北京そのさん

 
今日も先週の北京訪問の感想の続きです。辛い話から。
 
(7)タンタンメン

日本でタンタンメンといえば、ごま味噌とひき肉の辛いラーメン、ですよね。中国での会合相手と行ったお店で、タンタンメンを頼んでみました。日本のものとはまるで違うものが出てくる。まず、麺はお椀に入っている。どんぶりではなくて、ご飯茶碗くらいの小さなお椀です。見ると、ご飯みたいな感じで、白い麺が盛ってあり、その上に、ひき肉のたれが少しだけかかっている。麺をはしで取って持ち上げてみると、お椀の底、3分の1ほどに、真っ赤な、スープとも、ラー油そのものとも思えるようなたらーりとした液体が溜まっている。このスープとひき肉を麺に絡めていただく。無闇に辛い。
中国で食べた麺は、日本の麺のようなしこしこ感はなく、むしろもっちりとした食感のものがほとんどでした。ラーメンというのは中華料理ではなく、日本の国民食だ、と言われますが、確かに、全く別の食べ物なんですね。

 
(8)京劇を見に行くーそのいちー開演まで

梨園劇場で京劇を見ました。
ガイドブックで、「Chinese Opera」と紹介されており、いつか見たいなぁ、と思っていたのですが、うまく時間を取ることができました。本当は、地元の人が沢山集まると言う、長安大戯院という劇場の方に行きたかったのですが、公演日と予定が合わなかったのです。
まずは、自分が宿泊したホテルにあった、パンダツアー、という旅行代理店のカウンターで、チケットを予約。最前列のテーブル席が、150元。ガイドブックによっては、200元、と書いてある本もあり、90元という情報もあるので、入手経路・曜日・演目によって多少変動するのかもしれません。大体、1000円から3000円くらい、ですね。安い。
梨園劇場は、昨日も書いた通り、前門飯店、という、天安門から少し南に下ったところにあるホテルの1階にあります。開演より随分前にホテルに着いたので、とりあえず足を踏み入れてみる。正面は普通のホテルで、入ると普通のラウンジがあり、そのラウンジの奥、左右に、劇場への通路が開いています。ホテルのエレベーターホールの脇にあるチケットセンターで、予約券とチケットを引き換えてもらい、しばらくホテルの周りの路地裏を散歩。
開場15分前くらいに戻ってくると、玄関入って目の前に、京劇の隈取りの絵をあしらった布が吊るされていました。そろそろ始まりますよ、という合図。しばらくすると、その布の前に、孫悟空と思われる隈取りと衣装に装った俳優さんと、お姫様の衣装の俳優さんが出てきた。観光客と気軽に記念写真を撮っている。芸術だ、なんて主張することをしないで、観光客向けのビジネス、と割り切っている感じです。田舎の温泉芸みたいなのを見せられるのかな、と、ちょっと不安になる。
開場時間になり、劇場へ。ラウンジから劇場の扉までは、土産物の売店です。扉に入ると、劇場。結構広くてびっくり。日本でいえば、500〜600人くらいのキャパのホールくらいはあるでしょうか。客席の一番前はテーブル席。最前列のテーブルに案内されました。一つのテーブルに6人がけ。全部で5列ほどテーブル席が並び、後ろの列ほど高くなっています。客席の前半分がテーブル席、後ろが普通の客席、という感じでしょうか。テーブル席の最後列が、全体を見渡せるVIP席。後方の客席にはちゃんと傾斜がついていて、二階席もある。洋風の劇場のようでした。
テーブル席のVIP席では、色んな飲み物を頼める。私の座った最前列のテーブル席にも、5種類くらいのお菓子がお皿に盛ってあり、お茶のサービスがあります。劇場の係りのお兄さんが、やたら首のながい薬缶を手にして、その長い首から器用にお湯を注いでくれます。細い首の先から出るお湯の勢いで、お茶葉が湯のみの中をくるくると回るのがきれい。
私のテーブル席には、日本人観光客の老夫婦が二組と、米国人らしい老夫婦が1組、それと私の7人が座りました。座るとすぐ、係りの人がやってきて、ヘッドホンを渡してくれる。日本の歌舞伎にもある、イヤホンガイド、というやつです。ただし、演目ごとの録音テープを、オペレーターがタイミングよく頭だしして聞かせてくれる、というもので、日本の歌舞伎のイヤホンガイドのように、実際にライブで聞かせてくれるものではありません。開演までの間は、隈取りや衣装、小道具や楽器についての解説がずっと流れています。舞台の左右には大きな電光掲示板があり、本番中には、セリフと英語の字幕が出る。見てみると、開演前のMake-upの様子が見られますよ、と出ているので、早速上手扉から見に行きました。
上手扉の外の廊下に、机がずらっと並んでいて、そこで役者さんが鏡を見ながら、隈取りのメイクをしている。そのメイクの様子を、お客様が見られる、という趣向です。メイクをしている俳優さんの後ろに観光客が立って、記念撮影をしたりしている。役者さんも慣れたもので、ポーズをとってあげたりしながら、器用に隈取りを仕上げていきます。
京劇のメイクの特徴は、あの紅だと思うのですが、まずは適当に顔に広げて、段々に仕上げていく、という感じ。なので、顔に紅色のロールシャッハテストの絵を広げた人たちがうろうろしている、という光景になります。覇王別姫の映画のイメージが強いので、京劇の女形=男性、というイメージがあったのですが、結構女性の役者さんもいました。

梨園劇場、という場所自体が、他の京劇の劇場に比べて、観光客向けの劇場だ、ということもあるのかもしれません。でも、日本の歌舞伎のように、何かというと伝統だの芸術だのと祭り上げる人たちが多い「伝統芸能」に比べると、随分ビジネスライクに、こだわりのないオープンな環境の中で上演されているなぁ、と思いました。それでいて、後で書くように、上演される舞台は、非常に伝統的な芸をきちんと守った舞台なんです。

実際には、日本の歌舞伎だって、演じている役者さんたちや松竹さんとかは、色んな表現や楽しいアプローチを一杯やってるんですけどね。だけど、受け取る側が、「伝統芸能」と身構えている気がすごくする。先日、芸術劇場でやっていた、「俳優祭」の連鎖劇なんか、こんな楽屋オチのドタバタ劇を公共放送で流していいのか、と思うくらい、8時だよ全員集合みたいなハチャメチャな、でもほんとに楽しい舞台でした。もちろん、守るべき伝統の芸はきちんと守られ、きちんと表現されている。でも、その伝統の芸って、すごく「楽しいもの」なんだよね。でも、それを楽しむ側が、「楽しむもの」じゃなくて、「勉強するもの」みたいに思って、背筋をぴんと伸ばさないと見ちゃいけないような環境・場所を作ってる気がすごくする。それって、パフォーマンスじゃないんじゃないかなぁ。

なんだか長くなっちゃった。細かいことを書きすぎるからだよねぇ。肝心の本編の感想の方は、明日に回しましょう。