さくら学院 Summer LIVE 2020~舞台芸術は絶対負けない~

今日は、昨日、KT Zepp Yokohamaで参戦した、「さくら学院SummerLive2020~放課後アンソロジー君と見た夏色桜花~」の感想書こうかな、と思ったんですけど、なんか胸つかまれて心も身体もテントウムシのジェットコースターに乗せられて超音速でぶんぶん振り回されたみたいな体験で、なんかちゃんと振り返られる感じがしないんですよねぇ。生徒さん達のこのステージにかける思いとか、しばらく見ないうちにすっかりレベルアップした表現力とか、次々に投下されるサプライズとか、初めて生で見た今年の新曲とか、もうどこを切り取っても輝いていない瞬間がない時間で、本当にこんなにキラキラしている学校があと1ヶ月で閉校してしまうなんて、この世界のばかやろーって気分になっちゃうんだよなぁ。

かつてのスタンディングライブ同様、舞台後方にさくらのエンブレムのバックドロップを落としただけのシンプルな舞台。シンプルなので、生徒の皆さんの身体表現がそのままダイレクトに客席に伝わってくるのがこのセットの魅力なんだよね。学院祭や卒業式のように、舞台セットを使った立体的な位置取りもなく、舞台後方にセットされた大型モニターで生徒さんの細かい表情を確認することもない。平場で移動する生徒さん達の身体だけで描かれるMIKIKOダンスのフォーメーションと、生歌声を含めた個々の表現だけの勝負。これが、舞台上に8人しかいない、ということを忘れさせるくらいのダイナミズムで、10年目のラストイヤーを構成する8人の身体表現が本当にスケールアップしていることに心底感動。

数々あったサプライズの中でも、個人的に涙止まらなくなったのは、美術部のパフォーマンスと「アイデンティティ」の復活でした。野中ここなさんが転入してきた2018年度の美術部は、森萌々穂さんという人のパッションと新谷ゆづみさんとの絆が生み出した部活動で、EHAMICさんの科学部を思わせるキュートで哲学的な楽曲が大好きでした。その新谷さんのパートを野中さんが引き継ぎ、森さんのパートを、同じくお嬢様ポジションの佐藤愛桜さんが引き継ぎ、小さかった野崎結愛さんが3人を部長格として引っ張る。本当に、いつまでもこの衣装で踊る3人を眺めていたいって思った時間だったなぁ。

自分が「アイデンティティ」を初めて聞いたのは、原曲じゃなくて日髙麻鈴さんのギター弾き語りだったんですよ。なんていい曲なんだろうって思って、原曲を聴いたらこれがプログレを思わせる大人のサウンドを持った名曲で、一瞬で大好きになりました。10周年記念誌でも生徒さんの人気が集まっていた楽曲だけど、これは小中学生が歌うのはちょっとハードルが高いんじゃないかなぁって思ったし、なかなか復活は難しいんじゃないか、と思ってた。

今回、8人がこの曲を復活させることができたのは、2019年から2年以上紡いできた8人の絆と成長があったからこそだと思います。コロナのおかげで1年間で新しいチームを作り上げることはできなかったけど、その分、8人の絆は間違いなく成長したんだな、というのを、ものすごく分かりやすい形で見せてくれた名曲の復活でした。

そして何より今回のライブで印象的だったのは、生徒さん達以外の方々の全力のパフォーマンスだったんだよね。自分にとっては完全にレジェンドだった田口華さんと磯野莉音さんのサプライズ参入は呆然としたけど、しばらく芸能界を離れていたはずの磯野さんの舞台上での半端ないオーラと、田口さんの一切手抜きのない全力のダンスには本当に感動。上体を後ろにそらせながら腕を振る田口さんの身体が描く弓なりの曲線が本当に美しかったんだ。そして客席の興奮を煽る清野茂樹さんの熟達の実況。

中でも一番興奮したのはなんといっても照明の凄さ。BABYMETALのBUDOKAN10DAYSでも思ったんだけど、最近ライブが出来ていないことで溜まった想いを全部ぶつけているような、生徒さん達の躍動する身体を見事に彩る芸術的な照明。オトメゴコロの冒頭で生徒さん達を赤く染めたスポットの効果(そのスポットの立ち位置に完璧にスタンバイする生徒さんの位置取りも素晴らしかった)、バックドロップに開いた光の花、そして「アイデンティティ」で生徒さん達を星空の中に踊らせた浮遊感。

自分が関わっているアマチュアのオペラ舞台とかで、照明や大道具をプロのスタッフさんにお願いすることがあるんです。基本プロの方々なのでビジネスライクに段取りを確認していくんですけど、そういうスタッフさんのスイッチが突然入る瞬間があるんですよね。なんか急に子供みたいに目を輝かせて、「この曲いいねぇ」とか、「この演出面白いねぇ」みたいな感じでスイッチが入る。照明さんって特に舞台を異世界に変貌させてくれるアーティストさんなので、「この曲で思いっきり馬鹿馬鹿しくやって欲しいんですよね」なんてお願いすると、目の奥にメラっと炎が上がる瞬間がある。「思いっきりやっていいんだね」みたいな。

そういうスイッチが入る瞬間って、演出意図とか説明している企画側の熱量が伝わった瞬間だったりするんです。この舞台、この曲の中で、こういう世界を作って欲しいんだ、ここで客席の度肝を抜きたいんだ、この舞台を成功させたいんだっていう気持ちが伝わった瞬間に、裏方さんのハートに火がつく。

今回のさくらのライブ、スタッフさん達のハートに火をつけたのは、多分間違いなく生徒さん達のこのライブにかける強い強い思いの炎だったんじゃないかなって思います。自分が着席していたのが一番下手側の端の席だったので、脇の通路をスタビライザー付きのハンディカメラを操るカメラマンさんが駆け抜けることが何度かあったんですけど、このカメラマンさんたちも全員が、この瞬間を記録しなければ、という使命感のようなものを背負った緊張感に満ちていた気がする。途中、何度も長く長く続いて鳴り止まなかった拍手の大きさも、父兄さん達がこのライブに注いだ想い、生徒さん達の想いの共鳴の響きでした。スムーズで全くストレスを感じなかった入場誘導のスタッフさんを含め、そんな生徒さんと父兄の想いにプロの技で応えてくれた舞台を支えた裏方の方々の一人一人に、本当に感謝です。舞台芸術が辿っている長いトンネルの出口がまだまだ見えない中で、昨日のライブで見せつけられたプロの仕事は、トンネルの出口の先に待っている明るい明日を確信させてくれました。さくらの生徒さん達の未来もきっと明るく輝いていると思います。あの「アイデンティティ」のミラーボールの光より、もっとずっと強い光でキラキラ輝いていた8人だもの。