いわゆるピカレスクロマン、というのは、「悪漢小説」とか「犯罪小説」という訳語が頭にあって、何故かすぐ、ジャン・ギャバンの顔が思い浮かぶんだね。多分、昔見た「地下室のメロディー」で、初めて「ピカレスクロマン」という言葉を聞いたせいかもしれないけど。結果的に、私の中の「ピカレスク」というのは、ものすごくスタイリッシュでお洒落な感覚がある。
でも、Wikipediaとかで「ピカレスク小説」を調べると、だいぶ印象が変わってくる。スペインで、騎士道小説に相対するジャンルとして発達し、もともと社会の矛盾を描写するための一つの手法として発達した、とか、日本におけるピカレスク小説の特徴として、「悪漢が、一度は成功するものの、最終的には破滅する」といった文章があって、ちょっと私の思う「ピカレスクロマン」とずれを感じてしまう。
確かに、松田優作+村上透コンビの「遊戯シリーズ」とか、北野武映画なんかで描写される、犯罪者を主人公にした物語や、日本の伝統的なヤクザ映画なんかは、最終的なカタルシスを、主人公の破滅においているケースが多い気もしますね。ウェットな日本の精神風土を反映している、ということなんでしょうか。滅びの美学、というか・・・
でも個人的には、もっと爽快なものが好きなんだよね。とてもスタイリッシュで確固たる自分の美学を持った悪党が出てきて、さまざまな困難を経て自分の犯罪を成功させていく。公権力や、あるいは同業者の妨害や策略を潜り抜けつつ、自分の美学を貫いていく悪党たちのかっこよさ、爽快感。そういうお話が好き。そういう意味で「スティング」なんかやっぱりサイコーだよなーと思う。
北村薫さんと並んで、最近発見したお気に入りの作家、伊坂幸太郎さん。映画にもなった、ということで、以前から読みたかった「陽気なギャングが地球を回す」を、先日やっと読了。まさに私の好みの、爽快でスタイリッシュな悪党たちの小気味いい活躍。いいなぁ、こういうドライな「ピカレスクロマン」。
若干キャラクターにリアリティがなさすぎる感じもするんだけど、いいんじゃない、これだけカッコよくって、潔くって、適度に間が抜けていて、適度に律儀な、とにかく魅力あふれるキャラクターであれば、多少非現実的でも。軽いハリウッド風のエンターテイメントのようで、底流に流れている伊坂倫理、みたいなのはここでもしっかり作品の軸になっていて、それが後味をより爽快にしている。久しぶりに、すごくスカッとする気持ちいい小説を読ませてもらいました。伊坂さんもほんとにはずれのない作家で、「死神の精度」を先日読了し、今は「グラスホッパー」を読み進めています。他の作品も追いかけていく予定。世の中にはまだまだ読むべき本が沢山あるわい。