日本語ってかっこいい!

なんとなく思い立って、「与話情浮名横櫛」、いわゆる「切られ与三」の台本を読んでいます。歌舞伎の台本って、2・3読んだことがあるんですが、どれも面白い。多少分からない言い回しとかあったりしますけど、そんなのはすっ飛ばして、七五調のセリフ回しのかっこよさに浸ってしまうと、これがなんとも快感なんですねぇ。

「しがねえ恋の情が仇、命の綱の切れたのを、どう取り留めてか木更津から、めぐる月日も三年越、江戸の親にゃ勘当受け、よんどころなく鎌倉の、谷七郷を喰ひ詰めても、面に受けたる看板の、疵がもっけの幸いに、切られ与三と異名を取り、強借りゆすりも習ふより、馴れた時代の源氏店、其白ばけが黒塀に、格子造りの囲ひ者、死んだと思ったお富さん、無事で暮して居ようとは、お釋迦様でも気が付くめえ、よくもおぬしやァ達者で有たなァ。安ャア。これぢゃ一分ぢゃ帰られめえ」

うひゃー、かっこいいったりゃありゃしない。七五調というのには魔力がありますね。なかにし礼さんが、「七五調というのはおめでたい調子なんで、七五調で言ってしまうとなんでも許されてしまう、という感じがある、だから僕は、七五調は使わないんです」とおっしゃっていたのを読んだことがあります。おっしゃる通り。なんでも許されちゃうんですよね。

さらに、掛詞っていうんでしょうか、一つの単語から連想する単語をただ連ねていくその連想力のたくましさ、その調子のよさ。「馴れた時代の源氏店、其白ばけが黒塀に、格子造りの囲ひ者」なんて、中身を見てみれば、源氏店の中に囲われているお妾さん、というだけの内容。それを言葉の掛け合いで、ここまでかっこよく連ねていく、その遊び心、連想力、言葉の力の素晴らしさ。

NHK教育の「にほんごであそぼ」で取り上げられている名句なんかも、どれをとってもかっこいい。「まだ揚げ染めし前髪の 林檎のもとに見えし時」なんて言われただけで、ほおっと目の前に風景が広がる。いいですねぇ。

最近のTVや街角で耳にする薄っぺらな日本語に嫌気が差してくると、時々、こういう美しい日本語に触れたくなります。きっとどの言葉もそうなんでしょうけど、日本語の奥は深いです。

ちなみに、歌舞伎の台本は、日本語の豊かさを再認識するだけでなく、筋書きも楽しい。やっぱり、長い年月を経て生き残っているものっていうのは、それだけ魅力があるってことなんでしょうね。最近行ってないけど、歌舞伎座に行きたくなってきたなぁ。今は海老蔵の襲名公演中か。いいなぁ。