「シルエット」

かなり昔ですが、吉田都さんや熊川哲也さんを輩出した、ローザンヌ国際バレエコンクールのTV放送をぼんやり見ていたときのこと。解説者のコメントを聞いていると、何度となく、「この人はシルエットが素晴らしい」というコメントが出てくる。シルエットって、なんだ?

単純に、スタイルがいい、という言葉では置き換えられない、バレエ特有のニュアンスがあるような感じで、バレエの世界ではよく使われる言葉のようですね。一つ一つのポーズや動作の美しさを描写するときに、「シルエットが美しい」と言う感じで使うようです。

シルエットを美しくするのは、当然ながら持って生まれた身体の美しさが大きな要素。でも、バレエのように自らの身体そのものを改造してしまう表現形態では、ただ持って生まれたものだけではなくって、その所作の美しさや、鍛えられた筋肉の美しさ、訓練によって獲得した美しい姿勢や、それを保つ筋力、色んなものを総合して、「美しいシルエット」が完成されていく。先天的な要素が大きいけれど、後天的な努力で獲得したものも決して少なくない。

なんでこんなことを書いているか、といえば、先週の世界フィギュア選手権を見ていて、それぞれの選手の美しさを決めている要素として、この「シルエット」が大きい気がしたから。ものすごく直裁な言い方をしてしまうと、やっぱり浅田真央ちゃんのスケーティングの方が、安藤美姫さんのスケーティングよりも「シルエット」が美しい気がするんだよねぇ。

何が違うのかなぁ、と、女房と二人で話している。「安藤選手って、腕がばたついて見えるんだよねぇ」と女房がつぶやく。「確かに、体全体のバランスの中で、腕が妙に細くて、しかも無駄に目立つねぇ」という話をする。

ジャンプを持ち味にする安藤選手は、どうしても下半身の筋肉がすごく発達してしまう。結果どうなるか、というと、お尻がすごく大きくなるんですよね。その上、上背も低かった伊藤みどりさんだと、全体的にずんぐり体型になっちゃうんだけど、安藤さんは上背がある分、全体のスタイルはさほど悪くない。そうなんだけど、発達した下半身に比べて、やけに腕が細くて貧弱に見える。加えて、スケーティングの際に、その腕を小刻みに振りながら滑るシーンが多い。そうすると、結果として、腕の貧弱さがさらに目立ってしまう。やっている技の難易度と安定性の割に、全体の滑りの印象が妙にばたついて見えたのは、この腕の扱い方から来る「シルエットのバランスの悪さ」も大きいんじゃないかなぁ、と思いました。

比較すると、浅田真央ちゃんやキム・ヨナさんは、下半身と上半身、手足の長さのバランスがすごく美しい。しかも、腕の扱いがばたついていなくて、流れるように滑っている印象を邪魔しない。年齢の問題もあるのかもしれないけど、本当に「シルエット」の美しいスケーターだなぁ、と思いながら見ていました。特にキム・ヨナさんの滑りをきちんと見たのが今回初めてで、なんて表現力豊かで美しい滑りをするんだろうと感動。真央ちゃんといいライバル関係で、ずっと競っていって欲しいねぇ。腰痛がちゃんと治るといいなぁ。

てな感じで、「真央ちゃんいいなぁ」、とか、「キム・ヨナさんって素敵だねぇ」なんて言いながら娘と一緒に見ていると、娘が、

「私が真央ちゃんを好きなのは、ジャンプが上手だからだけど、パパが真央ちゃんを好きなのは、可愛いからでしょ?」

とのたまった。そうですよ。可愛いからですよ。何か問題がありますかね?7歳の娘相手に開き直るなよ、大人気ないなぁ。