ガレリア座の20周年記念ガラコンサートが終わりました。

サントリーホールで4月29日、ガレリア座の20周年記念ガラコンサートが開催され、なんとか無事に終了しました。ご来場いただきましたお客様、長時間かつテンコ盛りの演奏会にお付き合いいただきまして、本当にありがとうございました。

10周年の演奏会の時は、やはり晴れの舞台という意識も強く、今思えば、ずいぶん肩に力が入った感じで参加したイベントだったと思うのですが、今回は正直、当事者意識がかなり薄かった気がします。多数の参加者やゲスト演奏者のスケジュール調整に身を粉にして働いていた事務局の皆さんには申し訳ないのだけど、いち出演者としてみれば、大曲を交えながらも数曲しか歌わない演奏会、ということもあり、イベント全体に対する思い入れはあまりなかった、というのが正直なところ。

というより、練習を重ねる過程で、「そうか、今回のイベントの主役は、オーケストラなんだ」とふと気づいた時がありました。当然ですが、オーケストラは全曲演奏するし、いつものオペラ公演ならピットの中にこもっている彼らが、舞台上に座ってお客様の視線を浴びている。プロの演奏家との共演コーナーでは、オーケストラの木管団員さんや、いつもお世話になっているコレペティのS子ちゃんがスポットライトの下で演奏をする。我々歌手は、オーケストラの人たちの引立て役なんだ、と思った瞬間から、自分の与えられた課題をきちんとこなすことにだけ集中しよう、と切り替えた気がします。

実力はどうあれ、私も創立当初からの古株団員ですから、オペラ公演やオペレッタ公演では、ソリストの一端を担うことが結構ありました。そうなると、自分も含めたソリストたちのアンサンブルが、一つのオペラやオペレッタの出来自体を左右する。責任感もあるし、重圧もあります。でも、今回のようなガラ・コンサートだと、自分が受け持ったパートの出来だけでは、演奏会全体を語ることができない。全体に対する責任もないので、自分の受け持ったパートをとにかくどこまでできるか、というところに集中すればいい。

と気楽になってしまったのが悪かったのか、本番の自分のパートは、課題にしていた部分がことごとくうまく行かなかった感じがあって、いつもお世話になっているオケの皆さんを盛り上げるだけのパフォーマンスを届けられず、なんとも申し訳なく思っています。ヴェルディの「運命の力」で課題にしていた、どこまでも安定した低音の響きは、ガチガチに緊張した上ずった声になってしまってコントロールできなくなってしまったし、「カヴァレリア」のアルフィオは最後まで納得いく高音は出せずじまいで、かつ、苦しんだ変拍子部分も結局克服できなかった。唯一ちょっといい響きにできたのは「リゴレット」のスプラフチーレの5小節くらいの短いパッセージだけ。感想をくれた友人が、「最後のMCが上手だったね」と喋りだけ褒めてくれたのが唯一の救い。歌い手なんだから、歌でなんとかしたかったんだけどねー。ごめんなさいねー。

今回は、ザルツブルグから参加してくれたヴァイオリンのGudrunさんとホルンのPeterくんと結構お話することができて、それが楽しかった。クラシックにとどまらない音楽談義、ウィーンやザルツブルグのオーケストラ情報だけでなく、3人の子持ち、というGudrunさんとの子育て情報交換とか、Peterくんの好きなバイクの話とか、割と他愛無い話で結構盛り上がりました。クラリネットのゲスト出演者の杉山伸先生もそうですが、今回のオケのゲスト演奏家の3人はみんな本当にいい人たちでした。

前回の10周年演奏会でも思いましたけど、プロの演奏家として頑張っている方で、ガレリア座のような酔狂な団体を手伝ってくださる方々っていうのは、本当にいい人が多いし、何より音楽に対して非常に真摯な方が多い気がしています。職業意識やエリート意識のようなものもなく、ただ純粋にいい音楽を追求しよう、という姿勢で、直球勝負で我々アマチュアに相対してくれる。今回、歌い手として参加して下さった北村哲朗さん、北澤幸さん、神田宇士さん、菊池美奈さん、猪村浩之さん、佐藤一昭さん、みんな本当に素敵な方々。同じバリトンとしては、北村先生の自在な声の表現、神田先生の知的にコントロールされた発声に学ぶところが多かった。神田先生みたいにポジションをしっかりコントロールできればいいのになぁ。

でも、一番感激したのは、お客様の中に、近藤政伸先生がいらっしゃった、という話を聞いた時。闘病中の御不自由な体で、車いすで聞きに来てくださった近藤先生は、我々ガレリア座と、プロの演奏家の方々との橋渡しをしてくださった恩人の一人です。うちの女房が本格的なオペラ歌唱を体に落とし込むことができたのも、近藤先生の真摯なご指導のおかげ。あれがなかったら、ジュリアードのオーディション合格もなかったよね。近藤先生、お体大切になさってください。我々も、先生が喜んで下さるような舞台を少しでも多く届けられるよう、日々精進したいと思います。

色んな人たちの出会いと絆、そして、自分自身の課題を再確認した、素晴らしいFestaが幕を下ろしました。また次の10年に向かって、一歩一歩前へ進んでいければ、と思います。舞台っていいなぁ。本当にいいなぁ。


また来るからね〜。