子供の成長、親の都合

先日、うちの女房が新潟の合唱コンクールに出場するために留守にした週末、娘と二人で高尾山にピクニックに出かけました。頂上について、さあ、お弁当だ、と、おにぎりにかぶりついた瞬間、娘が、「わ」と声を上げた。「歯が取れた!」

以前からぐらぐらしていた、下の前歯が、ぽろん、と取れたのです。娘はびっくりして、おにぎりを手にしたまま呆然としていました。出血はすぐ止まり、早速携帯で、歯が抜けた娘の顔を撮影。新幹線で新潟に向かっている途中の女房に送信。女房は同行した大久保混声の方々と、その写真を見て大笑いしていたそうな。

歯の抜け替わり、というのは、子供の成長をはっきり示す現象の一つですよね。娘はそれで歯に興味をもったらしく、先日、図書館で、「大人の歯」の本を借りてきた。それで見ると、6歳前後に生えてくる「6歳臼歯」という歯があって、一番奥に生えて来るんだよ、と書いてある。どれどれ、と娘の口を覗いてみると、ありましたありました、左の上あごの奥に、白いものがぽっちり顔を出している。抜けた前歯の下からも、新しい大人の歯がみるみる伸びてきます。娘は急に歯磨きに熱心になってきて、口染め液を買ってきて、毎晩口の中を真っ赤に染めています。

12月の我が家は、娘の誕生日や、クリスマスお遊戯会など、娘の成長を実感する機会が多いんです。そして、6歳という時期は、幼児から子供へ、と、ひとつのステップを登っていく時期。お誕生日のパーティに集まった娘のお友達も、去年とは全然違った大人びた会話をしていて、お世話をしていた女房は驚愕したそうな。

子供が小学校に上がっていくと、今よりもさらに、子供の社会が強固に形成されていくことになる。子供の都合と親の都合がぶつかり合ってしまった時に、そのどちらを優先するか、というのが、親としては結構悩みどころになってくる気がします。特に、私たち夫婦のように、週末がいつも予定でびっしり、という夫婦は、今でも子供を自分の都合に合わせて連れまわしている。子供がそれを楽しんでくれている幼稚園の頃はいいけれど、小学校に上がったら、そうそう親の都合ばかりで連れまわしているわけにもいかなくなってくるかもしれない。その時その時に、何を第一優先で取り組むか、家族全員で考えていかないといけない局面が増えるんだろうなぁ。

親の都合に付き合ってくれる子供たちを、それでもなるべく快適で、安全な状態に保っておくためには、色んな気配りが必要です。そして何より、周囲の人たちに迷惑をかけない気配りが大事。一度、ガレリア座の練習に娘を連れて行って、私の出番になって、急に娘が、「パパ抱っこ」とむずがりだしたことがありました。眠くなっちゃったんですね。折悪しく、いつもなら練習会場にいてくれる女房がいなかった。普段、練習会場の隅っこでおとなしく遊んでくれていることが多かったので、油断してしまったんです。練習は娘の機嫌が直るまで中断、ということで、団員のみんなに迷惑をかけてしまいました。

太宰治が、何かの短編で、「やっぱり子供より親が大事」という文章を書いているのを読んだことがあります。既存のモラルを破壊して人間の本音をあぶりだすのを自分のスタイルにしていた太宰らしい文章。子供には親は選べないわけだから、ある程度親の都合に子供が合わせていくのは仕方ないこと。でも親の側としては、そうやって自分に付き合ってくれる子供への感謝と、その子供をできる限り、安全で快適な状態にできるようにする配慮を、忘れてはいけない気がします。

なんでこんなことを書いているか、と言えば、先日、朝の通勤ラッシュの電車の中で、まだ2〜3歳くらいの小さな男の子を抱っこしているお母さんを見たから。駅にすれば2つくらいの駅間だったんですけど、例のよっての超すし詰め列車の中で、子供はずっと、「痛いよ、痛いよ」と泣きっぱなしなんです。あまりに混んでいるので、優先席の近くに近寄ることもできず、お母さんは立ちっぱなし。子供は泣きっぱなし。京王線の急行電車と各駅停車なんて、分数にすれば5分と変わらないだろう。1分を争って通勤してるサラリーマンじゃないんだから、空いている各駅停車に乗ればいいじゃないか。

と思ったら、別の日、なんと、その通勤ラッシュの電車に、ベビーカーに乗せた3歳くらいの女の子と、6歳くらいの男の子を連れた親子連れが乗ってきました。近くにいたおばさんが、さすがに見かねて、「あなた、非常識でしょう。各駅に乗ればいいでしょう」と声をかけているのに、「すみません、すみません」と言いながら、超すし詰め列車のなかにベビーカーを押し込んでくる。さすがに周りの人たちがなんとか空間を作ってあげて、子供は泣きもしないで乗ってましたけど、明大前から新宿までだぜ。急行電車だぜ。5分くらいしか違わない後続の各駅停車を選ばない理由は何さ?そんなに、数分を争って向かっている目的地はどこだ?

親の都合で子供を連れまわしている夫婦としては、そんな親を非難する資格はないよねぇ、と思いながらも、それでも、子供に感謝し、子供の安全と快適を確保するために、どれだけのことをしてあげられるのか、真剣に考えながら行動しよう、と、すし詰め列車に揺られながら考えました。今度その目的地に行く時には、お願いだから、あと5分、早起きして、各駅停車に乗ってくれ。