インドそのさん〜ホーリー祭りはなんでもあり

出張の日程が決まってから、会合の相手先の会社に連絡を入れて、「3月15日にそっちに行くんだけど、ミーティング可能?」とアポイントを入れようとしました。そしたら、「その日はホーリーだから、会社はお休みだよ。」と言われる。ホーリーって何?

Sさんが、ちょっと青ざめた顔で教えてくれました。「ホーリーはやばいっすよ。観光客だろうが何だろうが、見境ないですからね。かなり危険です。」…で、何なの、ホーリーって?…ということで、ネットで調べてみると、こんな記述がありました。

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インドでは春の到来を祝うホーリー・フェスティバルが初春に行われます。むかし、昔、悪魔のような気性を持つ父親、ヒランヤ・カシャッパがおとなしく、心強き息子、プラハラーダーを自分のように強くさせたいと、父親の妹、ホーリーに息子を抱かせ、火にくべたのです。その結果、父親の意に反して、妹のホーリーは焼け死に、息子のプラハラーダーは生き残ったのです。真実を貫く、強き心を持つ人間は火で滅ぼす事は出来ないという訳です。ホーリー・フェスティバルでは、老若男女入り乱れて、赤、青、黄色と色とりどりの粉や色水をかけ合ってはしゃぎ回ります。祭りの前夜、ホーリカーと呼ばれる火が焚かれ、悪い物を火にくべて浄化する事で、良い物だけが残るのです。そうして人間が犯した罪を無くしてしまおうというのです。

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まぁよく分からないんですが、要するに、「3月の満月の日、前夜から街のあちこちでかがり火を焚いて、当日は町中で色つきの水や絵の具を塗りたくりあう」というお祭りらしい。「北インドでは街を挙げて大騒ぎになるお祭りですね。特にデリーでは街中大騒ぎだと思います。観光客とか、真っ先に狙われて、色水入りの風船とか、絵の具とかをなげつけられますから、外出するなら、汚れて捨ててもいい服でないとダメです。」と、Sさん。なんだってそんなお祭りが出張と重なっちまったんだ。「特に3月15日の午前中は、色塗りたくりのピーク時間ですから、午後から動きましょう。それでも、汚れてもいい服で動いた方がいいですね」ということで、用意しておいたボロいシャツを着て、お昼くらいに車で外出。

デリーという街は、お役所街と住宅街・商店街がわりときれいに分かれています。お役所街あたりは平穏で、別に普通の休日、という感じ。「でも、デリーで、こんなに車の数が少ないのは異常ですねぇ」とSさんが呟く。住宅街に入ってきたあたりで、ちょっと様子が変わってきます。至るところで、ものすごい鮮やかな原色の色の顔をした人たちが歩いている光景に出くわす。緑色、真っ赤、真っ黄色。髪は勿論、きているシャツも色とりどりの原色に染まっていて、どう見ても、色絵の具をぶつけられた感じ。午前中のピーク時間は過ぎたものの、まだお祭りの余韻は残っているらしく、街角で色粉をぶつけ合っている大人がいる。角を曲がる車めがけて、子ども達が色水の入った風船をぶつけてくる。五体満足な人はほとんどいません。

日本人駐在員の、Aさんという方のお宅にお邪魔すると、ちょうどAさんが、フィアンセの女性と一緒にホーリーに参加してきて、家でシャワーを浴びている最中でした。「どうでした?」と聞くと、「いや、楽しかったけど、やばかったです。」

「もう本気で色絵の具塗りたくってくるし、色粉ぶつけてくるし、みんな酒だのクスリだのやってラリってて、目の色違うんですよ。彼女が出て行ったら、『オンナだぁ!!』みたいな感じで、抱きついてくるわ、そこらじゅう触りまくるわ。良識あるインド人が、『お前ら、危ないから家に戻ってろ!』って言ってくれて、やっと解放されました。」

そんなことをおっしゃっているAさんの耳の穴には、緑色の絵の具がこびりついていて取れてない。街で売っていたホーリー用の色絵の具、というのを見せてもらいましたが、色の粉ですね。すごく毒々しい色です。

ホテルの部屋に入っていた新聞の1面は、「今年のホーリーは4年ぶりに雨になるかも!?」というのがトップ記事。本当に国を挙げてのお祭りなんだなぁ、と、その新聞を広げると、2面に、「ホーリーといえば、このスペシャルドリンク、バング(Bhang)がなきゃぁ!」と書いてあって、その飲み物の作り方が書いてある。色々混ぜる木の実だの果物だのが書いている脇に、「ここでガンジャを一つまみ」って書いてある。ガンジャの写真も出てる。ガンジャって何かって?大麻ですよ大麻。新聞に堂々と大麻入り飲料の作り方が書いてあるってのは何なの。

「みんなでホーリーを楽しもう!っていうんで、ホーリーの前日、学生に大麻を配った大学があるらしいです」と、駐在員の方がおっしゃっていました。もうなんでもあり。同じ新聞には、「バングの飲みすぎに注意しましょう」って書いてある脇に、「ホーリーの時の色絵の具には、天然素材のものを選ぶように政府が勧告を出しました」という記事が出ている。「従来使われている絵の具には、鉛などの重金属が含まれており、アレルギーなどの病気の原因になります」だって。そんなもん塗るなよ。

「インドは、厳然と存在しているカーストの規制など、国民が抑圧されている国ですから、政府としても、ガス抜きの効果を期待しているんだと思いますよ」と、Sさん。実際、日本のお祭りのように、組織だったイベントが行われるわけじゃなく、とにかく至るところで人々が色水ぶつけ合っているだけ、という、無秩序極まりないお祭り。でもその無秩序感、いい加減さがインドの魅力なんでしょうね。駐在員のAさんは、耳の穴を緑色に染めたまま、「来年はもうちょっと気合入れて参加します」と興奮気味に話していました。