私のマンガ人生 そのよん〜江口寿史・諸星大二郎〜

先日から書き継いでいる、私の好きだったマンガ家の話、今日は、江口寿史さんと諸星大二郎さんです。

江口寿史さんは、友人が、「こんなに絵のうまいマンガ家はそういない」と薦めてくれたのと、ちょうど、「ストップ!ひばりくん」がブレイクした時期が重なっていたんですね。繰り返し読んでも笑えるギャグマンガ、というのはなかなかないと思うんですが、そういう希少なマンガを描く人。

とにかくムラのある作家で有名ですけど、カラートーンを多用したポップな画風で、日本のマンガの絵柄に革命を起こした人だと思います。大友克洋の画風が漫画界に与えた影響を指摘する人は多いけど、それに匹敵するか、あるいは凌駕するくらいの影響力があったと思う。猫も杓子も江口寿史風の、コントラストのくっきりした線のシャープな絵を描いていた時期が確かにありましたし、今でもその影響力は大きいと思います。

「ストップ!ひばりくん」や、「すすめ!パイレーツ」はかなり読み込みました。「寿五郎ショウ」とかの短編集も好きでしたね。画力だけじゃなくて、吉田戦車さんとかもそうですけど、非常に日本語の感覚が鋭い人。決まったときのギャグの破壊力はすごい。「ストップ!ひばりくん」の海牛一家の登場の回なんか、何度読んでも噴いてしまう。しかし、最近は何して食ってるんだこの人わ。(こういう「わ」の使い方とか、江口寿史っぽいよね)
 
諸星大二郎さんは、最初に「妖怪ハンター」を読んで、これは只者ではない、と思い、「暗黒神話」「オンゴロの仮面シリーズ」を読むに至ってすっかり虜に。以来、新刊が出れば買う、という状態でしたが、「西域妖猿伝」は途中で挫折しました。すみません。民俗学や考古学、歴史学を駆使した独特の世界の構築力がものすごい。高橋克彦さんなどが得意とされる歴史伝奇ジャンルに与えた影響力は非常に大きいと思います。「暗黒神話」の構成力には本当に圧倒されましたが、個人的には、やっぱり「オンゴロの仮面」シリーズが好きです。短編の連作集でありながら、一つの閉じた世界が完成していく、そのスリリングな展開がたまらない。「妖怪ハンター」も、ある時期から統合された世界観を提示していくようになって、それもまたスリリングでした。

でも、この方のパワーが最も端的に発揮されているのは、「地獄の戦士」「アダムの肋骨」に代表される、成人向けコミックの社会派短編にある気がします。中でも、「袋の中」という短編は、この方の漫画の魅力が全て凝縮された傑作だと思います。「妖怪ハンター」の「生命の木」と並んで、諸星ワールドの最高傑作に推したい。

誰かが、「デビュー当時から全然絵が上手くならない稀有の作家」と評していたことがありました。ある程度の変化はあっても、絵柄の大きな変化がない。逆に言えば、デビュー時点から既にスタイルが確立しているんですね。決して画力のない方ではなくて、マッドメンシリーズの仮面や刺青の描写などは偏執狂的なほどに緻密です。

この方も結構作品にムラのある方で、時々風呂敷を広げすぎて破綻することがあります。「孔子暗黒伝」とか、熱狂的なファンもいるようですけど、個人的には破綻している気がする。「猫パニック」なんかもそういう傾向がある。でも、ツボにはまるとほんとにすごい作品を描く人です。

妖怪ハンター」の新書版を人に貸したら戻ってこなくて、その後、同じシリーズで集英社が出したA5版の単行本には、「死人返り」という新書版の完結編が掲載されていなくて、すごく悔しい思いをしています。個人的には、人に本を貸すことのリスクを最初に味あわせてくれた作家、としても印象に残っています。ううむ、思い出してまた悔しくなってきたぞ。