「カルメン」抜粋コンサート

昨夜、またビルのロビーで、「イブニング・コンサート」ということで、「カルメン」の抜粋の演奏会がありました。今日はその感想をば。

カルメン:加賀ひとみ
ドン・ホセ:小林大作
エスカミーリョ:福山出
カエラ:谷地田みのり
ピアノ:西島麻子

というキャスティングでした。

まず正直な感想を言えば、ドン・ホセ役の小林大作さんが図抜けていました。きちんと声帯があった状態が、高音域から低音域までカンペキに保たれた発声。芯のある、緊張感あふれる音、つや、色。花の歌は圧巻で、本当に感動しました。こんな演奏を無料で聴けるなんて、なんて幸せなんでしょ。舞台姿、お芝居、という点では、もう少し引き出しを増やしてほしい感じもありましたが、それでも、花の歌のせつなさ、フィナーレの哀れさは大熱演。素晴らしいパフォーマンスだったと思います。

カルメンの加賀ひとみさんは、まさにカルメン!という感じの美貌、立ち姿。目の力も強く、もっと大きな舞台でも十二分に映える方だなぁ、と思ってみていました。声も色っぽく、高音に迫力があるのですが、中音域から低音域にかけて、声帯がきちんと合っていないような、どこか芯のない音になってしまうのが残念。しかし、ほんとに華のある、素敵な方です。

エスカミーリョの福山さんは、もう少し低音での声の色つやが欲しかったですね。なんかカスカスになってしまう感じがあって・・・でも、「闘牛士の歌」、やっぱり難しい曲だなぁ・・・低音から高音まで、きちんと鳴らさないとかっこよくないですもんね。今度、ちょっと練習してみようかな、と思っている歌なので、いい勉強になりました。

カエラの谷地田さんは、声的にも演技的にも、まだまだ発展途上、という感じがしました。しばしば棒立ちで、素に戻ってしまうんですね。持ち声はやわらかくてよい声なので、頑張ってほしいです。とはいえ、ミカエラという役自体が、わりと損な役回りではありますが。地味だし。

私の見たカルメンの舞台だと、最後に、ドン・ホセのナイフで刺し殺されるとき、カルメンが、どこか、ナイフに向かって身を投げるような感じで演出されていることが多いんです。今回の舞台もそうでしたし、先日見直した、クライバーカルメンでも、オブラツォワのカルメンは、ドン・ホセのナイフに向かって、自分から飛び込んでいくように見える。一種の自殺?のようにも見えるんですね。
そこに、ドン・ホセへの愛と、強い男を求める自分の女としての本能との間に引き裂かれて、自分を死に追い込んでいくような、ある意味自暴自棄な苦悩を見ることもできる気がしますが・・・でもそれって、カルメンらしくないなぁ、といつも思う。
私としては、「殺せるのかい?あんたに私が殺せるっていうのかい?」という感じで、どんどんドン・ホセを挑発し、結果、刺し殺されてしまう、という方が、カルメンらしいと思う。とすると、カルメンは、刺し殺された後、ある意味驚愕する、というか、「ほんとにやりやがった!」みたいな感じになるはず。あれだけ生への執着の強い女だもの、そのあと、「死にたくない、死にたくないよぉ」とあがくような、そんな一瞬があっていいのじゃないのかなぁ。
トランプの占いで死を予告され、その死が、目の前のナイフという形で突きつけられている、そんな状況にあってさえ、「私を殺せるっていうんならやってみな!」と胸をはる。それが私にとっての、カルメンです。