「四人展」〜身体の奏でる音楽〜

昨日、以前ガレリア座の公演で踊り手として参加してくださっていた、若手舞踏家、木室陽一さんが出演された舞台を見てきました。
 
『四人展 ムービングアースから派生増殖膨脹弥増す』

スタッフ
照明 : 足立 恒(インプレッション)
音響 : 越川 徹郎
舞台監督 : 河内 連太
宣伝美術 : 楜沢 順
協力 : 早田 洋子
企画制作 : ケイ タケイ's ムービングアース

キャスト
大塚麻紀「おかえり」
西巻直人「逃亡」
木室陽一「たまにのる」
石田知生「ロッカバイ」

という布陣でした。
 
木室さんとは随分ご無沙汰していたのですが、ある日、帰宅途中の総武線の中で、常人離れした雰囲気と肉体を持った人が、隣の席に座った、と思って見たら、これが木室さんだった。お互い、5年くらい会ってなくて、思わぬ再会にびっくり。最近の活動をお互いに情報交換した中に、この「四人展」へのご出演の話があったのです。両国のシアターX(カイ)で上演、とのことで、会社からも近いし、これは行かねば、と足を運ぶ。

前にも書きましたが、自分が、「歌」や「声」を中心とした舞台表現をかじっているので、逆に、こういう「身体」だけの表現というのがとても刺激的で面白いのです。自分の筋肉、関節の動きを、客席に対する表現手段としてコントロールする。コントロールするだけではなく、その動きの可能性を広げることで、表現の幅を広げる。数日前に、自分の体の「癖」のことを書きましたけど、そんな話をすると笑われそうなくらいに、カンペキに制御された身体。同じ舞台に乗る者として、恥ずかしくなってくるほどに、オブジェとして完成された身体。

4人の方それぞれに、面白いパフォーマンスでしたが、個人的には、やっぱり木室さんのパフォーマンスが一番しっくりきました。面白いなぁ、と思ったのは、木室さんのパフォーマンスが、どこか「自由」であること。他のお三方のパフォーマンスは全て、「抑圧」「喪失」といった、何らかの精神的な傷のようなものを表現しようとされているように思ったのです。木の枠で作られた立方体から逃れようとする身体。巨大な見えない箱のようなものの中から逃亡しようとする身体。失ってしまったものをひたすら自分に引き寄せようとあがく身体。他のお三方の表現が、どこかそういう「あがき」や「切迫感」がある一方で、木室さんのパフォーマンスだけが、どこか「自由」なんです。

何かのメッセージを表現する、というよりも、「球」という概念を身体で表現しようとしているような感じ。そのイメージを、鍛え抜かれた身体が流れるように表現していくとき、全くBGMなどは流れていない(ホワイトノイズのような効果音がしばらく流れましたが)のに、木室さんの身体が、実に流麗な音楽を奏でているように見えてくる。その自然さ。美しさ。

音楽というものが、周波数と周波数の間に生まれる調和という本来の美しさを持っているものならば、人間の身体というものも、一定のリズムと一定の動きを与えられることで、音楽と同じような調和の美しさを表現することができるんですね。音や声ではなく、身体の動きだけで。どこかバッハのフーガを聴いているような感覚で、見事な曲線を描いて流れる木室さんの身体を眺めていました。本当に面白かった。

他の出演者の皆さん、スタッフの皆さんもお疲れ様でした。しかし、シアターXっていうのは実にいい劇場ですねぇ。