『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ〜日曜日にジョージと公園で〜』〜時空を越える話って大好き〜

娘が臨海学校で1週間不在にする、というので、女房が、たまには大人のエンターテーメントを見よう、と探してきてくれたのが、PARCO劇場で、宮本亜門さんが演出するブロードウェイ・ミュージカル、『サンデー・イン・ザ・パーク・ウィズ・ジョージ〜日曜日にジョージと公園で〜』。金曜日の夜、二人して見てきました。色んな意味で、すごく心地よい気分にさせてくれる佳品。
 
作曲・作詞 スティーヴン・ソンドハイム

台本 ジェームス・ラパイン

演出 宮本亜門

翻訳 常田景子

出演 石丸幹二 戸田恵子
諏訪マリー 山路和弘 春風ひとみ
畠中 洋 野仲イサオ 花山佳子
鈴木蘭々 冨平安希子 岸 祐二 石井一彰
南 智子 岡田 誠 中西勝之 堂ノ脇恭子 ほか
 
という布陣でした。

出演者の中では、何より戸田恵子さんの魅力がピカイチ。この方はやっぱり、TVや映画で見るより舞台で見るのが一番いいなぁ。その戸田さんの輝きに対して、石丸幹二さんが、端整で軽やかで、そして技術的に完璧な歌唱で応える。この二人がものすごく高いレベルでバランスしているのだけど、他の出演者もそのレベルをしっかりと支えて穴がない。この規模の劇場ならではの、高レベルな舞台でした。

ソンドハイムの音楽は、セリフとメロディーが渾然一体となっており、非常に前衛的で、なおかつドラマティックに美しい音楽。とにかく難易度が無茶苦茶高い。これは一生かかっても私には到底歌えそうにない、と思うのだけど、石丸さんは難しいパッセージを本当に見事に歌いこなす。戸田さんの歌唱も驚異的。日本語歌詞も分かりやすく聞きやすく、全くストレスを感じませんでした。コレペティトゥア出身の訳詞家さん含め、そのテクニックに脱帽。

個人的には、山路和弘さんの、慇懃無礼なんだけどどこか憎めない敵役の作りがうまいなぁ、と思った。洗練された立ち居振る舞いも見事。鈴木蘭々さんがしっかり舞台女優になっていて、ものすごくキュートなのにもびっくり。いい女優さんです。新宿オペレッタ劇場でいつも美声を聞かせてくれる中西勝之さんも、さりげなく好青年を演じてらっしゃって素敵でした。

100年以上離れた二つの時間を、第一部・第二部、という形でクロスして見せる、という構成が、以前見た「クラウド9」を思わせる。個人的に、こういう時空を越えた物語って好きなんです。「クラウド9」も大好きでしたけど、ジョルジュ・スーラの名画、「グランジャット島の日曜の午後」という魅力的な素材が強烈な求心力になって、舞台全体の軸をきっちり決めている分、こっちの舞台の方が好きかもしれない。

生命を支えるDNAは、いかにして自分の存在を永続的に未来に向かって残していくか、ということをひたすら追求している。そのDNAの永続本能に突き動かされるように、人間の精神活動も、自分自身の存在の証を、将来に向かってなんとか残そうとする。その精神の向かう衝動とDNAの生存本能を、この舞台の登場人物は、極めて端的な言葉で切り取ってくれます。「人間にとって大事なものはね、芸術と、家族よ。」

創世記のごとくに、虚無の空間に人間の精神が作用し始める冒頭から、第一部のラストで、スーラの絵がそのまま舞台上に浮かび上がっていくプロセスは、そこに向かっていく流れが途中からはっきり分かってしまうのにも関わらず、ものすごくワクワクしてしまう。そして再び、虚無の空間へと戻っていく第二部のラストシーンが、新しい永遠を構築していこうとする芸術家の挑戦をくっきりと印象付ける。心を背中からとん、と優しく押してくれるような、なんだか気持ちがふわりと浮き立ってくるような、そんな後味のいい爽やかな舞台でした。やっぱり舞台はいいなぁ。