「フィールド 響き合う生命・意識・宇宙」〜般若心経ってやっぱすげえ〜

先日この日記に、「宇宙論とか好きなんだ」という文章を書いたら、友人のKさんが、「この本、面白いよ」と貸してくださいました。「フィールド 響き合う生命・意識・宇宙」。まだ読了していませんが、すごく面白い本。途中まで読んで、「これって般若心経じゃん」と思い立つ。

この本のキーワードになる、ZPF(ゼロ・ポイント・フィールド)についての記述を引用してみます。

量子力学が示すところによれば、まったくの「無」である真空などというものは存在しない。・・・量子論の主要な構築者のひとりであったウェルナー・ハイゼンベルグが発展させた不確定性原理によれば、いかなる粒子もまったくの静止状態に止まることはなく、あらゆる原子内物質と相互作用をしつづける基底状態のエネルギーフィールドによって、つねに運動状態にあることが示唆される。このことは、宇宙の基本的な構造が、既知のいかなる物理法則によっても消すことのできない、量子場の海であることを意味している。・・・・理論上、ゼロ・ポイント・エネルギーは普遍的に存在しているからこそ、なにも変化させない。なにも変化させないのならば、考慮するに値しない、というわけだ。」

この「基底状態のエネルギーフィールド」=ZPFを通じて、あらゆる存在は時空を越えてつながっている、というのがこの本の基本主張。その「つながり」あるいは「共鳴」によって、さまざまな超常現象を説明していく。サイキックや遠隔透視、未来予知など、各種のトンデモ科学が盛りだくさん。でもセンセーショナルではなく、あくまでジャーナリスティックに、「科学」の場所に踏みとどまった記述に終始しています。

でも、このZPFの記述を読んで、これって、まさしく般若心経が「色即是空 空即是色」と説いた、「空」そのものじゃないか、と思った。一切の目に見えるもの、心に感じるもの、形あるもの、形のないもの、一切を「無」である、と断じた上で、それら全ては「空」であり、「空」から一切が生じるのである、というのが般若心経の言葉。その般若心経は、仏教の根本経典ですから、仏教の基本は、この「空」にある。現代物理学の究極の議論が、仏教の根本につながってくる面白さ。

ある章で紹介されていた「ホログラフィー理論」が、以前読んだ「空像としての世界」のダイジェストになっていて、懐かしい気持ちになりました。ホログラフィーは、いかに部分を削除していっても、残った部分が全体を再生することができる。部分に全体の情報が包含されている。人間の記憶というのも同様で、脳の一部を切り取っても、記憶の全体は損なわれない(再生機構に障害が出るだけで、記憶自体はちゃんと保存されている)。このホログラフィーこそが、世界の構造を決めている原理なのでは、と提示した本。これも刺激的だったなぁ。

量子力学あたりから、何がなんだかよく分からなくなってきて、「一体何を議論してるんだ?」という感じがしてたんですね。モノはモノとして存在せず、観測者が観測したところでその存在を決める。あくまで確率論的な存在。シュレディンガーの猫(箱を開けるまでは、死んでいる状態と生きている状態が2分の1の確率で混在しているっていう、アレ)の話なんかを聞き始めたあたりから、ほとんどついていけなくなりました。でも、ある時に、「現代物理学の議論は、ほとんど宗教論争なんですよね」と、誰かが言っていたのを聞いて、そうか、と納得。世界の本質は何か、と分析することは、結局、世界観=宗教にどんどん近づいていくことなんだね。

ホログラフィー理論や、ZPF理論などを総称して、「ニューサイエンス」と呼んでいるようですね。こういうニューサイエンスの最前線で語られる世界観は、なんとなく健全な感じが好きです。もちろん、トンデモ科学に入り込んでいくとちょっと不健全になっていくのだけど、部分が全体を包含する、とか、共鳴、といった世界観、なんだか美しいイメージだと思う。般若心経のことを勉強した時に、何もないからこそ全てでありうる「空」という概念の美しさに感銘を受けました。それと同じような、美しいイメージ。そういう美しいイメージで世界を再構築していくわくわく感。本を貸してくれたKさん、ホントにありがとう。

何もない世界には、実は、ZPFというエネルギーの海が広がっている。何もないのではない、エネルギーに充ちている世界。そして、様々なものが共鳴しあっている豊穣な世界。と、ここまで書いて、またしてもあの方がおっしゃっていた言葉が思い出されました。この日記でも紹介した、あの宇宙人です。

「宇宙というのはね、昔は、真空で怖いものだ、と思っていたんですけどね。最近は、宇宙には色んなもの、原子や分子や、生命の源になるものが満ちているんだ、と思い始めました。そういう宇宙に愛されて、生命は生まれたんだと。」(谷川俊太郎

こういう肯定的な世界観、いいなぁ、と思う。