下半身の話

いきなりタイトルだけ見ると、なんかエッチな話みたいですけど、そうじゃなくて、発声法における下半身のことです。期待した?そういう話はまたこんどね。

週末、大田区民オペラ合唱団のヴェルレクの練習に参加。男声だけの特練、という形で、山口俊彦先生のご指導を受けました。俊彦先生は、声の色合いや、発声の基本を非常に大事になさる方なので、下半身の支えと、声帯の合わせ方について、かなり突っ込んだご指導がありました。勉強になったなぁ。

よく言われることですけど、「ノドに力をいれずに声帯だけをきれいに合わせる」というのが、ノドの部分の基本です。これが難しいんですよね。声帯がきれいに合うと、かなり「バリバリ」した音が出る。合唱団に長くいる人の中には、この「バリバリ」した音を、「ノドに力が入っている」と言って嫌う人が時々いますけど、これは大間違い。きちんと声帯が合うと、意外と固い音が出るものですよね。

今回、面白いなぁ、と思ったのは、俊彦先生が、「鼻の頭からちり紙をたらして歌ってごらん」とおっしゃったことです。声帯がきちんと合っていると、ほとんど息が外に出ない。息が全て、声帯を鳴らすことに使われてしまうんです。なので、たらしたちり紙がほとんど動かない。これって、よく言われることですし、時々同じような練習をされる先生がいらっしゃいますけど、面白いと思ったのは別のこと。

以前、民謡歌手の方が、ろうそくの炎を目の前にして歌いながら、炎を揺らさない、という練習をされていたのを思い出したんです。それで、民謡や、長唄、歌舞伎や能の発声というのも、実は、体の使い方はかなり共通しているんじゃないかな、とその時思ったんです。

よく、邦楽の発声はノドに負担をかける、という話がありますけど、ちょっと違うんじゃないかな、という気がしています。きちんと邦楽の発声について勉強したわけじゃないので、詳しいことはよく分からないんですが、あの発声が、「ノドに負担をかけている」とはどうしても思えないんです。むしろ、邦楽の発声でも、洋楽の発声でも、ノドの力を抜いて、声帯をきちんとあわせて、下半身をしっかりコントロールする、ということで共通しているんじゃないかなぁ、と。

じゃぁ、何が違って、あんなに違う声になるのさ、と言われると、本当に理論書とかをきちんと読まないといけないんですが・・・基本は、「座って歌う」か、「立って歌う」か、という違いが産みだしている差なんじゃないかなぁ。

そんな印象をさらに強めたのが、日曜日にNHK教育でやっていた、野村萬斎さんの舞台です。発声する際の姿勢を見ていると、一見、洋楽の発声姿勢とは全然違うように見えます。でも、いわゆる「丹田」にぐいっと力を加えて、足を少し開いてぐっと踏ん張るところは全く同じ。違うのは、上体がかなり前かがみになって、腰が後ろに引けているように見えるところなのですが、これも、洋楽の発声で、重心を少し前に持ってくる感覚を、さらに強調している結果のような気がする。そして、背筋はきちんと伸びている。つまり、背筋はすごく緊張しているんです。

とすると、これって、洋楽の発声姿勢と基本は全く一緒。座ってあぐらをかいて発声する状態を、そのまま立ち姿にするとこうなっちゃうのかもしれないけど、使われている筋肉はほとんど共通しているんじゃないのかなぁ。

そんなことを思いながら、野村萬斎さんの舞台を見ていました。この方、本当に芸域が広くて、かつ変な力みがなく、自然体で全てこなしてらっしゃるような、自在な感じが好きです。「陰陽師」はひどい映画だったけど、野村萬斎さんの所作の美しさだけでもってましたねぇ。歌舞伎の勘九郎さんの演技に通じるところがあって、この力の抜け具合が好きです。邦楽の理論もちょっと勉強してみようかなぁ。