雪の成人式の我が家

爆弾低気圧に見舞われた昨日の成人の日、振袖姿で頑張って街を歩いていたお嬢さんたち、その脇で大荷物を抱えてタクシー探して右往左往していたお母さん方、本当にお疲れ様でした。今年成人を迎える平成4年生まれの人たちっていうのは不遇な経験を重ねてきている、という評判で、バブルがはじけたその年に生まれ、幼児期には冷害でコメがなく離乳食に苦労し、高校の修学旅行はインフルエンザの大流行で自粛、高校の卒業式は震災に見舞われて大学の入学式も自粛、そして成人式は爆弾低気圧、という天中殺(古い)的な方々、とネットで評判のようですけど、普通に成長したもやしっ子たちより人の痛みが分かる人になれるんじゃないかなぁ、とひ弱な高度成長期の申し子おじさんは思う。

で、この成人の日、我が家はどう過ごしていたか、というと、私がどうしても仕事で都心に用があり、一方で娘が、METのライブビューイングを見に行きたい、と言い、女房はガレリア座の練習がある、という。では、娘と私で、新宿のピカデリーにMETライブビューイングを見に出かけ、そのあと、娘に、私の都心での用事に付き合ってもらおう、という話になる。こんな話をしていた朝のうちは、まだ外は普通の雨ふりで、まさかあんな猛吹雪になるとは想像もしていなかったんですが。

新宿のピカデリーでMETライブビューイングを上映している、というのは知っていたんですが、見に行くのは初めて。実は娘も女房も、映画館でのライブビューイングを以前に見たことがあって、「楽しいからパパも一度見てごらんよ」と言われていたのです。ホットドッグやらポップコーンやらを買い込んで、いざ劇場へ。

ライブビューイングの映像自体は、アメリカのTVでもしょっちゅう放送されていましたし、今ではWowWowで毎月放送されているので、舞台裏の映像やインタビュー映像なども見慣れています。でもやっぱり映画館の大スクリーンと高音質で見るのは全然違うね。ポップコーンむしゃむしゃやりながら見られるってのもいい。演目は「仮面舞踏会」で、プレゼンターがデボラ・ボイト。キャストは、グスターヴォをアルヴァレス、レナートがホヴォロストフスキー、アメリアがラドヴァノフスキー、オスカルをキャスリーン・キム、という布陣。演出は今時の現代風演出で、さほど奇をてらってはいない抑制的な演出。なので余計に、キャストの個性とアンサンブルの完成度が際立つ。ラドヴァノフスキーのアメリアも素晴らしかったのだけど、このオペラはやっぱりグスターヴォがどれだけ好青年に見えるか、というところで、悲劇性が高まる気がしますね。これを、割と普通のいい人、という感じのアルヴァレスがやるから、余計に彼の悲劇が際立つ気がした。

幕間のインタビューで演出家のアルデン氏が言っていたのだけど、グスターヴォは冒頭から無鉄砲に危険に飛び込んでいったり、あえて暗殺者に身をさらそうとしたり、破滅的な愛に身を焦がしたりする。その姿は自ら死を求めているような焦燥感に満ちていて、自らの国王としての地位に対して忠実でありながら、一方でその地位から逃れたい、自ら破滅したい、という自滅願望のようにも見える。民衆の愛に包まれ、親友の刃にかかって死ぬラストシーンは、グスターヴォにとって、自らの願望が成就した至福の瞬間としてとらえられるようにも見える。普通の好青年が、抱えきれない大きな地位と責任を得て耐えきれず、自ら命を絶つ物語のような。

一緒に見ていた娘は、幕間で劇場の客席が映るたびに、懐かしさでため息をついていました。METにはいっぱい通ったものね。そして何より、ホヴォロストフスキーにメロメロ。この覚えにくい名前は言えなくて、ただ「銀髪」と呼んでおります。「銀髪がかっこいい!」と、今日も学校で同級生に力説したらしいが、同級生には全く通じなかったらしい。まぁそうだろう。

さて、ライブビューイングを堪能して新宿の街に出てみれば、街は雪国と化しておりました。びっくり。すぐに紀伊国屋ビルから地下街に入るけど、都心に向かうJRが運休しまくっていて、地下鉄を乗り継いで目的地へ。用事のあったビルの窓の外で、雪がどんどん激しい吹雪に変わっていくのを眺めて茫然とする。夕方になって、ガレリア座の練習を終えた女房と合流、ゆっくり食事をしよう、と新宿駅前のかに道楽に行く。地上に一歩も出ないで店に行けるから、雪には無関係にぬくぬくと、かに三昧のお料理を楽しみました。


店内ではお琴の生演奏もありました。外人さんが喜びそうな内装だよね。

お琴の奏者が、「粉雪」を弾いていたのだけど、外は粉雪どころか大雪。女房も、駅から練習会場に向かうタクシーが坂を上れず、「ダメだ、お客さん、ここから先はお客さんだけで行ってくれ」、と、宇宙戦艦ヤマトの特攻隊のようなセリフを言われて途中で下されたそうな。夕方になって雪は小やみになり、京王線で調布までなんとかたどり着き、タクシーを捕まえる。こんな大雪でも、調布の駅前には同窓会を終えた新成人が集って、「三次会行く人〜」なんて声を上げていて、不遇の新成人、なんて言われてるけど、しっかりパワフルじゃん、と一安心した雪の成人の一日でした。