大道具・小道具

ガレリア座の立ち上げの頃、舞台道具とか衣装とかには本当に苦労しました。アマチュアの貧乏団体なので、お金がない分、とにかくみんなで手を動かすか、知恵を絞る、というのが基本。そのあたりの事情は、立ち上げから15年が過ぎた今でもあんまり変わっていなくて、今日はそのあたりの裏話をいくつか。

オペラやオペレッタとなると、舞台上の女性は、色んな華やかなドレスを身にまとうわけですが、ガレリア座の初期のドレスのほとんどが、団員のOさんのご近所にある貸衣装屋さんのバザーで購入されたものでした。貸衣装に使われた中古ドレスの販売、というのが年に1回くらい開催されて、その度に、Oさんが目の色変えて買い込んできてくれる。おかげで、Oさんの家の屋根裏には、様々なデザインのウェディングドレスが大量に格納されていた。これが片っ端から登場したのは、第4回公演の「ホフマン物語」。オランピアの話の中に出てくる貴族の合唱で、女性がみんな白いドレスをまとって出てきた。

限られた予算の中で、安くて派手な舞台衣装を探す、というのが団の至上命題で、色んなお店を回ったものです。規格外の体型をされている出演者のために、両国あたりのキングサイズのお店や、新宿のサカゼンさんにもお世話になったりした。原宿の竹下通りあたりにも「その手の」舞台向け衣装を売っているお店が結構あって、自分の着る衣装を探しに行ったりしました。第17回公演の「乞食学生」で私のやったオルレンドルフ大佐がはいていたブーツは、原宿のリサイクルショップで見つけたものに、100円ショップで買った鎖やらなにやらで飾りをつけて作ったもの。このブーツは、第18回公演「モンマルトルのすみれ」で、芸術大臣がはいてましたっけ。

このブーツだけじゃなく、ガレリア座も回数を重ねてくると、「衣装の使いまわし」という技が常態化してきます。一度みんなで一生懸命手を動かして作った揃いの衣装とかが、違う舞台に何度も出てきたりする。特に何度となく活躍しているのが、第7回公演「王子メトゥザレム」で製作した揃いの兵隊の衣装。衣装担当のFさん(現在の舞踏監督)が、対立する2つの国のテーマカラーを、青と黄、と決めて、この二色の兵隊衣装を女性たちで手分けして手作りしました。この兵隊の衣装がとてもよい出来で、その後、何度も舞台に登場しています。これ以外にも、過去の舞台で使われた衣装を別のところで使う、というのは何度もあって、ガレリア座のリピータの方の中のマニアックな方には、「今回のxxさんの衣装は、第x回でyyさんが着た衣装に手を加えたものだな」なんていう素敵な突っ込みをしてくれる方もいます。今回の「美しきエレーヌ」でも、「あ、あの衣装は・・・?」というのが結構出てきます。リピータの方にはそのあたりも楽しみにしていただければ。

昔、女房がお世話になっていた合唱団から、揃いのスイス風民族衣装、というのをお借りしたことがあって、これは第5回公演「マリツァ伯爵令嬢」の女性合唱衣装として活躍したのでした。こういう他団体のご好意、というのもとてもありがたいこと。ママさんコーラスの皆様というのは(新宿トパーズはちょっと別格として)、皆さんとても素敵な衣装をそろえてらっしゃることが多いですよね。今回の「美しきエレーヌ」でも、大田区民オペラ合唱団の皆様のご好意で譲っていただいた、揃いの綺麗な衣装が大活躍します。本当にありがとうございます。ちなみに、ガレリア座の衣装や道具が、時々、新宿文化センターの新宿オペレッタ劇場で活躍しているのはご愛嬌。

昔と比べると、外部業者さんに製作をお願いすることが多くなったのですが、舞台大道具、というのも昔は全部手作りでした。会館に常設してある山台を組み合わせたり、団員の自宅にある各種家具を持ち込んだり、色んな手を使ってなんとか舞台上を埋めようと頑張ったものです。第5回公演「マリツァ伯爵令嬢」では、背景の絵を私が自分で描きました。今から見るとかなり学芸会っぽいんだけど、徹夜で作業したのが懐かしい思い出。

徹夜で作業、と言えば、第4回公演「ホフマン物語」で、舞台上に吊り下げられるビロード地の赤い布をつなぎ合わせる作業、というのが、大変な徹夜作業だったそうです。女房も含め、訳詩家のMちゃん、コレペティトゥアのSちゃんの3人が、主催のY氏宅でミシンでカタカタ縫っていくのだけど、舞台の上から吊り下げるサイズとなると、10メートル単位の布を何枚もつなぎ合わせないといけない。縫っても縫っても終わらない。布地から舞った糸くずをいつの間にか吸い込んでいたらしく、誰かが鼻をかむと、ティッシュが赤く染まる。まさに女工哀史の世界。そうやって3人が大量の赤い布と闘っている間、主催のY氏は別室で寝ほうけていた、ということで、もう10年以上経った今でも、Y氏は女房含めた3名に頭が上がらない模様。

この「布」、というやつは、お金のない舞台上を飾るには実に使いでがある代物です。舞台上部にある、「バトン」という、横に渡された鉄パイプから吊り下げる、そのやり方一つで、カーテンのようにも見えるし、壁のようにも見える。これで舞台上を区切ることで、舞台空間に奥行きが出る。第9回公演の「仮面舞踏会」では、様々な模様の布を上から吊るすことで、舞台上の華やかさを演出しました。美術担当だったOさんの工夫。

現在の美術監督であるYさんが初めて舞台美術を手がけた、第14回公演「劇場支配人」では、半月型に切断した少し厚みのある板を、長い布の両端にビス止めして吊り下げました。こうすると、板の重みでピンと張った布が、立体的な円柱に見えるんです。舞台道具というのは、とてもホンモノらしく見えるニセモノなのだけど、布が柱に化ける、というのは面白かったなぁ。この板の加工のために購入した電ノコは、今でも我が家で、舞台道具を作る時に大活躍してくれています。そしてこの柱のために購入した長い布は、第15回公演「トロヴァトーレ」の兵士の衣装に加工されました。実は今回の「美しきエレーヌ」でも、この布が主要人物の衣装に再利用されています。誰か気がつく人はいるかな?

・・・と、なんでこんな話をしているか、といえば、実は、今回私がやる「カルカス」という役の衣装を、「なるべくハデにしてほしい」という要請が、美術監督のYさんからきたから。もともとそういう細かい工作が好きな性質なのと、自分の着る衣装でもあるので、張り切って「ハデ」に加工しています。新宿のオカダヤ(衣装をハデにするアクセサリーがムチャ豊富)に行って、スパンコール付きのゴムバンドを購入したり、ネットで飾りを買い込んだり、自分で飾りの縫い付けをしたり・・・と作業しながら、ガレリア座立ち上げの頃からやっとることは変わらないなぁ、と自分でちょっと苦笑してしまいました。カルカスの「ハデ」な衣装も楽しみにしていてくださいね。