二期会チャリティーコンサート〜幸福なコラボレーション〜

昨夜、新宿文化センターで開催された、二期会のチャリティー・コンサートを聞きに行ってきました。新宿文化センターが長年続けてきた、「新宿オペレッタ劇場」と、二期会の一種のコラボレーション・ステージ。非常に幸福なコラボレーションの場に立ち会った気がしました。
 
ソプラノ  赤星啓子 里中トヨコ 林正子
メゾ・ソプラノ 板波利加 小畑朱実
テノール 大間知覚 福井 敬
バリトン 成田博之 与那城敬
ピアノ 谷池重紬子 河原忠之
 
という布陣でした。

前半は、二期会お得意の、一線で活躍されているソリストの方々の、オペラのレパートリーを聞かせていく舞台。冒頭、赤星さんのアデーレのアリアで、いきなり、伴奏の河原さんのピアノに驚愕する。行く前から、女房から、「河原さんのピアノは、本当にすごいよ」と言われてはいたのだけど、ウィンナ・ワルツの洒落っ気を、全く技巧的に聞こえない自然さで、さりげなくかもし出してしまう熟練の伴奏。谷池さんのピアノもパワフルで、オーケストラの厚みを感じさせる素晴らしい伴奏陣。

この練達の伴奏陣に支えられて、二期会の今をときめくスターたちが次から次へとその技を競う。これは聴き応えがありました。さすが、公演プロデューサの近藤政伸先生の人脈の厚さ・・・でしょうか。

中でも圧倒されたのは、やっぱりこの人、福井敬さん。実は、我々家族、ちょっと早めに会場について、近くのハンバーガーショップで早めの夕飯をとっていたんですが、そこに先にいらっしゃっていたのが福井さん。女房と二人して、完全にミーハー状態になって、「福井さんだ、福井さんだよ。何注文してる?」なんてどきどき見てたりしたんですが、普段姿からきりっとしたかっこいい方です。

前半の最後に、「誰も寝てはならぬ」を歌われたのですが、パワフルな谷池さんのピアノが完全に背景に隠れてしまって、福井さんの声がまさに、会場全体を包み込んでしまう。声量だけじゃない、会場全体の空気を自分の手元に引き寄せてしまうようなオーラ。女房が、「他の歌い手さんだったら、聴衆が身を乗り出して、表現したいことを『取りに』行ってあげないといけないような感じがするんだけど、福井さんは、言葉から感情から、表現したいことの全てが、こちらの膝元に届いてくる感じがする」と言っていました。現場にいた人なら、この感覚がすごく理解してもらえると思う。

後半は、まさしく、新宿オペレッタ劇場と二期会のコラボレーションステージ。新宿オペレッタ劇場が過去上演してきた数あるオペレッタの埋もれた名曲から、選りすぐりの作品を、二期会のトップスターたちが歌ってくれる。この中でも、やはり、福井敬さん、小畑朱実さん、林正子さんの日本語歌唱の素晴らしさに感動。近藤先生も、司会役から、いきなり歌い手として歌いだした「女、女、女」で、その見事な日本語さばきを披露してくださいました。他の歌い手さんたちも、うっとりさせる美声と見事なステージさばき。歌もさることながら、どの出演者の皆さんも、舞台にしつらえた控えコーナーのソファーでの立ち居振る舞いの美しいこと。

後半のオペレッタステージでは、新宿オペレッタ劇場ならではの、構成と演出の妙も味あわせてもらいました。選曲の見事さもさることながら、遊び心一杯の照明、さりげなくお洒落な振り付けや、進行を邪魔しない粋な演出。まさに、新宿オペレッタ劇場支配人、八木原良貴の本領発揮。

近藤先生も、「今回の舞台には、私と、八木原さんと、二人のプロデューサがいるんです」とおっしゃっていましたが、実際、新宿オペレッタ劇場というソフトを育て、蓄積してきた新宿文化センターという場と、二期会、というソフト集団が、非常に幸福な出会いをしたステージ、という感じがしました。新宿オペレッタ劇場にご出演の経験もある近藤先生の橋渡しがあった、としても、やはり、新宿文化センターという場所が、長期間にわたって、新宿オペレッタ劇場という形で新しいオペレッタのソフトを蓄積してきた、その歴史があってこその舞台。

そういう意味では、やっぱり「継続こそ蓄積」だし、「蓄積は宝」なんですね。現実の新宿オペレッタ劇場は、私も先日、合唱の一員として参加しましたけど、本当に手作りの舞台です。スタッフは手弁当だし、舞台裏のあちらこちらで、低予算の中で必死にやっているなぁ、という感じがします。でも、そういう恵まれない環境の中でも、日本に知られていないオペレッタの名曲を紹介する、という使命感を持って、ここまで続けてきた成果が、二期会という大御所とがっぷり四つに組んでも全く見劣りしない充実した舞台に結実していた。そんな気がします。

近藤先生という橋渡し役を得て、二期会と新宿オペレッタ劇場が、とても幸福なコラボレーションを魅せてくれた、本当に楽しい舞台でした。八木さん、続けてきて、ほんとによかったね。この舞台を経て、新宿オペレッタ劇場が、さらに大きく飛躍していくことを期待したいし、応援していきたいと思います。