東京室内歌劇場in調布市せんがわ劇場「ジャンニ・スキッキ」

以前ご縁があって以来、ずっと公演のお知らせをいただいている、田辺いづみさんからご案内をいただき、行ってまいりました、東京室内歌劇場 in 調布市せんがわ劇場。音楽・劇場・役者・演出、全てがとてもバランスの取れた、素敵な公演でした。
 
指揮 芳賀大和
演出 飯塚励生
舞台監督 近藤元
ピアノ 松本康
出演者
ジャンニ・スキッキ・・・小島聖
ラウレッタ・・・大貫裕子
ツィータ・・・田辺いづみ
リヌッチョ・・・谷川佳幸
ゲラルド・・・高橋淳
ネッラ・・・河内夏美
ベッド・ディ・シーニャ・・・福森篤志
シモーネ・・・堀野浩史
マルコ・・・酒井崇
チェスカ・・・紙谷弘子
スピロネッチョ及びアマンティオ・ディ・ニコーラオ公証人・・・宮本哲朗
ピッネリーノ・・・宮城督
グッチョ・・・細川すぐる
ゲラルディーノ・・・高井駿瑠(TOKYOFM少年合唱団)

という布陣でした。
 
せんがわ劇場に行くのは今回初めて。調布市の舞台表現の中心として作られた施設、ということで、以前から一度は行きたかった場所。ホールのキャパは121人、とのことで、客席と舞台の距離がとても近い、いわゆる小劇場です。椅子に座った瞬間から、舞台との一体感にわくわくする。

ジャンニ・スキッキは大好きなオペラですけど、アンサンブルがものすごく難しいオペラだと思います。それを日本語で、しかも、パフォーマンスのアラがしっかり客席に届いてしまう小劇場でやる、というのは相当なチャレンジなんじゃないか、と思う。小規模のアンサンブルオペラの魅力を伝え続けてきた東京室内歌劇場ならではのチャレンジ。

冒頭のパントマイムの演出は、多少好みの分かれるところかもしれませんが、最近の奇をてらった読み替え演出と比べれば、踏み外しすぎない所で留まっており、ちゃんとオチもついていて好印象。音楽が始まって、第一声の日本語が聞こえたあたりから、日本語の訳詞のセンスの良さ、出演者の日本語のさばきのみごとさと、バランスの良さに魅了される。

「ジャンニ・スキッキ」といえば、「私のお父さん」。ラウレッタ役の方は、ただでさえすごいプレッシャーだろうな、と思うのに、あの有名な曲を日本語で歌わないといけない、というのも別のプレッシャーだったんじゃないかな。でも、大貫裕子さんのラウレッタはとても清楚で、素直でてらいのない日本語訳詞も相まって、とても爽やかに仕上がっていました。人間の欲や醜さがぶつかり合い、渦巻くこのオペラの中心にあの曲が置かれることで、その純粋な思いに打たれてジャンニ・スキッキがひと肌脱ごうと思う、その必然性がはっきりする。「大好きなパパ、お願い、聞いて」という冒頭の歌詞から、全編凝った言い回しを排して、非常にシンプルに作られた訳詞だったので、すべての言葉が明瞭に聞き取れる。しかし本当にいい曲だよね。大貫さんの透明な声質もあって、思わず涙がこぼれました。

お目当ての田辺いづみさんは、強欲な叔母さん、という役をすっきりと演じていて、見事なコメディエンヌぶり。以前拝見した「アドリアーナ・ルクブルール」の気品ある悪女ぶりとは対照的な役柄を素敵に演じてらっしゃいました。田辺さんの素敵なところは、こういう泥臭い役をやっても、決して下品な感じにならないところ。オペレッタなんかをやっていると、こういうにじみ出る品格がすごく大事だったりするんだけど、なかなか付け焼刃では出てこないものなんだよね。

ジャンニ役の小島聖史さんをはじめとして、ソリストのバランスもよく、特にリヌッチョの谷川佳幸さんがよかった。日本に帰国して初めて見たオペラ舞台がこれだったのが、何となく嬉しい。東京室内歌劇場が、せんがわ劇場の常連さんになってくれると嬉しいなぁ。