二つの日常

半年に一回ある定例の経営会議が日本であり、10日間ほど日本に出張しておりました。大変ご無沙汰してしまいましたが、ちゃんと生きております。本日帰米いたしました。

面白いなぁ、と思ったのは、日本に帰ったら帰ったらで、調布の日常生活に戻った、という感覚があり、NJに戻ったら戻ったで、NJの日常に戻った、という感覚があること。これって別に、日米、という距離を考えなければ、単身赴任しているお父さんに共通の感覚かもしれないね。自分の日常が2つある、という感覚。

そういう感覚が世界的に広がってくると、そこにコスモポリタニズムみたいなものが生まれてくるのかもしれないし、逆にどういう「日常感覚」のようなものを、どの土地に暮らしても得ることができない人が、カミュの異邦人のような違和感を常に感じながら生きていくのかもしれない。そういう意味では、日本でもNJでも、自分の場所、といえるような住み心地のいい場所を見つけられた自分っていうのは結構幸せなのかもしれないね。

今回の帰国でのインプットはいろいろあったのだけど、とりあえずだらっと並べてみましょうか。

まずは映画。おなじみの、機内映画です。日本に戻る便の中で、「のだめカンタービレ」後篇、「Inception」「X-Men」を見ました。「X-Men」はほとんど時間つぶしだったんだけど、のだめとInceptionは結構楽しめたなぁ。のだめはそのまま素直に感動したし、Inceptionはかなり構造が複雑だったけど、それを力技で押し切った感じがあって面白かった。

次は、本。今回、なんとなく思い立って太宰治の短編集を持って行ったのだけど、これが面白い。富嶽百景とか、女生徒、とか読んだあとに、走れメロス、なんか読むと、そうか、走れメロスの主題っていうのは、約束を守ったメロスの強さにあるのじゃなくて、途中で約束なんかどうでもいい、と投げやりになるメロスの弱さにあるんだ、なんてことを今更ながら思ったりする。太宰って永遠なんだなぁ。

そんなことで、ちょっと昔に読んだ本をまた読み返してみたくなって、藤沢周平の「よろずや平四郎活人剣」とか読み返してみたりする。やっぱりいいなぁ。一緒に読んだ高橋克彦の浮世絵ミステリーよりよっぽど味わい深い。基本構造は用心棒日月抄の焼き直しだったりするんだけど、もっと余裕とユーモアがある感じがしてそれが好き。

めったにない経験をしたのは、帰米便。時刻通りに成田について、ゲートでのんびり待っていたら、「機材故障が見つかった」というアナウンスがあり、いつ出発できるか目処が立たない、なんて言い出す。ええ、と思っていたら、「次の状況連絡は19時30分になります。ミールクーポンを差し上げますので、それまで空港内でお待ちください」なんて言い出す。カウンターで、1000円のお食事券をもらって、空港内のレストランで軽く食事を済ませ、ゲートに戻り、またしばらく待っていると、「成田空港の営業制限時間内に、故障個所の修理ができる目処が立たなくなりました」というアナウンスで、「本日の便はキャンセルとさせていただきます」と言いだす。おいおい。

ホテルの手配をするのでそのまま待て、と言われ、仕事のある身としては、他の便に切り替えることはできないのか、なんて聞いてみたりしたのだけど、結局、この便がキャンセルになるわけではなく、翌朝一番に離陸できることが分かり、他に切り替えるよりはその方が早い、と考え直す。空港会社が手配してくれた成田近くのホテル日航成田に宿泊。

チェックインをすると、夕食券と朝食券をくれる。さっきミールクーポンもらって空港内でメシ食っちゃったよな、と思いつつ、なんとなくもったいない、と、中華レストランに行って定食を食べてしまう自分が情けない。結局、18時発予定だった飛行機が翌朝9時に出て、15時間遅れでの帰米となりました。そのまま軽くシャワーを浴びて午後から出社。夜遅くまで日本とのテレコンに参加して、10時過ぎに帰宅。寒さはこちらの方が一段と厳しいけれど、またもう一つの日常が、何事もなかったように始まっております。