演奏家は演奏会に行くべきだよ〜

先日女房と話していたら、最近の演奏家は、演奏会に行く習慣がない人が多い、というのが問題になっているらしい、という話になりました。クラシック演奏会が集客に苦しんでいる、という話はよく聞きますし、日本だけじゃなくて、世界中で、クラシックの愛好家の高齢化と聴衆の減少、というのが問題にされています。でも、肝心の演奏家たちが、演奏会に足を運ばないっていうのは、一体なんでなんだろう。

私自身は、クラシック音楽こそ、ライブじゃないと理解できない音楽だ、ということにやっと最近気が付いて、中学生や高校生の頃から、演奏会通いに慣れている女房や娘が、本当にうらやましいなぁ、と思っていたりします。要するに、マイクやスピーカーがない時代に作られた音楽だから、本当に楽しもうと思ったら、生で聞くしかないんですよね。電気的処理を経た音楽だと、どうしても人為的な作為が入ったり、処理の過程で失われてしまうものがある。いくらCDやDVD、あるいはネット配信で、どこででも音楽が楽しめるようになったとしても、コンサート会場で、直接楽器から生まれ出て、直接聴衆の身体を震わせる物理的な空気の振動としての音楽とは全く別物。

そういう感覚っていうのは、私みたいなアマチュア演奏家よりも、本職の演奏家の方がはるかに鋭敏に持っているはずなのに、そんな本職の演奏家が、コンサート会場に足を運ばないとはどういうことなのか。うちの女房が言うには、子供の頃の習い事の延長線として、演奏家になる道を選ぶ人が多い、というのが一つの要因かもしれない、と。

実際に演奏会に行って、その一期一会の空気に触れた感動で、「あの舞台に僕も立ちたい」と一念発起して演奏家になる、という、「クラシック愛好家からプロへと転身する」人は結構少数派。子供の頃の習い事、あるいは、学校での部活をきっかけにして、演奏家への道を歩み出す、という人が多い。つまり、「聞く」よりも前に、「自分が演奏する」ことからクラシック音楽に触れはじめる。あくまで「習い事」や「部活」なので、演奏会に行って音楽を楽しむ、というよりも、「お勉強」「学習」「鍛錬」という意識の方が強いし、演奏会に行く、という習慣自体がない。

そういう女房の意見を聞くと、私がいつも思い出すのは、昔、声優の勉強をやっていた時の先生が、「どんな素人のお芝居でも、プロのお芝居でも、他の人がやっている舞台をたくさん見なさい。何かしら必ず得られるものがあるから」とおっしゃっていたこと。当時の私は、他の人が持っている表現の引き出しや、学ぶべきテクニックなどが必ず見つかるよ、という、「学習」という側面でとらえていたのだけど、女房に言わせると、「演奏会という『ハレの場』を作る作り手の一人として、その『ハレの場』を構成している色んな要素に気付く、という意味もあると思う」と。

アメリカで音楽の勉強をしていた時に聞いた話なんだけど、音楽学校を卒業する人は、必ず、『卒業演奏会』を自分で企画しなさい、と言われるんだって。会場の予約、プログラム選曲、チラシやチケット作りから、集客まで、全てを自分でやってみる。そうすることで、演奏会というのがどのように作られていくのか、どんな作業が必要になるのか、自分で実感することができる。」

食事を美味しく感じる大きな要因の一つは、食器の選び方だ、というのはよく言われる話ですけど、演奏会、というイベントは、決して舞台上のパフォーマンスだけで成り立っているものじゃない。歌舞伎座で歌舞伎を楽しむ人は、歌舞伎のパフォーマンスだけじゃなくて、幕間のお食事とか売店での買い物とか、東銀座という街の華やぎといった全体の雰囲気も合わせて楽しんでいる。要するに、演奏会=「ハレ」の場なのであって、そういう総体としての「演奏会」をお客様に楽しんでいただくためには、素晴らしいパフォーマンスだけでは十分じゃないかもしれない。パフォーマンスが超一流でも、なんだか後味の悪い演奏会なんて山のようにある。言ってみれば、お客様が演奏会のチラシを手に取った瞬間から、演奏会という「ハレ」の舞台は始まっている。

魅力的なチラシ、コストパフォーマンス、会場の立地のよさ、雰囲気のよさ、受付スタッフの洗練度、集まったお客様の雰囲気、ロビーの仕立てから、照明、アナウンス、段取りのスムーズさ、プログラムの充実度、休憩時間の長さから、携帯電話のアラームまで。あらゆるものが演奏会というイベントの満足度を左右する。そういう総体としての演奏会の成り立ちを理解した上で舞台に立っている演奏家と、単に舞台上での自分の持ち時間のパフォーマンスをこなしてよしとする演奏家では、パフォーマンスそのものに差が出てきてしまう。非常に端的な言い方をすれば、自分の参加している演奏会というイベントを支えてくれている人たちに対する感謝の思いや気配りから違ってくる。

総体としてのイベントの中の一つのピースとして、自分を捉えることができる、という意味でも、ヒトの演奏会には行った方がいい。そして聴衆として、「ハレ」の舞台としての演奏会を楽しんでみた方がいい。行ってみれば、どんなクオリティの演奏会だって、絶対何かしら楽しめるし、何かしら気づきがあるもの。チケットのお値段だって、天皇杯サッカーより安いコンサートなんていくらでもある。ということで、GAGブログで色々宣伝しているGAG団員出演演奏会の方も、是非よろしくね〜。(結局宣伝したかったのか)