地方都市のあり方

週末、大船渡に行き、夏のコンサートの各種下準備。

コンサート会場となる、元酒蔵の「No.3 Gallery」をはじめとして、お世話になる方々に一通りご挨拶。No.3 Galleryでは、会場を下見して、設営の打ち合わせ。かなりイメージを固めることができました。
お会いした人たちや、色んなお話を通して思ったことをいくつか・・・
 

1.アーキジャムのIさんのお城

「No.3 Gallery」を運営してらっしゃるIさんは、アーキジャムという建築事務所を経営されています。アーキジャムの事務所は、No.3 Galleryのすぐそばにあり、昔、このGalleryが酒蔵として使われていた頃、会社の事務所として使われていた建物だそうです。この事務所がとてもよかった。
昭和40年代くらいによく見られた、普通の木造の質素な建物なのですが、この建物の中に、昔使われていたものが、実に上手に再生・配置されている。昭和レトロの香り漂う、とても居心地のいい空間。建築関係の雑誌が並んだ本棚は、古い本棚を横倒しにしたもの。ごみばこは酒蔵にあった手桶の古いもの。ソファの脇には懐かしい火鉢があり、部屋の奥には、なぜか機織り機があって、その脇の事務机には真っ赤なMACがある。それらがみんな、「ここが私の場所よ」という感じで、居心地よさそうに鎮座している。
Iさんご自身も、とても爽やかな美人で、この空間の中で活き活きと活動されている。エアコンなんかなくても、風通しがよくてとても過ごしやすい。蔵コンサートの打ち合わせが終ってからも、あまりの居心地のよさに、時を忘れて話し込んでしまいました。使い込まれた事務所の建物の温かさが最大限に生かされた、本当に素敵な空間。
これと同じような「居心地のよさ」を昔感じたことがありました。今回、蔵コンサートでご一緒するSさんご夫妻のお宅をお邪魔したときです。このご夫妻、クラリネット吹きの弁護士とシャンソン歌いの法律家のご夫婦、という謎の法曹夫婦なのですが、このお宅をお邪魔したとき、そのお部屋の趣味のよさ、雰囲気のよさ、居心地のよさに感動したのを覚えています。奥さんのお父様が職業画家、旦那さまのお母様もアマチュアながら各種展覧会に入選されている画家、ということもあり、美的センスが違うんでしょうか。
片や古い事務所をリフォームした空間、片や、都内のマンション、と、環境は全然違うんですが、共通しているのは、「居心地のよさ」。こういう居心地のいい空間を作る能力、というのも、簡単に身につくものではないんでしょうね。空間造型の能力、というか。才能も必要だし、努力も必要。子供の頃から育ってきた環境、というのも大きいでしょうし。
いい場所で、いい時間を過ごせたなぁ、と、本当にいい気分になって、Iさんのお城を辞去しました。

 
2.地方都市でのホール運営

女房がお世話になったピアノの先生や、合唱団の先生にご挨拶に回る中で、大船渡市に市民文化会館を作る計画がある、というお話を伺いました。予定されているキャパシティは1200人、とのこと。まだ計画中、とのことですが、ちょっと心配な話だなぁ、と思いました。
文化会館や博物館、というのは、いわゆる「ハコもの」行政の弊害がよく見えるものですよね。ワールドカップの時にボコボコ作られた地方のサッカー場の悲惨さほどではないですけど。
要するに、「ハコ」の中に入れるもの=「ソフト」を揃え、維持することができない、という問題です。ソフトを維持するには、大変な努力が、しかも継続的に必要です。できたばっかりの時にはお祭り騒ぎで盛り上がって、あとは閑古鳥、というのでは、ひたすら設備が老朽化していくばかり。そういう地方のホールって、沢山あるんじゃないのかなぁ。
1200人、というキャパは、でかいです。実際に舞台に立つと、この席を満席にした上で、隅々のお客様まで満足のいくものをお見せするのは、相当大変だ、と実感します。舞台装置だってかなり立派なものを持ち込まないとダメ。それだけのパフォーマンスを見せてくれるパフォーマーだって、そんなに沢山はいない。お話した合唱団の先生が、「300人のホールであれば、維持していけるけどねぇ」とおっしゃっていました。その通りだと思います。
簡単な例で言えば、歌手のリサイタル、という企画を立てたとする。300人のホールであれば、かなりの歌手が、「歌ってみたい!」と思うはず。そういう人を東京から呼ぶのは、それほど大きな費用は必要としない。伴奏だって、ピアノ1台でいい。でも、1200人のホールとなると、ソロリサイタルでホールを埋めることのできる歌手というのは、そうそういない。また、1200人のホールを鳴らせる歌手、というのもそんなにいない。伴奏だって、ピアノ1台じゃ物足りなくなる。オーケストラを連れて来る、ということになると、楽器の運搬、オーケストラ団員の移動運賃、練習会場確保などなど。莫大な費用が必要になります。
先日行った、代々木公園の近くの、Hakuju Hallというホールも、キャパシティは300人くらいなんですが、雰囲気のある、とてもいいホールでした。演奏会の企画も面白そうな企画が多く、運営もしっかりしている印象。1200人のホールで、演歌歌手のリサイタル以外は閑古鳥、というホールよりも、300人のホールで、小さくてもきちんと市民の発表の場として機能しているホールの方が、ずっと存在意義があると思います。
隣の町が1000人だから、うちの町は1200人、みたいなヘンな競争をするよりも、「隣は隣、うちはうち」という感覚で、じっくりいいホールを作ってほしいですね。それは、「ハコ」を作る作業ではなくて、そのハコを運営するスタッフを育てる作業なのだ、ということを、十分理解してもらえるといいのですが。
 

3.大船渡って、わりと・・・

美人が多いなぁ、と思いました。いや、女房が大船渡出身だからってノロケてるわけじゃなくてね。ごめんなさいね、話が急に低いところに行っちゃって。
でも実際、街で見かける若い女性に、すっきりした美人が多い気がしたんです。お会いした女性も、アーキジャムのIさんはじめ、皆さん爽やかな美人。ついでに言うと、若い男性もかっこいい人が多い。中高生くらいの女の子も、きれいな顔立ちの子が多い気がする。
なんでだろうかな、と女房とも話していたのですが、多分、原因は2つほど。

①お化粧がきれい。
最近、都内の若い女性は、妙に「汚い」格好をしている人が多くないですか?ラッパーやスノーボーダーの格好が基になってる気がするんですが、メイクとかもなんだかけばけばしくって汚い。でも、大船渡あたりの女性は、わりとお化粧が控えめで、素材のきれいなところだけをうまく強調しているような、清潔感のある女性が多い気がしました。

②ストレスが見えない。
東京というのは、普通に暮らしていてもストレスが溜まります。危険も多いから、街を歩いていても、常に警戒心を緩めるわけにはいきません。自然、顔は仏頂面で、ストレスが表情に出た険しい顔になる。これは美人には見えません。
大船渡を歩いている女性には、そういう険しい表情が見えず、みなさん穏やかな表情をされている気がしました。気持ちのゆとり、というか、余裕というか。そうすると、自然に美人に見えるもんですよね。

もちろん、大船渡の生活を賛美するつもりは全然ありません。縮小する経済、高齢化、閉塞感、街を覆う停滞感はひどいものです。でも、東京に戻ってきて、東京駅にあふれる苛々した表情の人々を見ると、大船渡のゆったりした町並み、アーキジャム事務所の空間や、レトロな商店街なんかが、なんとも心休まる場所に思えてくる。住む人にとってはどうあれ、東京人になってしまった我々にとっては、本当にありがたい田舎町です。