お医者さんも選ばれる時代

どうも春先からずっとノドの調子が悪い。特に右側に何かしら違和感があり、咳や声枯れの症状がずっと続いている。家庭の医学、なんてのを読むと、声帯ポリープだのなんだの怖い病名が並んでいるので、不安は募る。というわけで、会社の近所の耳鼻科に行って、ファイバーで声帯を覗いてもらいました。

自分の声帯を見るのは初めてだったんですけど、別にまぁ、普通の声帯です。時々TVの科学番組なんかで出てくる声帯と一緒である。あのオペラカーテンみたいなやつですよ。お医者さんが、「声帯の少し手前のところにちょっと傷があるから、これが違和感の原因だね」とおっしゃって、「悪いものじゃないですよ」とおっしゃる。ちょっと安心。

どうすれば治りますかね、と聞くと、原因は何だろうね、という話に。耳鼻科の先生が、「胃液が逆流したりすることない?」と聞く。別に最近そういうことはあんまりないんだけど、「まぁ、もともと胃が弱くて・・・」と言うと、「それだよ、それ。逆流性嚥下障害だね。胃腸薬出しておくから」と。

言われてみれば、確かに逆流してきた胃液にむせたりすることもある気はする、とは思ったのだけど、耳鼻科に行って胃腸薬を貰う、という結論がどうしても釈然としない。一応、処方された胃腸薬は真面目に飲んでみたのだけど、二週間たっても症状は一向に改善しない。胃弱、ということなら、いつも胃カメラを飲んでいる内科の先生に相談した方がいい気がする。ということで、かかりつけの内科の先生に受診してみる。

耳鼻科の先生の診立てを説明すると、「逆流性食道炎?」と言われる。ちょっと病名が違うな。「でも、気管をファイバーで除いただけで、そんな診断しちゃダメだよ。ちゃんと食道を胃カメラで覗かないと」と言われて、結局胃カメラを飲むことになりました。耳鼻科の先生は相変わらず、「症状は改善されないねぇ。とりあえず胃腸薬を飲み続けてみて」とおっしゃる。胃腸が原因、ということなら内科の先生が専門だろう、と判断して、耳鼻科にかかるのをやめて、これからは内科の先生にかかることに決める。

身内にお医者さんがいるので余計に分かるのだけど、お医者さんにはやっぱり得意分野、というのがあります。内科の先生の中でも、呼吸器・循環器・消化器、それぞれの専門分野で勉強してきた経緯があって、それぞれの得意分野がある。これだけ医療分野が広範になってくると、ある程度細分化した勉強をせざるを得ない。私のかかりつけの内科の先生は、やたらと人に胃カメラを飲ませたがるんですが、どうも、消化器系が専門の内科医さんなんですね。

耳鼻科の先生は、私が悪性腫瘍に怯えていることを見抜いてらっしゃって、心配いらないよ、ということをちゃんと伝えてあげることを主眼に、診断してくださった感じがします。傷が悪化しないような予防のための投薬をしながら、自然治癒を待とう、というスタンス。これはこれで診断のあり方だと思う。

なので、どちらかの医者の診断が間違っている、とか、判断ミスだ、なんていうことを言いたいわけじゃありません。よく、セカンド・オピニョン、と言う言葉を聞くけれど、同じ症状でも、お医者さんによって診立てが異なってくることはあるし、同じ病気でも、どういう治療方法を選ぶか、というのは、お医者さんによってかなり変わってくる。それを称して、「あのお医者さんは名医だ」「あのお医者さんはヤブだ」なんてことは、一概には言えないと思います。病気に対する治療法に絶対的な正解なんていうのはない。それがある、という幻想が、「医療過誤」だの「医療ミス」だのの不毛な議論の根底にある気がします。

要するに、相性、なんじゃないかな、というのが、私なりの結論だったりする。ある症状に対して、ある病名と治療方法が提示される。それが自分に合っているかどうかは、患者さん自身が判断すること。絶対的に正しい、唯一無二の治療法、なんていうのはなくて、お医者さんによって、治療方法が違うのは当たり前である、という前提に立てば、様々な選択肢の中から患者さん自身が、自分に一番しっくりくる治療法を選べばいい、という結論になるよね。

私の同僚で、子宮癌を患った方がいらっしゃって、病名が判明してから、3つほどのお医者さんに受診して、それぞれの治療法や説明を比較検討したそうです。結果として、彼女は、「Quality of Life(QOL)」の向上、ということをとても大事に考えてくれている、と感じたお医者さんを選んだ。手術にも成功し、術後の経過も良好で、今はバリバリ元気に仕事をしています。

もちろん、こういう風にして、「自分にあった医療を選択できる」というのは、東京という地理的条件のおかげだとは思います。複数のお医者さんにかかろうにも、医者そのものを探すのが大変、という地方は沢山ある。そういう環境の中で、医者の示す治療法が自分にしっくりこなかったとしても、別の手段を選ぶのは大変。

よく、「インフォームド・コンセント」という話が出ますけど、お医者さんの説明を理解するためにも、複数のお医者さんの説明を比較検討するっていうのはすごく役立つと思うんだよね。自分の病気のことを多面的にとらえることができるし。なんとかもっと、地方にいいお医者さんを増やす方法はないですかねぇ。お医者さんの人口密度を均一にするために、密度の高い地域に開業するお医者さんの税金を高くして、地方の過疎地に開業するお医者さんの補助金にするとかさ。なんだか無茶苦茶な話になってきたのでこのへんでやめよう。どうでもいいけどこのノドの痛みは治らんなぁ・・・