NHK交響楽団NY公演〜面相筆でさぁっと〜

NY混声合唱団の友人が直前になって公演に行けなくなり、譲ってもらったチケットで行ってまいりました、カーネギーホールのNHK交響楽団演奏会。おりしも、3月から4月にかけて、NYの様々な場所で、「Japan NYC」というイベントが開催されており、その中の一つの企画なのです。「Japan NYC」は、現代日本の音楽や芸術を楽しんでもらおう、ということで、能などの伝統芸能だけではなく、漫画や現代アート、太鼓や三味線から現代舞踏まで、さまざまな芸術が紹介されるイベントになっています。中には、五嶋みどりさんの演奏会や、小林愛美さん(95年生まれって・・・おいおい)のピアノリサイタルなども含まれており、NHK交響楽団の演奏会は21日の月曜日に行われました。

指揮:Andre Previn
ソプラノ独唱:Kiri Te Kanawa

武満徹 「Green」
Richard Strauss 「4つの最後の歌」
Prokofiev 交響曲第五番

というプログラム。

会場に行ってみて、チケットを受付に見せたら、この上の階だ、と言われ、上がってみればボックス席。は?と思ったら、「NHK交響楽団の理事でございます」という方がご挨拶をしてくる。招待客向けのボックス席のチケットでした。チケットを譲ってくださったかたの人脈に驚嘆。隣のボックス席には日本大使ご夫妻が座っておられ、周囲は在NY日系人High Societyの社交場と化しており、18世紀ベルサイユ宮殿に迷い込んだ現代日本サラリーマンのような気分でした。

演奏会の冒頭、今回の震災へのお悔やみと、追悼のために、冒頭にバッハの「G線上のアリア」が演奏される。端正な弦の響きに、会場が厳粛な空気に包まれると、指揮のプレヴィンさんの登場。

杖を片手によちよちと、指揮台にあがるのもやっと、指揮は当然、椅子に座ったまま、というプレヴィンさん。これに、キリテカナワまで出してくるとなると、チケット販売のために、ビッグネームに頼った企画か、という気もしないではなかった。

でも本物のキリテカナワさんが舞台に出てきたら、なんだかそういう思いはぶっ飛んでしまう。うわあ、本物だぁ、というそれだけでも感動するんですが、とにかく舞台上の存在感が半端ではない。やっぱり、この時代のオペラ歌手ってのはなんかしら持っているオーラが違うよね。袖扉から颯爽と現れただけで、全ての視線が集中してしまう。確かに声量も輝きも失われていますが、逆に、年輪を重ねた味わい深い響きと、どこまでも流れるフレージングの美しさを堪能することができました。というか、そもそもシュトラウスの「最後の四つの歌」という素材自体、相応の年齢の歌手に歌ってもらいたい曲だしねぇ。

最も収穫だったのは、NHK交響楽団。私はあまりオケの演奏会に行った経験がないので、偉そうなことは言えないのですけど、武満徹の「Green」、リヒャルトシュトラウス、そして、プロコフィエフ、という演目は、どれも色彩感覚と大人の表現力を必要とする曲だと思うのに、N響は、どの曲も、色合い豊かに、そしてプロコフィエフ諧謔としゃれっ気に溢れた、実に陰影の豊かな演奏を聞かせてくれました。弦が圧倒的な音量を持っているわけではないのだけど、太い絵筆の迫力でどばぁっと描くのではなくて、細い面相筆とか、繊細な鉛筆とかで、細かく揺れる草原の葉の重なりや、降りしきる雨の一筋一筋をさぁっと描き上げていくような。そういう職人芸的な繊細さと大胆さ。

よたよた歩いているプレヴィンさんのタクトによるプロコフィエフが、時折テンポに破綻をきたしそうなくらいにスポーティなのに驚く。(1929年生まれって・・・おいおい)それでもどんどんクライマックスに向かってまっしぐらに突き進んでいく、爽快なまでのスピード感。プロコフィエフってそんなに知ってる曲がないんですけど、すごくわくわくする曲でした。今度ジュリアードショップでプロコフィエフのCD買ってみようかな。