変わってほしくないもの その2

昨日、日記に池澤夏樹さんのことを書いたら、先日蔵こんでご一緒したクラリネット吹きのSさんが、「池澤さんとは家族ぐるみでお付き合いしていたんだよねぇ」とメールをくれて驚愕。Sさん、というのは、以前の日記で、そのご自宅の居心地のよさについて書いた謎の弁護士なんですが、池澤さんも謎だけど、この人も十分謎だよ。まだまだ世界には謎がいっぱいあるんだなぁ。わくわくしてしまう。

さて、今日は、午前中、新宿で打ち合わせ。打ち合わせがお昼までかかってしまう。新宿は昔の職場だったので、昔なじみの和食のお店に、お昼を食べにいきました。お店の名前とかをネットに出すのは、ご迷惑になると思うので、一応伏せておきます。

この店、甲州街道を少し代々木側に入った路地にある、小さなお店なんですが、実にいい店なんです。だんなさんが店の奥で、炭焼きで魚を焼いている。奥さん(みんな、「お母さん」と呼びます)はカウンターの中で、お客様の相手や、配膳をしている。とにかく魚がべらぼうに美味しい。一見さんお断りのお店なのですが、新宿で働いていた時に、上司に連れて行ってもらって以来、一週間に2日から3日は通っていました。お母さんにも名前を覚えてもらっていたのですが、職場が変わってしまって、もう3年くらい行ってない。覚えてくれているか、心配だったんです。

引き戸を開けて、顔を出したとたん、「あら、xxさん、お久しぶり」と、まるで数週間ぶりのような感じで、にこにこと迎えてくれました。達筆のメニューが壁に貼られているところも一緒。カウンターの向こうのお母さんは、少し痩せたような気もするけど、全然変わらない。店のたたずまいも少しも変わってない。ほんとに嬉しくなってしまいました。

お店の定番は、ぎんだらの味噌漬と、鯖の塩焼き。それに、季節の魚の焼き物、煮物。その中から選びます。さんまの塩焼き、かれいの煮付け、と並んでいるなかから、やっぱり定番を、と、今日は鯖の塩焼きをいただきました。脂が乗っていて焼き具合も完璧。骨まで全部いただける美味しさ。それにつけてくれる小鉢の一つ一つがとても気が利いている。栗の渋皮煮、というのが今の季節のお奨め小鉢なのですが、渋皮のついたままの栗を甘く煮込んで、しその葉の上に乗せて出してくれる。渋皮の渋みがすっかり取れて、ほくほくと美味しい。しその葉がまたそれに合う。脇にちょっと添えたちりめん山椒もぴったり。

お客様が多くて、お母さんはばたばたと忙しく、あんまり言葉を交わすことはできなかったのですが、変わらないたたずまいの中で、本当ににこにこと食事を楽しむことができました。新宿みたいに、街角の変化の激しい場所で、こういう隠れ家のような場所が、ずっと同じ表情で存在し続けている、というのは、とてもありがたいことです。「ご繁盛ですね」と声をかけると、「いつもはこうじゃないのよ。大変なのよ」と、全然大変じゃなさそうに、お母さんは笑って言いました。ほんとに、いつまでもお元気で、このお店を守っていてくださいね。