秋のガラコンサート

昨夜は、娘のピアノの先生である、秋山美穂子さんが出演された、ピアノ・コンサートに行って来ました。実を言えば、きちんとしたピアノ・コンサートを聞きに行ったのは初めてだったので、結構期待して行ったのです。場所は、トリフォニーホールの小ホール。

きれいなホールですよね。アプローチの感じもいいし、クロークとかも完備。キャパは252人、とのことで、こじんまりしたホールですが、音響もそんなに悪くない。「前列の方だと、ピアノの音ががんがん来ちゃうので、なるべく後ろの方に座ってくださいね」と受付の方に言われる。実際、座席と舞台の距離が近いので、さもありなん、と思いました。

演奏の内容については、期待どおり、結構楽しめました。若手のピアニストの方々の発表会、ということで、3人の方がソロを弾き、最後に、秋山さんと、もうお一方の連弾、という、4部構成のプログラム。どれも、なんとも初々しい演奏ばかり。ある方は、途中のフレーズでとちってしまって、同じフレーズを10秒か15秒、何度も弾きなおしていました。さすがに、弾き終わった後には顔が引きつっていて、ちょっと可哀想になりました。しっかり勉強してくださいね。

しかし、同じピアノなのに、どうしてこんなに違う音が出るんだろうなぁ。昨日の日記にも書きましたけど、明らかに違う音が出るんですね。私はピアノは全然素人なのですが、昨夜の演奏者の方々の音を聞いていると、大きく4つの点で、音が違って聞こえる。

1つめは、ペダルです。音がピアニッシモで消えていくときに、ペダルが「うにゃん」とにごるような音がする方がいました。古いピアノなんかだと、結構出る音みたいですけど、ちょっと耳障り。

2つめは、音の粒の大きさ。なんとも説明しにくいのですが、音の粒が、小さく粒だっているような音がする方と、その粒の大きさがなんだか大きくて、ぼやん、としているような方がいらっしゃった気がしました。ビー玉がカンカン、と床に跳ねているような音と、ソフトボールがボンボン、と跳ねているような音の違い。同じ楽器なのに、なんでそんな違いが出るんだろう。

3つめは、その粒の潤い、です。粒だっている音を出す方でも、何だか固いガラスの床の上を甲高くビー玉が跳ねているような音が出る方と、年を経た分厚い木の床の上をビー玉が跳ねているような音が出る方がいる。耳には後者の方が全然心地よい。

4つめは、粒の間をつなぐ、音楽の流れ、というか。全体の構成力にもつながってくるのかもしれないのですが、一つの曲の中で、どう盛り上げていって、どこが山になっていて、その頂点からふっと空中に浮遊してみたり、といった、音の流れ。これが非常に心地よい方と、なんだかどうなっているのかよく分からない方がいらっしゃる。

そんな中で、2番目に弾かれた梁成花さんと、秋山美穂子さんは、個人的に非常に印象に残りました。梁さんは、ソロで4曲を弾かれたのですが、音の粒がとても立っている。潤い、という意味では、少し足りないかなぁ、という気がしたのですが、何より、音楽の流れ、構成力が印象的。他の方と決定的に違うなぁ、と思ったのは、梁さんは、呼吸が聞こえるんですね。ブレスがはっきり聞こえて、音楽をきっちり歌っている感じがする。時々、ほんとにハミングの音が聞こえたりする。歌をやっている者としては、音楽と呼吸が一致している心地よさがあって、とても流れて聞こえる。なので、自然と、1曲終るごとに拍手をしたくなる。4曲の構成も見事で、30分間、まさにソロ・リサイタルの風格のあるステージングでした。

秋山さんは、娘のピアノの先生、ということもあり、かなり贔屓目が入っているかもしれないのですが、やっぱり、「呼吸」が鮮やかに見えるんですね。連弾なので、呼吸を合わせないといけない、という条件もあるのかもしれないのですが、非常に音楽の流れが見える。連弾のセコンドを弾かれたのですが、もうお一方の旋律をしっかり支えつつ、きちんと音楽の流れを作ってあげている。まるで指揮者のようだなぁ、と思いながら見ていました。

非常に残念だったのは、お客様の少なさです。252人のキャパのホールで、お客様は40人〜50人しかいない。ほんとにガラガラ。主催者の東京国際芸術協会の責任かもしれませんが、もう少しチケットを売ったらいいのに。主催者なら、普通40枚から50枚くらいは売るんじゃないのか。それでピアニストの方々が1人10枚売れば、あっという間に100人は入るだろうよ。前売りで3000円のチケットだもの、もうちょっと頑張ってあげてもいいのに。

音楽はコミュニケーションの道具なのだから、伝える相手、聞かせる相手がいない、というのは、本当に不幸なことだと思います。「お客様の数には関係ない!」というのは一つの芸術家の矜持としてアリかもしれませんけど、それは結果論。結果として、少ない聴衆しか集まらなかったとしても、一流のパフォーマンスを見せる、というのは当たり前のこと。その前に、なるべく多くの聴衆を集める努力をしないと、「場」のエネルギーが高まらない。それはパフォーマンスの質を下げることになります。

色んなことを考えながら、トリフォニーを後にしました。帰りに食べたスパゲティがなかなか美味しかった。出演者のみなさま、好き放題書いちゃって大変失礼しました。今後のみなさまのご活躍をお祈りしております。