「若おかみは小学生」「終末のフール」〜・・・と並べることに無理があるかな〜

最近、娘が夢中になっているのが、講談社青い鳥文庫で出ている、「若おかみは小学生」のシリーズ。何が面白いのかなぁ、と、興味本位で一冊読んでみると、これが結構面白い。娘が図書館で借りてきたり、本屋さんで買ったり、という感じでそろえていくシリーズを、パパも次々読んでいて、親子そろって夢中になっています。日常会話の中でも、「うちのママって、『鈴鬼くん』に似てるよね」なんて感じで、「若おかみ」の中のエピソードが飛び交ったりする。

子供が楽しめそうな、イラストと一体になった、極端で漫画チックな設定や、女の子が喜びそうな各種小道具(真月ちゃんのドレスとか、紅水晶のお守り、とか)だけを見ていると、小学生向けの軽いエンターテイメント、と片付けられてしまいそうなお話。でも、細かい旅館のサービスやリアルなお料理の描写、ほろりとさせる親子兄弟の血縁の絆、魅力的な男性たちの間で揺れる主人公の心理描写など、決して、安易に書かれた子供向け小説ではありません。子供を楽しませながら、その心に、何かを残すことができたら、という作者の気持ちがしっかり伝わってきて、とても素敵なシリーズです。

作者の令丈ヒロ子さんは大阪出身で、私とほぼ同年代。あとがきには、週に一度は有馬温泉に通っていた、というエピソードも紹介されていて、そのあたりも、私が親近感を覚える要因なのかも、と思います。おっこが作った「露天風呂プリン」には、丹波篠山の名産の黒豆が使われていたりするしなぁ。個人的には、娘が昔から大好きな「ブンダバー」シリーズと同じくらい気に入っています。2巻と12巻をまだ読んでない。2巻は娘に借りてきてもらおうと思ったら、図書館では貸し出し中だったんだって。本屋に行って買うのも恥ずかしいしなぁ・・・
 
読み合わせ、というわけではないのですけど、本屋さんで見つけてすかさず購入した、伊坂幸太郎さんの「終末のフール」。大阪への行き帰りの新幹線の中で読んで、号泣しそうになって困った。

なんで、「若おかみ」と「終末のフール」を並べたか、というと、この間に、昔読んだ一冊の本を挿入すると、ひとつの流れができるんです。新井素子の「ひとめあなたに」。

新井素子さん、という人は、我々の世代にとっては一種のアイドルだったと思います。高校生にして、「あたしの中の・・・」で衝撃デビュー。その後も、「星へ行く船」シリーズなど、当時中学生だった我々の間では大人気でした。それこそ、「若おかみ」のようなジュニア小説、あるいはライトノベルというものを生み出した人、とも言われている。

「終末のフール」を読んで、すぐ思い出したのは、ほとんど同じ設定を持つ新井素子の「ひとめあなたに」なんですけど、正直に言って、私が「ひとめあなたに」を読んだ時の読了感と、「終末のフール」からもらった読了感では、ぜんぜん質が違う。作品としての完成度、といった話をするつもりはなくって、要するに読書もタイミングなんだなぁ、ということ。

「ひとめあなたに」を読んだ時期が少し遅かった・・・というのもあると思うのだけど、正直あんまり入れ込めなかったんだね。新井素子さんの持ってる「臭さ」みたいなのが鼻についちゃった、というのもある。でも、たぶんその「臭み」みたいなのを素直に受け入れる、あるいは圧倒的に共感できる時期、というのがあるんじゃないかな、と思います。ジュニア小説、というジャンルの存在する意味がそこにある。世代ごとに、求められるものの質が変わってくる、ということ。

伊坂幸太郎の「終末のフール」に、今の私がどっぷりと入り込んでしまう、というのは、描かれている主人公の世代と今の私の年齢が近似している、というのが大きい気がする。最終話、世界に迫る終末から、自分の愛娘を一秒でも遠ざけようとする父親の心情なんか、涙なしには読めない。それは結局、伊坂さんという作家の持っている倫理観や世界観が、我々の世代に訴えるものがあるからかな、という気がします。

私が「若おかみ」を楽しめるのも、そのあたりに原因がある気がするんだね。一番の原因は、たぶん、主人公のおっこちゃんと娘がほぼ同世代で、娘を応援するような気分でお話を楽しんでいる、ということ。あとは、作家の令丈ヒロ子さんと、文化基盤を共有しているためか、お話の倫理観や世界観に素直に入り込める感じがすること。舞台になっている老舗旅館、という和風のテイストも、おじさんにはしっくり来ているのかもしれないです。うちの娘も、おっこちゃんみたいに、魔物も幽霊もアゴでこき使うくらいに、前向きで元気に育ってくれるとうれしいなぁ。