「コシ・ファン・トゥッテ」〜やっとMET体験〜

昨日、こちらに来てやっとMETの舞台を生で観劇することができました。来たばかりの時に行った大野さん指揮の「オランダ人」は、遅刻したせいで、ハイビジョン映像での中途半端な観劇だったので、ちゃんと客席に座って見られたのはこれが初めて。演目は、大好きな「コシ・ファン・トゥッテ」。ということで、実にわくわく楽しい時間を過ごすことができました。
 
Miah Persson(Fiordiligi)
Isabel Leonard(Dorabella)
Danielle de Niese(Despina)
Pavol Breslik(Ferrando)
Nathan Gunn(Guglielmo)
William Shimell(Don Alfonso)
 
William Christie(Conductor)
 
という布陣でした。
 
このMETの「コシ・ファン・トゥッテ」、ちょうど我々夫婦が新婚早々くらいのころのMETの来日公演で一度見ています。その同じプロダクション。当時のキャストが劇場で配られていたPlaybIllに掲載されていて、それを見ると、Carol Vaness, Susannne Mentzer, Jerry Hadley, Dwayne Croft, Thomas Allen, and Cecilia Bartoliとなっている。そういえば、バルトリのデスピーナを楽しみにして劇場に行ったら、出演できなくなった、ということで、別のキャストがやっていた記憶があるな。その方も、今回のDanielle de Nieseさんと同じ、オーストラリアの方だった記憶がある。

スクリーンに映された真っ青な海と、そのスクリーンの向こう側に遠く浮かび上がる船の影が印象的な舞台だった記憶がありました。でも、METの本舞台で見ると、東京の引っ越し公演よりもずっとずっと舞台の完成度が高い気がした。下らない話だけど、スクリーンの奥に浮かび上がる船のマストが、東京公演で見たときよりずっと高いのだね。舞台のタッパの高さの違い、という単純な話なんだけど、METの舞台構造を前提として作られた原型を改めて見ることができたのは、なんだかとてもうれしかった。

コシ・ファン・トゥッテ」という演目は、1人の歌い手の力に依存して成り立つ演目じゃなく、ソリスト6人のアンサンブルの質の高さが勝負。となると、ある意味その劇場の地力が問われる演目、という気もするんだね。いわゆるスターシステムで成り立っている演目だってあるけど、METの場合、スターであったとしても、METの舞台となれば、それなりのリハーサルの時間や準備の時間を用意する。非常に完成度の高いアンサンブル(音楽的にだけでなく、演出的にも)を見ながら、これがMETの地力なのかな、と思いました。

コシ・ファン・トゥッテ」という演目は、自分が合唱で出演した大田区民オペラの舞台からなじみが深くて、それからも、いくつかの舞台を見ました。かなり根本的にこの演目の見方が変わったのは、新国立劇場で見た舞台。そのことはこの日記でも書いているのだけど、それ以来、フィオディリージがこのオペラの主役である、という見方が私の中に定着してしまっている。今回見ていて、ちらりと、デスピーナの男性遍歴の苦さ、みたいなのが音楽的に聞こえた瞬間があって、それは宮本亜門演出の舞台を見たおかげだよな、と思った。同じ演目を、違う演出で何度か見る、というのは、そういう楽しみもあるよね。もちろん、「コシ」という演目自体が、そういう多面的な見方を可能にする演目だ、ということもあるのだけど。

今回の演目でも、フィオディリージ役のMiah Passonさんと、フェランド役のPavol Breslikさんの一歩も引かないぶつかり合いが見事で、やっぱりこの演目はこのカップルが軸だよなぁ、と思いました。あまり世慣れていない若いカップルが、苦い人生の真理に気付いた後、真の伴侶を見出す、というストーリをラストシーンでしっかり作っていて、やっぱり「コシ」は、フィオディリージとフェランドがくっつかないとおさまりが悪いよなぁ、と思った。

選んだ席は、一階席(オーケストラ)の奥の方で、二階席の天井の下。ちょっと音が遠くなる感じはあったのだけど、それでも十分。こちらのお客様はとにかくノリがよくて、デスピーナのセリフの一つ一つにクスクス笑っているし、ラストはもちろんステンディングオベーションです。こういう観客に支えられている劇場なんだね。休憩中にいただいたシャンペンやサンドイッチもおいしくて、劇場全体をしっかり楽しむことができました。個人的には、休憩中にオケピットを覗きに行ったら、目の前に座っていた第二バイオリン(対向配置だった)の3プル目くらいに座ったお姉さんが無茶苦茶可憐な美女で、彼女が二幕の運指を練習している姿をうっとり眺めていた時間が、とても幸せでございました。オケピットと客席の距離も近くて、オケのメンバーが客席の知り合いとにこにこ談笑していたりします。

てなわけでしっかり味をしめたMET体験、調子に乗って、12月11日の「ボエーム」のチケットも購入してしまう。年末年始には女房と娘が来て、「魔笛」とシティ・オペラの「くるみ割り人形」を観劇予定。一番高い席でも2万円、と考えると、ついつい手が出てしまうのだけど、ちょっとお財布の様子も考えないと。