ガレリア・フィルハーモニー第一回演奏会お手伝い〜裏方の醍醐味の一つ〜

40過ぎてからの夏風邪を侮ってはいけません。体の抵抗力が弱まっているので、一度入った雑菌が中々根絶されないのです。一旦熱が下がったからといって、調子に乗って普段どおりの生活をしていると、思いっきりしっぺ返しを食らいます。

ということで、火曜日・水曜日と調子よく過ごしていたら、水曜日の午後あたりから、雲行きが怪しくなり、水曜日の夜、再び39度近い熱が復活。木曜日に医者に行ったら、

「xxさん、この検査値で、よく仕事してましたね」

と呆れられ、抗生剤だの解熱剤だの投与されつつ、週末までの安静を命じられました。とはいえ、日曜日にはガレ・フィル演奏会のステマネのお手伝いがあるのだよ。とにかく土曜日まで、体を安静に保ちつつ、日曜日に備える。

療養のおかげで、日曜日の朝には完全復活。なんとか、1日、無事に裏方を務めることができました。演奏会自体も、意欲的な選曲と、角田鋼亮先生のアグレッシブでありながら端整な指揮が相俟って、中々に好評だったようです。演奏者の皆様、本当にお疲れ様でした。

裏方から見た感想をいくつか。

第一生命ホール、という所は、合唱団やオケ団体が演奏会に使うことが多いそうです。世の中の合唱団やオケ団体、というのは、たいてい、ステージングに関わる裏方のスタッフが弱体なことが多い。なので、第一生命ホールのスタッフさんは、自分で積極的に色々と動いてくださいます。こちらが気付かなかったことなどにも嫌味なく助言してくださり、やりやすいことこの上ない。ホールスタッフのMさんが、自分で下手袖扉の介錯に走ってくださった時には、本当に恐縮しました。

ガレリア座で舞台監督の仕事を教えてくれた方に、『舞台袖の扉の介錯とか、幕の引き綱とかを、会場のスタッフさんに手伝ってもらう、というのは、裏方として絶対にやってはいけない、恥ずかしいことだよ』、って教え込まれたんですがね」、と、こちらは平謝り。でもMさんは、「いや、うちはいつも自分達でやってますから。」と、こともなげにおっしゃる。「うちで演奏される団体さんとか、下手袖にスタッフさんが一人もいなくなることとか結構あるんですよね。どうするつもりなのかしら、なんて思うんですけど」とニコニコされている。都内に立派な演奏団体は増えているけれど、そういう裏方スタッフの人材までは育ってない、ということなんでしょうか。そういう演奏団体の方で、このページを読んだ人がいたら、私に声かけてくださいねー。ちゃんと仕事しますからー。

Mさんという方は、NHKで音響の仕事をされていたそうで、色んなホールの音響にとても詳しく、リハの間に、色んなお話を聞かせてくださいました。すごく面白かった。その話の一部分を紹介します。

「NHKホールっていうのはね、音響的にはすごく過酷なホールです。というのも、もともとの設計段階では、2つのホールとして構想されたものなんですよ。今の一階部分と舞台、今の2階・3階部分、というのは、2つのホールとして分離していたんです。それを1つのホールにしよう、ということで、設計の途中で構想が変わったんですね。だから、2階・3階が極端に大きいわりに、1階席が小さいでしょう。2つのホールを縦に並べて、無理やりくっつけた結果なんですよね。」

「壁際に管楽器を並べると、壁が反射板になって音が飛ぶ、っていうので、安易に管楽器を並べがちですけどね、楽器によっては、音がタイトになりすぎて、逆効果のことがありますね。ホルンとかは、逆に音がタイトになりすぎるから、壁から少し離した方がいいんです。」

「第一生命ホールはわりとストレートに音が出る。だから、舞台の少し奥目の方を使った方が、客席にナマの音が飛ばなくていいんです。浜離宮ホールとかもいい響きですね。第一生命よりも少し残響が長いから、宗教曲とかに向いていると思う。」

「池袋の芸劇は、当初は全部響きが上に抜けちゃって、酷評だったですけど、最近多少良くなってきましたね。」

「音響側としては、色んなことを想定して、『ここで歌ってほしい』『ここで演奏してほしい』っていう場所があるんですよ。それを考えて、色んなセッティングをするんだけど、歌い手さんとか、演奏家さんとか、演奏もしないで、舞台上で手を叩いたり、発声練習しながら歩き回って、場所を決めようとする人がいますよね。『いいから、1曲ちゃんと演奏してみてください』って言いたくなることがありますね。『演奏してみないと分からないですよ』って。」

舞台の裏方を勤める時の醍醐味の一つは、様々な現場を経験したプロの裏方さんの、経験に即した実感溢れる色んなエピソードを聞けること。生まれたてのガレリア・フィルの若々しい音と、若さだけではない計算されたチャレンジングな指揮を見せてくれる角田先生のリハーサルを聞きながら、裏では、そんな話を夢中になって聞いておりました。面白かったぁ。Mさん、色んなお話を本当にありがとうございました。Mさん初め、第一生命ホールのスタッフの皆様、本当にお世話になりました。スタッフ含めて、本当に使いやすく、居心地のいい、とてもいいホールでした。またお世話になる日がきましたら、その時はまた、よろしくお願いいたします。