何かと何かが出会う所に新しい何かが生まれるんだよなぁ。

久しぶりの投稿、昨日開催した自分の制作ユニット、Galleria Actors Guild(GAG)の公演を終えての感想。今回の公演では、テーマにした「Long Absence」(長い不在)という言葉が、色んな出会いから生まれて、そしてまた、色んな出会いを生み出してくれた気がしています。今回はそんな「出会い」のことをつらつらと。

原宿にある、お洒落でとても響きのいいホール、hall60(ソワサント)での公演でした。

 

最近のGAG公演では、15年続けている「南の島のティオ」朗読のパートと、歌曲のパート、という2つのパートを組み合わせてお送りしています。南洋の小さな島を舞台にしたこの池澤夏樹の短編集の朗読と、どんな歌曲を組み合わせるか、この「組み合わせ」というのも一つの「出会い」なんですよね。

今回の朗読で取り上げた「ホセさんの尋ね人」は、ファンタジックなお話が多い「南の島のティオ」の中でも、魔法や不思議が出てこない真っすぐな人生ドラマ。かつて愛した人の帰りをひたすら待ち続ける切ないこの物語に対して、女房が歌う英米歌曲のパートは、以下のようなセットリストでした。

 

「The desire for Hermitage (世捨て人の願い)」Samuel Barber

「Little Elegy (小さな哀歌)」Ned Rorem

「Early in the morning (ある朝 早く)」Ned Rorem

「Love in the Dictionary (辞書における愛)」Celius Dougherty

「Sallie Chisum remembers Billy The Kid

(サリー・チザムによるビリー・ザ・キッド追想曲)」André Previn

「Love (愛)」Ned Rorem

 

私も初めて聞く曲ばかりだったのだけど、これが「ホセさんの尋ね人」という物語にとてもしっくりくる曲ばかり。静謐な孤独、もう失われてしまった輝く思い出、「愛」の深さ、温かさを歌う曲のどれもが、前半の朗読物語の余韻とうまくまじりあって、ご来場くださったお客様の多くの方々が、「前半の物語の雰囲気と歌曲がしっくりきた」と言って下さいました。

でも、今回の選曲のメインになった「サリー・チザム」は、今回の伴奏ピアニスト田中知子さんが、「大津はこれを歌うとよいと思う」と勧めてくださったのが始め。西部劇のアンチ・ヒーローとして名高いビリー・ザ・キッドとの交流を懐かしく思い出すサリー・チザムの回想。女房も全然知らない曲だったそうなのですが、名ソプラノ歌手バーバラ・ボニーのためにアンドレプレヴィンが作曲したこの曲を聞いて、「これは『ホセさんの尋ね人』と組み合わせるといい」とピンと来たんですって。田中知子さんがこの曲に出会って、田中さんが女房に出会って、そして女房に勧めてくれなかったら、今回この企画そのものが成立してないんですよね。

何か新しいものって、まったくの無から生まれることってほとんどなくて、そこまで積み重ねてきた何かと何かが「出会う」所に生まれるんじゃないかなぁっていつも思うんです。そういう「出会い」を設定するのが優秀なプロデューサーだったりするんだろうなって思ったりする。「この作曲家とこの歌手を組み合わせるのか」とか、このコンセプトの融合がすごい化学反応起こしてるよなぁ、とか、色んなパフォーマンスを見るときに感じることって多いですよね。「出会い」が新しいものを生み出し、世界を動かしていく大きな原動力になっていく。

今回、「ホセさんの尋ね人」と「サリー・チザム」に共通するテーマとして、「Long Absence」なんていいよね、と女房と話し合って決めました。今ここにいない人を待つ思いも、もう二度と会えない人を懐かしむ思いも、その前提になっているのは、「会えない」という不在。

でも、今回の公演では、昔私が所属していた合唱団の団員さん達との十数年ぶりの再会といった、嬉しい出会いが沢山ありました。「Long Absence」というテーマの公演の客席で、長い不在を埋めるように交わされている笑顔の数々を眺めていると、自分達が提供しているエンターテイメントそのものが、人々との「出会い」を生み出す大切な「場」なんだなぁ、と改めて思ったりもしました。オンライン配信ライブではなかなか生み出すことができない「出会い」の場。そんな機会を生み出す時間や空間を、これからも細々と作っていけたら、と思います。