めて、今回の舞台に悔しい思いはたくさんあると思う。でもね、それが一期一会の舞台というものだから。常に未完成であるからこそ前進できるし、常に最高であり続けることができるのだから。2012年度の卒業式DVDがあれだけ感動的なのは、あのパフォーマンスが完璧だからではなくて、中元すず香さんが、込み上げてくるものを必死にこらえながら振り絞っているギリギリの感情表現が、時に破綻しながらも見る者の心をガンガン揺さぶってくるから。そういう意味では、今回の舞台は、2012年度のあの感じに匹敵する一期一会の感動をくれた、最高の舞台だったと思います。それを産み出した1つの大きな要因は、間違いなく麻生さんだったと思う。一階席の前から7列目、という良席で見ていると、麻生さんの実声がマイクを抜けて、ずん、と客席に届いてきて、PAを通した声とハウリングを起こすような瞬間が何度かあって、そんな感覚は他のメンバーの歌唱では感じることはできなかった。BABYMETALのライブで、すぅさんの声にそういう感覚を感じたことがある。やっぱり麻生さんは、中元すず香の後継者だったのかも、と思ったり。


気迫を込めて立て直した「約束の未来」、そして、ラストの「Carry on」は、麻生さんの感動的な曲振りMCと、さくら学院のライブでは珍しいスモークを使った透明感ある照明含め、深化したさくら学院の表現ステージを見た気がしました。なんか、BABYMETALの「starlight」の舞台を見たときのような浮遊感があった。


卒業証書授与式でもそうだったけど、全体を通して、感情が溢れ出してしまう麻生さんと新谷さんが、パフォーマンスの不安定要因になるところを、日高さんが常にしっかりと歌とダンスを支えている姿があって、日高さんがこの年度を支えていたんだな、と改めて思う。観客の心を揺さぶるのは、むしろ抑えきれない感情が漏れ出してしまう麻生さんや新谷さんの表情なのだけど、それでパフォーマンスが破綻しなかったのは、日高さんや中二の支えがあったおかげだと思う。そんな中二に対して、答辞の中で、新谷さんが森さんにかけた、「自分だけで抱えないで人をもっと頼って」という言葉が本当に素敵で、そこまで顔笑ってた森さんがそこで号泣してしまった姿にもらい泣き。他の在校生にかけた言葉も、1つ1つが的確で、この人はメンバーのことを本当によく見てたんだなぁ、と思った。


そして、倉本校長と森先生の答辞に、さくら学院はやっぱり教育の場なんだな、と再確認。「君たちはスーパーレディになれる。なぜなら君たちは、さくら学院で学んだのだから」という倉本校長の言葉、「さくら学院は成長期限定ユニットだけど、僕自身が学院祭の脚本で成長させてもらえたし、こんなおじさんでも成長できる、人間は生きている限り成長期、だから君たちはずっと、さくら学院生なんだ」という森先生の言葉が、胸にガツンと刺さりました。


旅立ちの日に」から「See You」という流れは卒業公演のラストの鉄板なんだけど、鉄板の流れだからこそ、それを揺らがせる不安定要因としてのメンバーの感情がはっきり見えて、それが胸アツ要因になるんだね。ここでも麻生さんと新谷さんが感極まっている中で、日高さんの安定感が際立つ。その日高さんが、唯一言葉を詰まらせるように感情を見せたのが、最後のあいさつで、「何度もさくら学院を辞めようと思った」という日高さんの言葉には、我々の知らない様々な葛藤や感情がこもっていた。日高さんというのは、色んな意味で自分がマイノリティであることの居心地の悪さ、みたいなものに悩んでいる感じがあって、それを乗り越えようとする、人には見せない葛藤があったのかもしれない、と思います。自分が15歳の時に、これだけの自我との会話と決断を迫られるような瞬間があったかなぁ、と反省してしまう。


2018年度の三人の魅力は、こういう感情の揺らぎを人にさらけ出しながら、それでもパフォーマンスの質を維持できる意志の強さで、それは日高さんだけでなく、感情が噴き出してしまう新谷さんや麻生さんも、その感情の奔流に必死に耐えながら、高いパフォーマンスを維持するだけの心の強さと高い能力を持っている。今の中二ーずには、自分をさらけ出すことへの躊躇があったり、さらけ出してしまった自分をコントロールする器用さが欠けている感じがあって、そこを是非突破して欲しいんだよね。厳しい言い方だけど、去年の卒業式時点の新谷、麻生、日高の方が、今の中二ーず四人より総合力が上回っているのは間違いない。でも、中二ーずの強みは、一人一人の総合力は弱いかもしれないけど、一人一人がそれぞれの得意分野を持っていること。森さんの企画力や毒舌、有友さんの美しさとお笑い、吉田さんの地方組をまとめる温かさ、藤平さんのパフォーマンス力。新谷さんが森さんに告げた、「自分で抱え込まないで人に頼りなさい」という言葉は、中二ーずの四人みんなに送った言葉かもしれない、なんて思います。


正直、一番推しの麻生さんの卒業で、このまま2019年度もさくら学院の現場通いを続けるか、ちょっと迷いがあるのも事実です。一番推しの卒業と共に現場を離れる父兄さんも多いと聞くけど、見ていてちょっと不安な感じの抜けない中二ーずの四人の成長物語を一年間見守るのも面白いかもな、とは思う。なんかね、ここでしばらく離れてしまったら、成長のプロセスを同時体験する、という、このグループのくれる宝物を逃してしまうような気もするんだよね。もうしばらく、沼の中で様子を見ていたい気がします。何より、中二ーずには、多分2019年度の鍵を握る、有友さんという推しがいるからなぁ。