週末、埼玉オペラ協会の「カルメン」のお手伝い。今回の舞台、私と、モラレス役の山内政幸さんが取っ組み合いの喧嘩をする、という立ち回りのシーンがあって、これが結構派手なアクションシーンになっているものだから、練習が終わると汗だくになっちゃうんです。舞台上で立ち回りを演じたことってのは今までないんだよなぁ。派手に踊ったことはあるんだけど、殴り合い芝居ってのは初経験。でもこれが楽しいんです。
男の子にとって、初めての「演技」経験ってのは、まずはチャンバラごっこか、プロレスごっこですからね。立ち回り芝居ってのは子供の遊びに戻ったみたいな感じで、ほんとに楽しいんですよ。相手役の山内さんは、ソフトないい声のいい歌い手さんなんですが、お芝居も実に達者な方で、「こうやってみましょうよ」「次はこんな感じで」なんて、色々アイデアを出してこられる。それにあわせて、立ち回りがどんどん派手になってくる。合唱団はこの喧嘩の最中、周りではやし立てている、という設定なんですが、立ち回りが派手になってくるに従って、合唱団のノリもよくなってきて、気が付いたら児童合唱の子供が、倒れた私の頭を蹴り飛ばしていたりする。おいおい。
今回の「カルメン」では、伊藤明子さんの児童合唱の動かし方、というのが、実に面白い。伊藤さんは、ミュージカル「アニー」でも演出助手としてお仕事をされていますし、児童合唱団を使ったお仕事も何度も手がけられている方ですから、演出上、子供がすごく生き生きと動けるように、とても楽しいシークエンスが取り入れられている。本当に、子供が子供らしく、舞台狭しと走り回っている「カルメン」に仕上がっている。
でも、そういう楽しいシークエンスが終わって、さぁ、子ども達、歌を歌いましょう、となった途端に、子供の声も顔も、がちがちに固くなっちゃうんですね。顔が生真面目になっちゃうのはともかく、声までが元気がなくなっちゃう。これをどう治療すりゃいいんだろう?
と思っていたら、土曜日の練習を始める前に、伊藤さんが、「ちょっと助演陣、こっち来て」とおっしゃいました。「子ども達と一緒に遊んでくれないかな?」
「アニーとかでも使う手なんだけど、子供に色んな遊びをさせながら歌わせたいんだ」とのことなんです。子供たちに、「これからちょっとゲームをしよう」と呼びかける。「遊びながら歌ってる、っていう場面だからね。実際に遊びながら歌っちゃおうよ。これから、皆の前で、このお兄さんやお姉さんが、色んなステップやポーズをするから、そのマネをしながら歌ってごらん」
ということで、「じゃ、あとは子供の前で、好きなように動いてくれる?」と言われる。これは結構タイヘンです。ただ曲に合わせて足踏みするだけじゃ遊びにならない。スキップしてみる。反復幅跳びしてみる。ラジオ体操したりする。ジャンプしてみたりする。それもいきなり、子供が予想できないような突拍子もない動きを見せてあげないと、楽しくない。こちらのアドリブ力を問われる。その上に、子供のテンションを上げるためには、まず自分のテンションが無茶苦茶に上がっていないといけない。子供は本当に正直ですから、こっちがテンションを下げてしまうと、テキメンにだらん、と気が抜けちゃいます。そりゃもう必死で、汗だくになって一緒に遊びました。
でもそうやって本気で遊びながらやると、確かに子ども達のテンションが上がる。テンションが上がると、不思議と声も大きく、明るくなるんですね。子供には、フォームだの呼吸法だのといった理論よりも、こういう力技の方が効くんだなぁ。
前の練習のとき、中々ほぐれてこない子ども達を見ながら、伊藤さんと、「子供の扱いは難しいですねぇ」という話をしていました。「今回の児童合唱団は、あんまりオペラの舞台とかに慣れてない感じなんだよね」という話をされた後、伊藤さんは、こんなことをおっしゃっていました。
「子供が舞台に慣れてないから、生き生き歌えない、というのは確かにあるんだけど、じゃあ舞台に慣れた子ども達はどうか、というと、これも違う要素が入ってきたりするんだよ。都内の大きなオペラ舞台に出演している少年少女合唱団とかは確かにとても上手に歌う。だけど、ヘンに型にはまった、『狎れた』演技になっちゃうこともある。子供の自然な動きを引き出すのは難しいよね。」
実際、大きなオペラ舞台で、今回の児童合唱団よりも、よっぽど「生き生きと」動いている合唱団を見たこともあります。でも、この「慣れた」児童合唱団のお芝居が面白いか、というと、妙に型にはまった「元気のよさ」みたいな演技で、どうもつまらなかったりする。「元気のいい子供というのはこういう風に動くもの」という観念の枠に入り込んでしまっていて、そこから外に出て行かない。頭のいい、賢い子供ほど、大人が与える既成概念を忠実に再現しようとしますから、そういう枠に入り込みやすいんですね。
今回の合唱団、舞台にあまり慣れていない感じがあり、伊藤さんや、振付のMさんの指示通りに全然動いてくれない子供さんもいないわけじゃありません(笑)。でもかえって、そんな無秩序さ、大人の既成概念に染まっていない子供さんが加わっていることで、舞台上に不思議と活気が加わっているような感じがするのも事実。そういう子供の自由な動きを導きだすような、考え抜かれた演出プランになっている、という要素も勿論あるんだけど。テンションが上がってきて、ヘタな大人たちよりもよっぽど生き生き動いている子ども達に負けないように、助演陣も頑張らなきゃね。
というわけで、子ども達のテンションは上がってきたのですが、こちらは子供のお相手と立ち回り芝居で、練習が終わる頃には、ほとんど呼吸困難状態。そして、夜たどり着いたガレリア座の練習では、いつのまにか謎のステップが増えている。おかげで今日は全身筋肉痛です。わたしゃ体操のお兄さんを尊敬するよ。まじで。