地道

昨夜、今度大田区民オペラ合唱団で歌う、ヴェルディのレクイエムの楽譜を、頭からざっと見直していました。女房の持っていた「羅和辞典」片手に、単語を確認したり、フレーズの伴奏の音型や、他のパートの音型を確認したり。びっくりするくらいに新しい発見が一杯あり、今まで何気なく歌っていたフレーズの意味が全然変わってしまった。すごく面白くて、ワクワクしました。

本当に、よく計算された、素晴らしい曲だなぁ、というのを改めて感じました。例えば、冒頭の「Kyrie」の楽章では、テノールの独唱が始まると、ファゴットの伴奏が、非常に美しい対旋律を下降音階で奏でている。すごく印象的な音型なんですが、今までずっと聞き逃していたんです。これに気がつくと、この「Kyrie」の楽章の最後で、弦が、全く同じ音型を、今度は上昇音階で奏でているのを「発見」。すごく興奮しました。頭を垂れて祈った祈りが、弦の上昇音階に伴われてすうっと天に昇っていくような。この上昇音階に、自分たちの歌を、そっと手渡すように歌わないとダメなんだ。

最後の「Libera Me」でも、新しい発見あり。「Libera Me」、という歌詞は了解していたのですが、それに続く「Quando Coeli Et Terra」と言う言葉にはあまり印象がなかったんです。「地と天が打ち震える時」という歌詞に沿って音型を見ていくと、この言葉にこめられた恐怖感が至るところで見事に表現されているのに気付く。その恐怖感があるからこそ、「Libera Me」の祈りが、叫びにも似た願望として畳み掛けるように表現され、説得力を増している。

本番も近くなって、今更こんなことをやってちゃダメなんだよねぇ。もっと早い段階でやらないと。でも逆に、本番も近くなって、曲が自分なりに分かってきたから、余計に面白いのかもしれない。今まで何度も歌ってきた曲のはずなのに、今まで何を見てきたんだろう。楽譜にはほんとに宝物が一杯詰まってるんだなぁ。

乞食学生でご一緒するテノールのT君も、まず楽譜の伴奏をMidiで打ち込んで、音をきちんと確認する作業を地道に続けているそうです。こういう地道な作業が、ほんとに大事なんだよね。そこに書かれている言葉。そこに書かれている音。それらがどのように絡みあって、一つの曲が出来上がっているかを解析していく作業。

たった1時間くらいの楽譜読みで、こんなに発見があったんだから、さらに本番まで練習を重ねていく中で、また新しい発見があるかもしれない。これから本番まで、3回しか練習に参加できないんですけど、ほんとに楽しみになってきました。

宝物を見つけたら、今度はそれをどうお客様に届けるか、が、「職人」としての技術が問われるところ。ヘンに感情に流されるのではなくて、冷静に、自分の感情とフォームをコントロールしなければ。こんなに素晴らしい宝物が、沢山つまった曲なんだから。