カブトムシのはみくん顛末記

お盆に、兵庫県の田舎に帰省した際、昆虫園を経営している親戚から、カブトムシをもらいました。カブトムシを放し飼いにしてあるビニールハウスのような小屋があって、沢山いる中から自分で取って来るのです。娘は、パパの腕をのしのし這い登ってくるカブトムシに、金切り声を上げて大泣き。それでも、1匹元気そうなのをもらってきて、おばあちゃん家でもらった虫かごに入れ、帰宅。早速、「はみくん」という名前をつける。

「とにかく長生きしないからね」と、おばあちゃんからも念を押される。そもそも、ひと夏しか寿命がないものだし、そんなに強い生き物でもない。虫かごの置き場所にも気をつけないとダメ。最近の家の中だと、蚊取り線香だのなんだのの色んな防虫剤がまかれているので、それだけで弱っちゃうんだって。従い、玄関先に置くのはあきらめて、ベランダに置こうか、と思うけど、ネットで見ると、「暑いところは苦手です」と書いてある。ベランダは日差しが強くて鉄板状態。これはまずいぞ。どうするんだ。

庭の木陰に置こう、と決めて、「でも、ネコとかにいたずらされるとやだしなぁ」とまた悩む。結果、少し日陰のところに生えている木の下枝のところに、バインド線で虫かごを固定して飼うことにしました。近所のスーパーで、昆虫用のゼリーを購入。娘は、大阪の海遊館で買ったペンギンのぬいぐるみの「ぺんちゃん」と合わせて、「五人家族になったね」と大喜び。

その後、1週間に2回ずつくらい、昆虫ゼリーを取り替えてあげるだけで、大した世話はしなかったのですが、この「はみくん」、自然に近い住環境が逆に幸いしたのか、予想以上に長生きしてくれました。庭の木にしばりつけてあるだけで、虫かごには当然隙間がありますから、小さなアリが入り込み放題。ヒドイ雨の日にはさすがに回収して、雨よけを施した上でベランダに置いたりしたのですが、いつのまにか1センチくらいのナメクジが5・6匹くらい虫かごの中に入り込んでいたり、極めてワイルドな環境。それでも、昼間は土の中にもぐっている「はみくん」が、夜になるともこもこ出てきて、昆虫ゼリーをむさぼっている姿に、親子して歓声を上げる日々が続きました。娘より、私の方が夢中になっていたかもしれん。

以前の金魚のことがあったので、娘にも、「はみくんはそんなに長生きしないからね」と何度も言い聞かせてあり、娘も、いつかは死ぬものだ、とは理解していたようです。毎晩、庭の虫かごを眺めては、「はみくん生きてる?死んじゃったかな?」というのが日課になっていました。カブトムシというのは思っている以上に力が強くて、引っかかり用の木とかをひっくり返してその底に潜っていたりしますから、「はみくんどこいった?」という所から始まります。かごを覗き込んで、木の下にじっとうずくまって微動だにしない姿を見て、「死んじゃったかな?」とつつくと、「なんだよぉ」という感じでもぞもぞ動き出す。それを確かめて、ゼリーを取り替えてあげる。アリがたかったゼリーを取り出したり、「はみくん」をつついたりすることができるのはパパだけなので、もっぱらお世話係は、パパのお仕事になりました。

3日前、いつものように土にももぐらず、表面でじっとしている「はみくん」を見つける。つついても動かず、とうとう、寿命をまっとうしたようです。もらってきてから3週間以上。思った以上に長生きしてくれました。娘は、虫の寿命について、頭では分かっていたのでしょうけど、実際に動かなくなってしまった「はみくん」を見て、またしてもぼろぼろ大泣き。「はみくんも、素敵なおうちで大事にしてもらって、幸せだったなぁって思っているよ」「一杯楽しい思いをさせてもらって、はみくんにありがとうって言おうね」と言いながら、「はみくん」の大好物だった昆虫ゼリーと一緒に、紙コップの棺に入れて、土をかぶせてあげる。あいにくの雨が続いたのですが、今日あたり、女房と娘でお葬式をやってあげられるかな。以前死んだ金魚の「ミニちゃん」と並んで、庭に小さなお墓ができるでしょう。

金魚にしても、昆虫にしても、小さな生き物で、人間が捕まえようと思えば捕まえられてしまうもの。テレビで誰かが、最近の昆虫ブームのことを評して、「バードウォッチングをする人は、鳥を捕まえないのに、昆虫好きな人は、虫を捕まえてしまう。自然を愛する、というのなら、自然の中に生きる虫を、そのまま大事にしてあげてほしい」ということをおっしゃっていました。その通りだよねぇ。虫かごの中で、交尾をすることもできずに一生を終えてしまった「はみくん」が、果たして幸せだったのかしら、とは思います。

娘は昨日、「5人家族だったのに、4人になっちゃったねぇ」としみじみ言ったそうな。娘の心の中には、これからも同じように、大小さまざまなお墓が並んでいくんでしょうけど、生き物との接し方、ということについて、段々と、相手の幸せを考えてあげられるように成長していってほしいなぁ、と、そんなことを考えました。