カヴァレリア・ルスティカーナ〜昼ドラの世界〜

乞食学生が終わって、次の私のイベントは、大田区民オペラ合唱団の「カヴァレリア・ルスティカーナ」です。夏と秋にステージがあるので、それに向けての練習。週末、女房の大久保混声合唱団の練習時間と重なっているので、毎回、女房の予定と調整しながらの参加になります。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」は、本当に大好きなオペラです。少し前、あんまりオペラを知らなかった頃には、間違いなく、「一番好きなオペラ」と言い切っていたかもしれない。その後、色んなオペラを知ったり、実際に「カヴァレリア」を歌う機会を持ったりして、ちょっと意見は変わってきましたけど。

以前、「カヴァレリア」の悲劇の原因というのは、ひとえにサントゥッツァの理由のない嫉妬心にあるのかも、ということを書いたことがありました。今でもその考えというのは変わっていないんです。ローラとトゥリッドゥの不貞、という事実自体、なかったこと。サントゥッツァは、存在しなかった不貞を、自分の想像の中で作り上げてしまった。サントゥッツァの嫉妬心が作り上げた虚構が、トゥリッドゥを追い詰め、トゥリッドゥはその虚構を知りながら、サントゥッツァへの愛から、従容として死に赴く。

そういう女性って、結構いる気がするんだよなぁ。すごく普遍的な話、という気がするんだ。例えば、こんな昼ドラ、ありそうじゃない?

A物産に勤めるB男は、A物産のマドンナと誉れ高い美女、C子と交際していた。一方、D美は、B男に以前から好意を抱いていたが、その思いを言い出せずにいた。B男は海外赴任を言い渡され、帰国後の結婚をC子と約束して赴任するが、赴任期間が想定したより長くなる。待ちきれなくなったC子は、A物産の出世頭、E夫との結婚を決めてしまう。帰国したB男は、失意のどん底に落ち込むが、その時、慰めてくれたD美と勢いから肉体関係を持ち、そのままずるずると交際するに至る。B男はC子への思いが断ち切れずにいるが、次第にD美への愛しさが増し、この女と添い遂げようか、という気持ちが高まってくる。だが、D美のあまりにも献身的な愛が、多少疎ましい気分もあり、結婚の2文字を言い出せずにいる。

そのうちに、D美が妊娠する。B男は、逆にD美への疎ましさが増す。C子とは全く男女の関係がなくなっているが、B男は、以前の恋人、という気安さもあり、自分の悩みをC子に相談する。その相談の現場を目撃したD美は、C子とB男の仲が復活したと思い込み、嫉妬に狂う。その逆鱗の末に流産してしまったD美は、全てC子のせいと恨みを募らせ、そのあげく、E夫に対し、C子とB男の不倫を訴える。E夫は嫉妬に狂って、B男を問い詰める。B男は、D美の嘘を嘘と知りながら、D美への愛情から、E夫に対して一切言い訳をしない。激怒したE夫は、B男を刺し殺す。

・・・ううむ、東海テレビネタとしては薄すぎるか。でもこうやって書いてみると、「カヴァレリア」って完全に昼ドラの世界だねぇ。

オテロ」の例を引くまでもなく、嫉妬、というのは古くて新しい悲劇のテーマなんですね。「カヴァレリア」にはそれに加えて、シチリアの土の香りが濃厚に加わっていて、その土着性が、逆に普遍性をもたらしている。半年間くらいの付き合いになりますが、この濃厚かつ普遍的な愛憎劇の世界を、十分に堪能したいと思います。