ピューロランド侮りがたし

先週末、女房が新潟の合唱コンクールに出かけている間、父子家庭になった親子2人で、サンリオピューロランドに行ってきました。

調布市民で、京王線沿線に住んでいて、6歳になろうとする子供がいる身で、今まで一度もピューロランドに行ってない、というのは、かなり希少価値があるそうな。同じように、読売ランドにも行ったことがない。「じゃあ、週末何してるの!?」と幼稚園のママ友達に聞かれて、女房の答えは、「・・・歌ってます」。・・・えっと。

というわけで、私はピューロランド初体験だったんですが、いや面白かったです。決して斜に構えた「面白かった」じゃなくて、ほんとに楽しめました。これはまた是非行きたいなぁ。

ピューロランド、というテーマパークには、一種独特のオーラがまとわりついていると思います。それは、このテーマパークが、常に、ディズニーランドと比較して論じられることが多い点に象徴されていると思われる。それは、ピューロランド自体が、ディズニーランドやアメリカの有名なテーマパークをデザインしたアメリカの会社をアドバイザーとして設計された、という成り立ちの最初からまとわりついている。そして、ミッキーに対するキティちゃん、という、そのテーマパークを代表するキャラクター商品を持っている、という構造自体も共有している。

そういう共通点を沢山持っているが故に、ピューロランドという場所は、逆に、「ディズニーランドとは違う何か」を持たなければならなかった。それを発見することができなかった当初のピューロランドは、「ディズニーランドと比べて、アトラクションも少なく、規模も小さいし、なんとなくビンボ臭い」という一言で片付けられる存在でした。少なくとも、私が知っているピューロランドの評価といえば、「ディズニーランドと比べてビンボ臭い」という、非常に悲しい評価しかなかった。

そして、ピューロランドが見出した、「ディズニーランドとは違う何か」というのは、一言で言えば、「アジア」だったんですね。それは、キティちゃんというブランドを前面に押し出すことで、豊かになった中国・韓国からの観光客を集客する、という、営業面からのアプローチにおいても明確に現われる。それと同時に、ピューロランドが提供するパフォーマンスにおいても、「アジアンテイスト」が前面に押し出されているように思いました。ものすごく簡単に言い切ってしまえば、「中国雑技団」と「ジャパニーズアニメーション」の融合体を、アメリカンエンターテイメントのレビュー・ミュージカルで表現する、という、ものすごい「アジアンごった煮」パフォーマンス。

しかも、そのパフォーマンスのクオリティが無茶苦茶高いんです。ダンサーさんの踊りの技術、中国雑技団の系譜を引くと思われる中国人パフォーマのアクロバット、ミュージカル役者さんたちのお芝居や歌。大人が見ても充分面白いし、素晴らしい。シナモンが、あの着ぐるみの短い手と足で華麗にステップを踏んだりくるくる回っているのを見て驚愕してしまった。娘に至っては、「シナモンって、ぬいぐるみに人が入ってると思ってたけど、ほんとにシナモンだったんだね」と感心していました。すげぇ。

屋内テーマパーク、ということで、飽きられやすい設備型のアトラクションにいくら投資しても、所詮規模的なところでディズニーランドにはかなわない。となれば、ソフト、つまり人間に投資して、質の高いショウを見せる場にしよう、という発想の転換。ここに重厚長大型の設備産業から、寿命の短いヒット商品を多品種生産するソフト産業へ、という、日本産業がたどっている質的変化も重ね合わせることができる。それが、「ジャパニーズクール」という、日本発信のソフトを支持するアジアの人たちを購買層として定着した。つまりは、ピューロランドが成功したアプローチそのものが、日本の産業構造の未来を示しているものでもあったりする。(話を無理やりデカくしているぞ。どうだ。すごいだろう)

でも、どことなくサンリオピューロランドが背負っている「オーラ」のようなものが払拭しきれない感じがするのは、中国雑技団様のパフォーマンスや、サンリオキャラクターの着ぐるみが持っている、どことない「ビンボ臭さ」だったりする。中国雑技団のショウ、といえば、お正月の花巻温泉のショウだぞ。要するに、温泉芸だ。着ぐるみショウ、ということになると、これは色んな遊園地でやっている仮面ライダーショウなんかと一緒だ。そこには、どうしてもそこはかとない、「ビンボ臭さ」「大衆芸能っぽさ」がある。ディズニーランドのパフォーマンスが洗練された感じがするのに比べると、どこか垢抜けない感じがする。歌舞伎と大衆演劇の差、というか。

そう思って考えてみると、「これって、タカラヅカにも似てるな」と思います。タカラヅカというのは、すごいクオリティの舞台なんだけど、決して「芸術」にならない。どこまでもエンターテイメントであり、どこまでも「芸能」なんです。さらに、タカラヅカの舞台にある様々な「お約束事」と同様、ピューロランドのパフォーマンスにもものすごく大きなお約束事があります。それは、どんなにシリアスな冒険ファンタジーだろうがなんだろうが、絶対にサンリオキャラクターの着ぐるみが出てくる、というお約束事。タカラヅカの舞台で、源氏物語やったら、光源氏役のトップが最後に巨大な羽根しょって出てくる。平安貴族のカッコしてても、羽根しょわないといけないんです。絶対に守らないといけないお約束事。そういうお約束事に守られながらも、お約束事さえ守ればなんでもやってしまう、という「ごった煮」精神というのも、なんとなくタカラヅカに共通するものがある。

じゃあ、ディズニーランドの洗練されたショウと比べて、ピューロランドのショウの質が低いか、というと、そんなことは全然ない。パフォーマの質はとても高く、より大衆化された分、かえって肩の力を抜いて楽しめるし、思ってもいなかった感動があったりする。そしてこれも大きいんだけど、色んな値段も安い。アトラクションやショウを見放題のパスポートが、京王線の乗車券付きで4000円(ディズニーランドは5500円)だし、バイキング形式の食べ放題レストランが2100円っていうのもリーズナブル。私みたいに、舞台表現に興味のある人間からすると、アトラクションよりもショウが中心になっているピューロランドの方が、かえって楽しめたりします。侮りがたしピューロランド。また行こう。