METライブヴューイング「メリー・ウィドウ」を見てきました。

今日は家族三人で、銀座の東劇に、METのライブヴューイング、ルネ・フレミングの「メリー・ウィドウ」を見てきました。ネット上の「女女女」を見て、娘が、「こんなちゃんとした『女女女』は初めて見るから、全編ちゃんと見たい」という。


東劇のエスカレーターで。娘撮影。妙に左肩が重いと思ったら。

舞台活動の原点がオペレッタである自分にとっては、もう思い入れというような単語を超えて全曲が身体に染み付いている作品。現在のブロードウェイミュージカルの隆盛の原点を作ったこの作品が、現代のブロードウェイとMETのコラボレーションでよみがえる、というのも感慨深いものがあります。

アメリカらしい明快さとテンポの良さ、パフォーマンスの質の高さは文句なしなんだけど、ヨーロッパのオペラハウス公演で醸し出される腐敗臭というか、人生の黄昏に気づく愛の意味、みたいな深みはあまりない。でもそれがアメリカ流の分かりやすさで、今まで気づかなかったこの作品の基本構造みたいなものが結構見えたりして面白かった。田舎者たちがパリで一生懸命無理してるけど、やっぱり故郷が懐かしい、なんていう文化衝突みたいな側面とか。


ダンスのキレの良さとか、セットや衣装のクオリティの高さはもう脱帽です。

ルネ・フレミングのゴージャス感、ネイサン・ガンの安定感も素晴らしかったのだけど、実は一番印象深かったのは、ツェータ男爵を演じたトーマス・アレン。我々が若い頃のトーマス・アレンといえば、晋友会の伝説のベルリンでの「カルミナ・ブラーナ」のソリストをはじめとするオールラウンドのバリトン歌手で、「こうもり」のアイゼンシュタインの茶目っ気とヴェルディ・レクイエムなどの宗教曲のソリストで見せる知性のバランスが見事に取れた素晴らしい歌い手でした。


娘の言う、「ちゃんとした『女女女』」でのトーマス・アレンとネイサン・ガン。実にスタイリッシュ。

久しぶりに見たトーマスアレンはすっかり枯れたおじいさん。でも茶目っ気の中に気品を保った品格のある存在感は抜群で、浅薄さもちらつくアメリカンエンターテイメントの中で重厚な欧州の歴史と成熟を感じさせました。彼がいなかったら、これはウィーンオペレッタではなくて、単なるミュージカルになってしまっていたかもしれない。こんな風に年をとれたらいいね、と、女房と話しながら、帰宅して思わず、家にあった晋友会の「カルミナブラーナ」のDVDを見なおしてしまった。娘は初めて聞く曲のカッコよさに圧倒されたようだけど、女房は昔懐かしいバブルファッションや合唱界で有名な顔を合唱団の中に見つけて興奮したりしてました。しかし何度聞いてもこの演奏は神の領域だなぁ。


1989年の「カルミナ・ブラーナ」でのトーマス・アレン。本当にいい歌い手さんです。