25日(土)、女房が参加している音楽ユニット「ジュゴンとツチノコ」の三回目の演奏会、「Made In Japan!」を聞きに行ってきました。今回はその感想を。
会場になった赤坂のカーサ・クラシカ、私は初めて伺ったのですが、クラシック演奏家の間ではかなり名の売れた会場のようですね。お料理も美味しいし、お店の雰囲気もとても素敵で、何より、スタッフがこういった音楽イベントに慣れている感じがあり、お客様の誘導もスムーズで、とても心地よかったです。
会場の心地よさに加えて、今回のテーマは日本歌曲。フランス歌曲や英米歌曲を中心にした前回までのプログラムと比べて、邦人曲である、というのがまた聴き手にとって大変心地よい。若干身びいきになるかもしれませんが、大津佐知子という歌い手は、児童合唱時代から邦人曲に親しんでいて、日本語歌唱についてスキルを磨いていた人なので、日本語の歌詞が聞き取れない、というストレスが殆どない。そういうハードルの低さと、客席の雰囲気、二人のフレンドリーなMCなどもあって、過去の2回の公演と比べても、とてもアットホームで温かい空気に満ちた演奏会になりました。
と言いながら、実は、邦人曲、というのは、演奏家にとって別のハードルがそびえていたりするんですよね。今回取り上げた、徳山美奈子・湯山昭・伊藤康英・木下牧子、という作曲家たちは、現在も一線で活躍している作曲家の方たち。ということは、どの楽曲も、いわゆるクラシック音楽の歴史を一通り消化しきった先に生まれた「現代音楽」ばかりなわけで。もちろん、MCの中で、貝賀さんが何度も、「皆さんが聴いてもなんだかチンプンカンプンになるような曲はなるべく避けました」とおっしゃっていたように、選曲された曲はどれも耳に心地よい分かりやすい楽曲ばかりなんですが、それでもどこかに一筋縄ではいかない様々な「現代音楽」っぽい仕掛けが隠れている。単純な音の組み合わせや流れの中にも隠れた様々な技巧を、何事もなかったかのようにお客様に届けるのは、意外と難しかったりするんじゃないかな、と思います。
そういう現代音楽の文法をある意味カリカチュア的にぶち込んだコミックソングが、伊藤康英先生の「あんこまパン」で、大変バカバカしい歌詞(というか、林望先生のエッセイ)を、大変難易度の高いピアノ伴奏と大変高等な歌唱技術で客席に届けないといけない。二人とも相当苦労したようですが、苦労の甲斐あって、客席は演奏中ずっとムフフ笑いに包まれておりました。(爆笑、という感じではないところがこの曲のなんとも衒学的なところなんだよね)
貝賀さんの演奏されたピアノ曲もどれもとても魅力的な作品ばかりで、門外漢の私も、いい曲だなぁ、と思いながら聞いていました。徳山美奈子先生の「巣立つ鳥達へ」など、貝賀さんのご家族への想いも込められた曲も多く、そういう選曲も、温かな空気を醸し出す要因だったと思います。
大津が歌った歌曲の中では、前述の「あんこまパン」も楽しかったのだけど、湯山昭先生の「ロマンチストの豚」「くじらの子守唄」のどちらもとてもキュートで、しかも一度聞くと忘れられない平明な曲で、とてもよかった。いい曲って決して古くならないんですね。同じようにこれは今後もずっと歌い継がれていくんだろうな、と思った木下牧子の歌曲もとても素敵で、歌が終わってしまうのがもったいないような、もっとこの歌を聞いていたいなぁ、というような、そんな不思議な思いがしました。
本編の最後に歌った「竹とんぼに」は、以前から大津が何度か演奏会で取り上げている曲ですが、何度聞いてもなんだか目頭が熱くなる。でも今回は特別胸に来ましたねぇ。最近、娘が大学に進学して、運転免許取ったり、大学のサークルでとても大きな会場で演奏会をやったり、どんどん広い世界で経験を積んでいる姿が、空高く舞い上がっていく竹とんぼの姿に重なっちゃったんだと思います。人の親になるって、こういう歌がどんどん沁みてくるってことなんだなぁ。
アマチュアピアニスト、と言いながら、音楽に対する真摯な姿勢と高い技術を持つ貝賀さんと、ひょんな縁でご一緒させていただくことになり、このユニットだから挑戦できる楽曲を積み重ねて、また新しいレパートリーを増やすことができました。こういう場は本当に大事だね。これからも二人で、また新しい世界を見せてもらえると嬉しいです。温かい時間をありがとうございました。お疲れさまでした。