ちょっと珍しいケーブル陸揚げイベントのレポートです。

この日記の更新もさほど活発というわけでもなく、徒然なるままに、という感じで書き連ねているのですが、気が付けばアクセス数が15万件を突破していました。2004年から書き始めているからもう8年、書き始めた頃にはまだ幼稚園だった娘が、今では中学生ですからねー。また例によって、これといってすごい記事や名文が書けるわけではないですけど、我が家のイベントの記録も兼ねて、思いつくことをつらつらと書きつづっていこうと思います。

さて、今日は、ちょっと珍しい、「海底ケーブルの陸揚作業」のレポートをしようと思います。この日記では、私の職業についてあんまり詳しく書いたりしていないのだけど、今回は珍しく仕事直結の話。会社がお金を出しているアジア向けの海底ケーブル、「SJC」というケーブルが、本日日本に陸揚げされる、ということで、その陸揚げ作業を見てきました。私の部署がこの海底ケーブル建設の担当をしている、ということで行ったのですが、会社と協力会社さんたち、それに報道陣も多数集まっての大きなイベントになりました。

陸揚げポイントになっているのは、房総半島の「千倉」という海岸です。この海岸沿いに、私の会社の「ケーブル陸揚げ局」というものがあります。ここが、外国とつながっている海底ケーブルが陸に上がってくるポイントになっていて、海外と行き来する電話やインターネットの通信データが、この海底ケーブルを経由して流れています。

海底ケーブルの敷設の段取りは、非常に簡単に言うと、以下のような段取りになります。

(1)ケーブルを作っている工場から、ケーブルを、「ケーブル敷設船」に積み込む。

(2)ケーブル敷設船が、千倉の陸揚げ局の沖合まで来て、ケーブルの片方の端っこを、浜辺に向けて送り出す。これを陸側で受け取って、陸揚げ局の中に引き込む。

(3)十分な長さを引き込んだら、ケーブル敷設船は沖合に向けて出港。そのままケーブルを海底に送り出し続けます。

(4)積み込んだケーブルが終わったら、その端っこにブイを付けて海中に沈めます。また新しいケーブルを積んだ船が来て、そのブイを頼りにケーブルを引き上げ、中継器でくっつけて、また伸ばしていく。この繰り返しで、ケーブルによっては総延長が3万キロを超えることもあります。

今回のSJCケーブルは、北九州にある、OCCというケーブル製造会社で作られ、KCSという会社が運航しているKDDI PACIFIC LINK(KPL)というケーブル敷設船で、千倉まで運ばれました。作業は今日の日の出から夕刻まで。海が荒れると延期になってしまうのですが、幸い、多少雲が出たものの、海は穏やか。前日近辺の宿に泊まり、夜明けとともに作業場へ向かいます。


作業員が見守る中、沖合からKPLが近付いてきます。


報道陣もかなり来ている中、船がどんどん近づいてくる。

ケーブル敷設船の特徴は、とにかく小回りがきくことと、同じ場所で動かない(定点保持)能力が高いこと。このKPLという船は、360度回転できるプロペラを持っていて、さらに船の側面にサイドクラスターという推進装置を持っています。かつ、GPSで自分の位置を確認しながら、これらの推進装置をつかって自動的に位置を調整し、海面に浮かんでいても自分の位置を変えずにじっとしていることができる船。このKPLというケーブル船には、以前見学で乗船させてもらったことがあったのですが、実際にケーブルを敷設している現場を見るのは初めて。男の子としてはこういうでっかいものがでっかいことをやっているのを見ると意味もなく興奮するわけです。


わくわくしてくる。

船は浜から1キロ近辺で定点保持。これ以上近づくと座礁の危険があります。船の船尾には、ケーブルドラムという機構がついていて、ここからケーブルが繰り出されていきます。繰り出されたケーブルを受け取り、ブイをつけるのは、ダイバーの方たち。寒い海の中での作業が続きます。


船の近辺にダイバー船が集まってきます。

ケーブル本体の前に、それを引くためのロープが繰り出され、これが浜辺に着くと、浜辺の巻き上げ機に接続されて、どんどん巻き上げていく。


巻き上げたロープを丸く束ねていきます。


船から、点々と黄色いブイを付けたケーブルが繰り出されてきます。

ケーブルは、海底の砂地を引きずると傷つく恐れがあるので、ブイを付けて浮かせて引っ張ります。それでも波の力などで相当な張力がかかるので、その時には巻き上げ機では足らず、ショベルカーやブルドーザーなどの重機で引っ張る必要も出てきます。


タイヤが付いたケーブルの先端部分が浜辺に上がってきました。


ケーブル船と陸がケーブルで結ばれます。

このケーブルは、浜辺まで掘りぬかれた管路から、ケーブル陸揚げ局に引き込まれ、そこである程度の余長を引き込んで、収容されます。


建物の裏手。この写真の下が建物で、そのまま海に通じています。海から建物の下を通って裏手までケーブルを伸ばしていく。


ここで余長を取って一旦収容。この余長分は後で埋設されます。

インターネットにせよ携帯アプリにせよ、液晶ディスプレイの上にキーボードで書き連ねた色んな記号で出来上がっているビジネスですが、そういうビジネスを支えているのは、やっぱりこういう物理的な「線」だったりする。アメリカでデータセンターを作って、日本に帰ってきてケーブル作ってますけど、産業の一番底のところを支えている職人さんたちの技に日々触れています。ビジネスとしては地味だし、採算性を問われる局面も多い厳しい産業ですけど、でっかいものがでっかいものを作らないと、みんなの生活は成り立たないんだ、と日々自分を鼓舞しております。


KPLお疲れ様。航海の無事を祈っています。