山出愛子の覚悟、麻生真彩の宿命

さくら学院を語る時に、多くの人がテーマとして取り上げるのが、組織におけるリーダー像。毎年、その年度の「生徒会長」というリーダが選ばれる=毎年グループのリーダーが変わる、というこのグループにおいては、生徒会長を中心とした生徒会のカラーが、その年度の個性になる。結果として、各年度が、それぞれ全く異なる個性と魅力を持った別のグループとして形成されていき、それにも関わらずやはり間違いなく「さくら学院」であり続ける、という、このグループ固有の変化と再生の物語が継続していくことになる。

各年度の個性を形成するのが、その年度の生徒会であり、その生徒会を束ねる生徒会長である、というのは、さくら学院の場合、かなり実質的に機能している気がする。商業ベースのアイドルグループが、形ばかり、名ばかりの学校ごっこをやっている、というのとは明らかに違っていて、各年度の生徒会の役員たちが、自分に与えられた役割をしっかりこなしていこうという自覚を持ち、周りのスタッフがその責任をしっかり負わせている様子が、そこかしこから伝わってくる。オリコンデイリーDVDチャートで1位をとるような経済的成果を生み出すグループの責任を、中学三年生のリーダーに任せる、という、なんという冒険的なビジネスモデル。

そういう責任感や自覚を負わされた過去の生徒会役員の中で、私がどうしても比較したくなるのが、山出愛子麻生真彩。自分がひいきにしている二人だ、ということもあるんだけどね。今日はこの二人を、リーダーシップ、という観点で比較して論じてみる中で、今年の中三3人、新谷ゆづみ、麻生真彩、日高真鈴という3人が、どうしてここまで安定感があるのか・・・ということについても考えてみたいと思います。

山出愛子、という人は、いい意味でも悪い意味でも、「さくら学院を背負わなければ」という覚悟を持った人だと思う。それは在校中だけではなくて卒業後もそうで、在校生の舞台に必ず顔を出す律義さ、さくら学院へのオマージュを加えたMVや、父兄を喜ばせるツイートの数々を見ても、山出さんが、これからもさくら学院を支え続けるぞ、という覚悟を持って芸能活動をしている思いがひしひしと伝わってくる。「さくら学院の卒業生として第一線で活躍する姿を後輩に見せ続けなければ」という気迫のようなもの。それはたぶん、「BABYMETALでさくら学院を有名にしたい」と言い続けていた水野由結さんの思いを受け継ごうという気迫。

その覚悟と気迫が、彼女自身のパフォーマンスのクオリティを高いレベルに成長させていく原動力であることは間違いなくて、シンガーソングライターとして生み出している作品にせよ、透明感と伸びやかさを持った歌声にせよ、在校中のダンスパフォーマンスの正確さにせよ、「私が引っ張っていくんだ」というエネルギーに満ちている。もともとの美貌と美声もあって、熱狂的な愛子ファンが生まれるのも当然。そして一方で、その強烈な気迫と覚悟が、さくら学院父兄の一部の中に、アンチ愛子、といえるような反発を生んだのも確かだと思う。「絶対的エース」たらんとして、そして実際にすべてのパフォーマンスで他を圧倒し牽引する存在になった山出愛子に対して、他の個性が圧死させられてしまうのじゃないか、という不安感。

そういう彼女の個性が目に見えて現れたのが、2017年度卒業公演の「Let's Dance」で、ドキュメンタリーにもあった通り、山出さんが、「ここまでキメるの?と思うくらいにキメていかないと、2015年度は超えられない」と挑んだダンスパフォーマンスは、まさに一糸乱れぬ完璧なダンスで、日体大の集団行動を見せられたような感動がある。でも、2017年度の「Let's Dance」を見たあとで、2015年度の「Let's Dance」を見ると、整然とした、とはとても言えないパフォーマンスが、各人の個性と魅力にあふれていて、この、全体に荒ぶる感じが一つのダンスとしてまとまっていく魅力っていうのは、2017年度にはなかったなぁ、と思ってしまう。どちらがいい、ということじゃなくて、個性としてね。

そういう、森先生すらおびえる「コワイ山出」への反発が如実に出たのが、岡田愛さんとの対立構図で、歌声、という点でどうしても山出さんを超えられない劣等感と、自分に対するプライドの高さが、相手をリスペクトしながらどうしても反発してしまう岡田さんのキャラになっていて、2017年度の生徒会の一つのカラーになっていた。でもこの二人の対立構図が、大人の思惑もあるのだと思うけど、生徒会の中で一つの「ネタ」として扱われることで、山出愛子という絶対的エースの暴走やほかの個性がつぶされてしまうリスクが緩和されていたのだと思う。岡田さんが「目安箱クイーン」と言われるほど後輩からいじられたのは、そういう弱さを持った岡田さんのキャラが、完璧であろうとする山出さんの圧力を緩和する休憩所として機能していたことの証左だと思う。

