新宿トパーズ ファンタスティック・ショウⅢ〜継続ってすごい〜

ここのところ、しばらく日記の更新をさぼっていてすみません。仕事がむちゃくちゃ忙しくなってしまって、なかなか時間が取れなかったんです。幸田文さんの「きもの」の感想文も書きたいし、この週末また娘と行ってしまったピューロランドのことも書きたいのだけど、とりあえず、土曜日に行った、新宿トパーズの舞台のことを書きます。

新宿トパーズ、という女声合唱団のことは、以前この日記にも書いたことがあると思います。歌って踊って見せる合唱団、というのがこの合唱団の基本コンセプトで、5分間のうちに4回衣装を早替えする、なんてのは朝飯前、という、むちゃくちゃ派手なステージが売り物。毎年初夏に、新宿文化センターで開催される、「初夏に歌おう」という合唱祭があるのですが、新宿トパーズの舞台は本当に毎年楽しみなんです。

そのトパーズが、3回目になる演奏会を開催するという。25周年記念演奏会、と銘打ったこの演奏会、タイトルも、「ファンタスティック・ショウⅢ」ですよ。普通の合唱団みたいに、「定期演奏会」なんて枠にははまらない。「ショウ」ですよ「ショウ」。半分怖いもの見たさ(失礼)も手伝って、家族3人そろって、チケットぴあで指定席まで取って見に行ってしまいました、新宿文化センター。

会場に向かう途中の道から、同じように会場に向かう人たちの持っている花束がやたらに大きいのに、まずビビる。普通の合唱団の演奏会で、指揮者やピアニストに渡されるような大柄の花束ばっかり。時々、バラ一輪、なんて方もいらっしゃるのですが、そういう方は必ずといっていいほど、立派な老舗の菓子折りを下げている。会場に入る前からかなりの圧倒感。

ロビーに入れば、ロビースタッフが全員、真っ赤なTシャツと帽子をかぶっている。チケットを差し出せば、プログラムと合わせて、「団員募集中」と書かれたポケットティッシュをくれる。合唱団の団員募集のポケットティッシュなんか作る合唱団、聞いたことないよ。プログラムは当然といっていいほど、中央に、団員一人ひとりの顔写真が、当然、舞台衣装とメイクされた笑顔で載っている。完全にタカラヅカ状態。そんなこんなで、客席に着く前に、十二分に常識のたがをはずされて、ヘロヘロ状態で席に着き、いざ開演・・・

音楽的なことを言えば、そうとう厳しい点数が付くとは思います。打ち込み系の伴奏と、ワイアレスマイクで拾った声での音響での2時間の舞台は、結構耳がワンワンして疲れる。とはいえ、なかなか歌い手さんの声量がきちんと確保できていないので、仕方がない。

でも、そういう音楽技術的なことをぶっとばしてしまう、この舞台から噴出すパワーはなんだ。一曲たりとも、同じ衣装では登場しない、しかも曲の中で2度3度と衣装の早替えがありますから、曲数×2倍くらいの衣装。4部構成の舞台は、全部で20曲近くあるから、1舞台で40枚の衣装(!)。ゲスト歌手のソロも交えて、実によどみなく流れるステージングは、観客を飽きさせまいとするいろんな工夫に満ちている。衣装が変わるたびに、あるいは歌い手が客席まで乱入して踊り歌うたびに、お客様は大喜び。とにかくむちゃくちゃ元気なおばさま(失礼)たち。

このおばさまたちのサービス精神と、舞台をとにかく楽しんでいるパワーにひたすら圧倒される。へんな話、途中のプロのゲスト歌手のソロが中途半端に聞こえ、見えるくらいに、おばさんたちのパフォーマンスの方がよっぽど見栄えがする。特に、終曲の「アメイジング・グレイス」のソロを歌われた団員さんの歌は本当に見事で、プロのゲスト歌手の歌よりも、音楽的にも、パフォーマンス的にも、素晴らしい感動的な歌でした。このエネルギーと、この派手さは、いったいなんだ。

休憩中、ほとんど魂を抜かれたような状態で、ぼおっとロビーでお茶をしておりましたら、照明のTさんが通りかかる。ガレリア座でもお世話になっている方なので、挨拶をして、少し立ち話。照明も、月は出るわ、バラは出るわ、いろんな模様が舞台の後ろやら客席やらでぐるぐる回るわ、スモークはガンガン焚かれるわ、ものすごく派手。「ずいぶん作りこみましたねぇ」という話をしたら、Tさんが、

「いやもう、とにかく派手にしてくれっていう話だったんで」

とニコニコしている。仕込みが大変だったでしょう?と伺うと、

「だから、この会場、おとといから3日間借りてるんですよ」

とのこと。合唱団の演奏会で、会場を3日借りるって、どういうこと!?

「明かりの仕込みもそうですけど、1日目に流れを確認しながらのリハーサル、2日目はゲネプロで、今日本番でしょ。それに、合間合間に抜き稽古・・・」

それじゃあ、ほとんど3日間で、6ステージ分くらいやってるってことじゃないですか。す、すげえ・・・

最後のフィナーレでは、舞台袖の巨大なクラッカーがはじけ、客席に金色のテープが舞いました。最後の最後までひたすら派手に。それでも、最後の団長のご挨拶は、25年間の時間を感じさせる、胸に響くものでした。

「25年間のうちに、この舞台でともに歌いたいと願っていた仲間が2人、天に召されました。また、かけがえのないパートナーとの悲しい別れもありました・・・」

ものすごく失礼な言い方をしてしまえば、新宿トパーズの舞台というのは、一種の「キワモノ」と言ってもいいと思います。でも、その舞台は、お客様も歌い手も全員を巻き込んで、本当に、「音楽を体全体で楽しむ」ことに徹している。その徹底さ加減が、なんとも爽快。そういう徹底的な舞台を、25年間も続けている、ということが、本当にすごい。

ひょっとして、今の日本で一番元気なのは、この年代のおばさまたちなのかもしれないなぁ、なんて思いながら、いささか魂を抜かれたような気分で、会場を後にしました。新宿トパーズの皆様、これからもお元気で、楽しい舞台を作り続けてくださいね。裏方スタッフのY氏、A子さんも、本当にお疲れ様でした。