インド聞き書き 2題

何回かに分けて書いてきたインドのお話、今回で最後です。今回は、インドに関していろいろと聞きこんだ面白い話を2つほど。一つ目は、オカマの話。

私の会社の同僚が、ニューデリーでオフィスを開設しようとして、あるビルの一室を借りました。これがまた汚いビルで、ある日出勤してきたら、階段にサルが座ってて、人が上がってくるのを見て慌てて逃げてった。まぁそういう場所なんで何が起こっても不思議はあるまい、と思ってたそうですが、ある日、ノックの音がして、3人ほどの男性が入ってきた。

これが3人が3人とも、異様な格好をしている。どう見ても屈強な男性なのに、女性の民族衣装であるサリーを着て、女性のお化粧をしている。で、野太い声で、「金を出せ」という。オカマの泥棒じゃありません。「このビルで商売をするなら、我々ヒジュラにショバ代を払わないとダメだ。他の連中もみんな払っている」と言うんです。

日本でも、暴力団にショバ代を払わないと、路上で店を出したりできない、という暗黙のルールがあったりしますよね。その代わり、ヤクザさんたちは、色んな便宜を図ってくれたりする。でも、インドの「ヒジュラ」というのはもっと宗教色が強い存在なのだそうです。

彼らは普段、不可触賤民として忌み嫌われる存在。ただ、お祭りや、宗教的な儀礼の場では、神の宿る一族として尊ばれ、とても大事にされるのだそうです。柳田国男の著書「一つ目小僧その他」で、人身御供にされる村人が片目をつぶされるなどの「しるし」を身に着け、忌み嫌われながらも神事において尊ばれた、というのと同じ構造。従い、ヒジュラの民は、男性なのに女装したり、といった、普通の人とは異なるトッピな姿をすることで、自分がヒジュラであることを示すのだそうです。おもしれー。

2つめのお話は、新聞の日曜版のこと。

10年以上前、インドに出張に行った私の上司の話。日曜日、ホテルの部屋に届けられる新聞を手に取ると、ずしりと思い。60ページくらいある。なんじゃこりゃ、と思ったら、その半分以上が、「お見合い広告」だったそうな。

「当方、デリー在住、18歳の健康な女性。サイズは上から、89センチ、60センチ、90センチ」なんて記事が、写真入りでずらずら並んでいる。これがみんな可愛く撮れている写真で、「なんでこんな美人が、こんな広告出さにゃならんの」と思ったら、すべての記事に、

「当方のカーストはxx。yyのカースト、あるいは外国人の健康な男性を求む」

と書いてある。なるほど、と納得。

インドでは、自分のカーストにぴったり合う結婚相手を見つけるのが本当に難しいのだそうです。結婚相手の住んでいる場所に合わせて、自分の仕事を変える、なんてのは当たり前。そんなわけだから、新聞広告に見合い写真が一杯掲載される、というのは自然なこと。「現在でも、あんまり状況は変わっていませんね」と、Sさん。「だから、結婚式は本当に豪勢で、親族から村を挙げての大宴会になるんですよ。」

「そんな結婚式でも、日本みたいに、色んな段取りがきちんと決まっているものじゃないんですけどね。ただ大勢で集まって、わいわい飲んだり騒いだりしているだけ」なんだそうです。そういうSさんも、インドから日本に帰国しようとした時、「なんで日本に帰るんだ!インドが嫌いになったのか?」と言われて、「いや、嫁さんを探すんだよ」と言ったら、みんなすぐに納得してくれたそうな。ちなみに、外国人はカーストの外にいるので、どんなカーストの方とも結婚可能なのだそうです。それでいいのか。

インドの近代化はすごい勢いで進んでいて、IT大国、経済大国として確固たる地位を築きつつあります。そういう経済発展の只中にあっても、カーストに代表される伝統的な社会秩序と、ホーリー祭のような宗教儀式に代表される豊穣な精神世界が強固に保持されている。インドは本当に訳が分からない、でもその混沌こそが、インドの魅力の本質なのかもしれません。