「遥かな友に」動画アップのこと

先日開設して、過去のサロン・コンサートの舞台動画などをアップしていたYouTubeチャンネル。現在は、先ほどこの日記にも書いた、ソロ・リサイタルの第二回目をアップするべく、動画編集にいそしんでいる所ですが、その前に、ちょっと新しい挑戦をしてみようか、とトライしたのが、9月初旬にアップした下記の動画。この動画制作のプロセスなどを、裏話風に。

youtu.be

配信チャンネルを作ったのは、ソロ・リサイタルも延期になったコロナ禍のもと、舞台表現を続けてきた人間として、何かしら発信を続けていかないと、という危機感からでした。GAG公演のコンテンツも尽きてしまって、さてどうしようか、と思った時に、自分の企画の舞台動画を公開する、というアイデアと共に、自分のオリジナル小説の朗読コンテンツ、というのを思いついた。

配信動画を制作するプロセスで、どうしてもネックになるのが、著作権です。一過性の舞台であれば、無料公演である限りはそれほどナーバスになる必要もないのですが、GAGのメインコンテンツである朗読シリーズは原作があるので、著作権のことを気にしなければいけない。不特定多数の人たちにコンテンツを公開したい、となれば、著作権を気にしないでいいオリジナルの作品が一番よい。

そう考えると、自分自身、小さなお話を書き綴るのが好きで、書き溜めた小説もいくつかある。これを朗読するコンテンツを公開すればいいんじゃないか、と。

昔から少し思っていた夢の一つで、自分が書いた小説の朗読舞台の上演、というのがあって、でもどう考えてもお客様を呼ぶことができないなぁ、とやる前からあきらめていました。そもそも朗読舞台自体、そんなにお客様が呼べるイベントではない上に、誰も知らない素人の書いたお話の朗読舞台にだれが足を運んでくれるか、と。

そう思ってあきらめていた夢が、配信チャンネル、という形で実現するかもしれない、と思って、ちょっとワクワク。今まで書いた短編小説の中で、朗読、というよりも、ちょっと一人芝居的な感じでパフォーマンスできる「遥かな友に」というお話を選びました。

このお話は、2010年にニューヨークに赴任していた頃にお世話になった、ニューヨーク混声合唱団での経験をもとに書いた連作のうちの一つです。ちょうど東日本大震災が起こった直後で、自分自身の色んな鬱屈した思いが淀んでいるねっとりしたお話が多い中で、この「遥かな友に」は、当時のニューヨークでまだ生々しく残っていた911の悲劇の傷跡と、それを癒す音楽との出会いを描いて、自分なりに思い入れもありました。ところどころに、今までやってきた合唱経験の中で、団員さんから聞いた色んな言葉も思い出しながら書きこんでいたりします。

知り合いに、合唱譜面からピアノ演奏を即興でやってもらったり、買ったばかりのコンデンサーマイクを使ってみたりしながら制作した手作り感満載の素人動画ですが、一つこだわったのは、途中編集なしの一発録りでやる、ということでした。どこかでライブ感を残しておきたい、と思ったんですが、これが結構大変で、結局10回近く録り直しを重ねた最終形が、アップロードしたものになっています。

聞いてみれば、やはり朗読のプロの方とは全然違う素人臭さ満載ではありますけど、あの頃ニューヨークで感じた、911という悲劇が、普通の市井の人の人生を突然断ち切った、という生々しい思いを、少しでもお伝えすることができれば、と思います。

あとは、やっぱりこういう配信チャンネルって、視聴くださった方々の反応が見えないのが不安ですね。いいコンテンツだと再生回数がぐんぐん伸びるんだろうけど、こんな地味なコンテンツだとそういうわけにもいかないし。

でも、それなりに面白い試みでしたし、自分自身の朗読スキルを試す、という意味でも面白かったので、この配信チャンネルでは、舞台動画だけでなく、こういった朗読パフォーマンスもアップしていければ、と思っています。経験値と共に、クオリティも上げていければ、と思いますので、温かい目で見守っていただけたら嬉しいです。