こう書くと、あんたもアンチ愛子の口かい、と思われるかもしれないけど、私はむしろ逆で、中学二年生くらいからそういう覚悟を持って芸能界に身を置いている山出さんが、本当にカッコイイと思うし、その覚悟を実践していく実行力にも感動します。それに単純に、あのちっこい身体からほとばしってくる「表現したい」という思いや、温かい歌声、彼女の産み出すシンプルで美しいメロディーと素直な歌詞が好きです。「コワイ」なんて言われるけど、あの温かい歌声や、すぐ泣いちゃう感情の起伏含めて、山出さんってとてもまっすぐで情熱的な人なんだと思う。山出さんには、在校生の希望の星でいてほしいし、今みたいな活動をしっかり続けていけば、確実にどこかでブレイクスルーが起こる。本当に頑張ってほしい卒業生の一人。

さて、そしてもう一人のリーダー、私の推しの麻生さんですよ。麻生真彩さんも、元父兄としてのさくら学院愛、負けん気の強さ、そして何より、絶対的な歌声と高いダンスパフォーマンス、トーク力の高さ、という万能型の才能で、第二の山出愛子になる可能性があった。入学直後のLoGirlで、「みんなが私の号令通りに動いてくれるから、日直やってる時が一番楽しい」と言っていた麻生さんが、「コワイ麻生」として後輩を引っ張っていく可能性はあったし、麻生さんには十分、山出さんと同じくらいの覚悟と自覚があったと思う。

そんな自覚の一つの背景になったのが、入学直後から父兄さんによって背負わされた期待、あるいは宿命のようなもので、それはすなわち、「中元すず香の後継者」という評価。外見が似ている、というのもそうだけど、なんといってもそのパワフルで貫通力のある歌声と、長い手足を存分に活かしたはじけたパフォーマンスが、今でも時々すぅさんを彷彿とさせるのだね。実際、今年度のWonderful Journeyで、「つまらない顔しないで」という部分が、オリジナルの中元パイセンの歌い口と声色にそっくりなパワフルさと弾けっぷりで、やっぱりこの人は生まれついてのロックシンガーだなぁ、と思った。カリスマ生徒会長だった中元パイセンから直接お手紙までもらって、「すぅさんみたいになりたい」と思っていたご本人にとっても、「中元すず香の後継者」というのは、彼女なりに背負った十字架だったのだろうなと思う。それってご本人にとっては、夢、でもあるだろうけど、それなりの重荷でもあっただろうと思うし、生徒会長に指名されずにトーク委員長に指名された時の涙には、すぅさんの後継者、という重圧から解放された解放感のようなものもひょっとしたらあったかもしれない。

麻生さんが、そんな自分の背負った宿命から解放された要因というのは、トーク委員長というポジションももちろん大きいけど、ちょっと抜けたところもある麻生さん自身の温かいキャラクターと、そして何より、新谷生徒会長のおかげだったんじゃないかな、と思う。麻生さんや日高さんのような高い歌唱スキルを持たず、ダンスも転入当初から苦手だった、という新谷さんは、間違いなく麻生さんの高いパフォーマンス能力をリスペクトしているだろうし、むしろ自分は少し引いたところで、麻生さんが先頭に立ってのびのび個性を発揮する場所を空ける謙虚さを持っていたと思う。一方で、新谷さんは、卓越した演技力と、たゆみない努力で、これも間違いなく麻生さんのリスペクトを勝ち得ていた。

2018年度の生徒会を見ていて、本当に安定感がある、というか、3人のバランスがいいなぁ、と思うのは、3人がお互いの能力を認め合い、リスペクトしている様子がすごくよく見えるから。歌唱力とダンスパフォーマンスのレベルが高くて、かつ自分の世界観をしっかり持っている日高さん。万能パフォーマーなだけじゃなくて、状況に対する対応力や周囲への気配りがしっかりできる麻生さん。努力する背中を後輩に見せながら、温かい目線や言葉で人を包み込み、時折はっとするような美しさと迫真の演技を見せる新谷さん。

この三人のパフォーマンスレベルの高さがあって初めて、かなり個性的で我が強い中二の四人の尊敬と敬意を勝ち取ることができた、それが2018年度の全体のクオリティの高さにつながっている気がする。三人がそれぞれ完璧ではない、それぞれに「イジリがい」のある天然キャラを持っていて、その個性がバランスするところで生み出される高度なパフォーマンス。山出式の一人の圧倒的なリーダが「パーフェクト」を目指して牽引していくやり方だと、中二の四人の個性がここまで引き出せたかどうか。2018年度のパフォーマンスは、2017年度の一糸乱れぬ感じとは少し違って、決めるところはびしっとキメながら、一人一人の個性が思い切り発揮されている荒ぶる感じもあって、2018年度がいろんなところで、「史上最高」と言われる一因になっている気がする。それぞれの演者が自分の個性をのびのび発揮できるからこそ、Wonderful Journeyとか、トロピカロリーみたいな群像劇型の楽曲が復活できたんだと思う。もちろん、2017年度には2017年度の魅力があって、ある意味メンバーの間にあった一種のバランスの悪さを、必死に乗り越えていく個々の七転八倒、みたいなところにドラマと魅力があったんだけどね。

仲間の信頼とリスペクトのおかげで、自分に背負わされた宿命から解放された麻生さん。そののびのびしたパフォーマンスで、来週の「ぼっちでマンデー」も思いっきり楽しんでくれるといいな。そしてこの経験を活かして、その笑顔をもっと輝かせることができる約束の未来へ向かって進んでくれたら、本当にいいな、と思います。