通勤電車の過ごし方

昨夜は、今度のお芝居の案内状を色々な皆さんにお送りするための、封入作業を家族総出(といっても3名)で実施。4歳の娘も、封筒詰めと、出来上がった封筒の数を数える仕事を手伝ってくれました。このくらいの年齢だと、お手伝いもお遊びも同じ。自分なりに効率的な方法を考えながら、一生懸命手伝ってくれました。子供って、どんどん大きくなるんだなぁ。

さて、4月になって、今日あたりからは新学期も始まったらしく、朝の通勤電車はまさに殺人的ですね。とは言え、片道1時間、往復2時間、1日24時間のうち8時間は睡眠時間として、残り16時間のうちの2時間。これは大きい。人生の8分の1をここで過ごすわけですから、なんとか有効に使いたい、と思いますよね。

電車の中を見渡すと、大多数の人は、目をつぶって、何もしないで、ただ揺られています。ぎゅっと目を閉じた表情に、この悲惨な現実を見るまい、という強固な意志を感じる人もいます。まるで昨夜のタイガースの試合結果を見まいとする私のようだ。結構な数の人が、そのまま寝てます。立ったまま寝てる人も結構います。前のおじさんと後ろのおじさんが掛け布団と敷布団ってわけです。お姉さんだと嬉しいんだけど、おばさんだと悲しい。嬉しくなりすぎると時々にらみつけられて悲しくなる。おばさんににらみつけられるとすごく腹立つ。腹立ちの行き場がなくてさらに腹立つ。なんとかお姉さんの近くに行きたい、と思いつつ、そんなポジションを選択できるような余裕なんかない。あんまりナイスボディのお姉さんの脇にいくと、痴漢に間違われそうで怖い。このおじさんのフケがイヤだ。このおばさんの口が臭い。そういう小さな葛藤が今日も渦巻いております。人生って厳しい。

シートの前、つり革につかまるあたりが、顔の前の空間が空いていて、解放感もあり、窓の外も見え、新聞・雑誌を読んだりもできる、かなりいいポジションに思えますが、朝のラッシュ時には、相当の体力を必要とするポジションになります。後ろからの圧力に対して、前方に倒れそうになる身体を支える支えが存在しない。つり革につかまっているのにも限界があり、多くの人が、身体を斜め前方に倒して、窓に手をついて身体を支えるハメに陥ります。ヘタな腕立て伏せよりも腕の力が必要です。体力に自信のある方々にお勧めのポジション。

一番いいポジションが、ドアのすぐ脇、シートの端の狭いコーナーです。ここにポジショニングできると、シートの手すりが、後方からの圧力を支えてくれる上に、顔の前には空間があり、雑誌や本を読むといった行動の自由が確保できます。ただし、このポジション争いは熾烈な上に、各駅での人の乗り降りの流れが生み出す「人圧」によって、このポジションから引き剥がされ、ホームに一旦降りざるを得なくなったり、車内に押し込まれたりする可能性もあるので、駅到着前には手すりにつかまってその圧力に備える構えが必要となります。

なお、ポジションの中で最高位にあるのは、勿論、シートに座ることです。これが可能な人々は、極めて限られた一部の特権階級ですので、ここでどのような行動が行われているのか、どのような精神状態でこの時間を過ごしているのか、私には想像もつきません。まさに夢のポジションですが、多くの人々は、この特権を睡眠という行為で浪費しているように見受けられます。折角の特権なのに、それでいいのか。まさに惰眠をむさぼるこの特権階級の人々に、何らかの意識改革を求めるべきではないのか。そんなことはどうでもいいんですが、このポジションだと、時々、前述のつり革ポジションの人々が倒れかかってきて、思わぬ苦痛を味わうことがあるので注意。また、惰眠をむさぼりすぎて、時々頭を窓に思い切り打ち付けて周囲の失笑を買うこともあります。特権階級といえども、油断は禁物です。

さて、かような過酷な環境下でも、人々は自分の時間、世界を守ろうと努力しています。環境が環境なだけに、実行可能な行動自体が制限されるので、自ずと、行動パターンは幾つかの定型に区分されます。

(1)ウォークマンなどの音楽に没入する。
 この行動パターンにおいては、前述の「目を閉じて現実世界から逃避する」という行動を伴うことが多い。また、シャカシャカ音を周囲に注意されるなど、突然現実に引き戻されることもあるので、ヴォリュームには注意が必要。

(2)新聞・雑誌を読む。
 上述の通り、環境が環境なので、一部の特権ポジションを確保した人々にのみ許される行動。しかしながら、時々、新聞・雑誌を信じ難い形状に小さく折りたたみ、またそれを摩訶不思議な方法でめくりながら、極めて狭い空間で読みつづけている猛者を見ることがある。技術大国を支える日本人の器用さを再認識する瞬間である。

(3)文庫本を読む。
 文庫本という形状は、ひょっとしたら満員電車のために生み出されたのではないか、と思われるほどに、この時間帯に与えられた最大の娯楽の一つ。隣の人が読んでいる文庫本が、自分の好きな作家の本だったりすると、それだけでその人が好ましく見えてくるから不思議。ちなみに、ミステリーの結末を耳打ちしたりしないように。

(4)携帯電話
 最近これが多いですねぇ。通話している不埒モノは言語道断として、メールをしている人を筆頭に、ゲームをしている人、Web検索をしている人、非常に多い。実は、日本で携帯電話のアプリ利用がここまで発達した背景には、この通勤電車の中での時間つぶし、というのが、大きな要因の一つだと言われているのです。欧米などでは、通勤に車を使いますから、中々こういったアプリケーションが根づかないんですね。

(5)ビジネス関連
 ビジネス関連の本を読む、会社の資料を読む、英会話の勉強をする、など、自己啓発の時間として有効活用している方々。私も何度かトライしたが、2ヶ月以上続いたタメシがない。ちなみに、競争会社の人が、会社の社外秘の書類を読んでいるのを盗み見て、内容を記憶し、社内に連絡したことがあります。情報漏洩というのはこういうところで起こるのです。ご注意。

(6)その他の生活派
 家でやるような生活を持ち込む方が時々いますね。お化粧をする方、この環境下で、そこまで見事にアイラインを引くあなたの器用さに、技術大国日本を支える日本人の・・・もういいっての。お食事をされる方、いいけどマクドナルドはやめてくれ。におうから。カツサンドも結構におうぞ。先日、カツサンドをぱくついているお姉さんがいて、食べ終わってやれやれと思ったら、今度は小豆パンを出して食べ始めたのを見て呆れました。食べているものをいちいちチェックしている私もヘンですね。すみません。

・・・私自身の通勤電車の過ごし方、といえば、この日記でよく書いているように、芝居の台本を覚えたり、ガレリア座の公演のある時は、音とりテープを聞きながらのイメージトレーニングをしたり、ビジネスマンみたいに、みたい、じゃなくてビジネスマンなんだが、ビジネス雑誌を読んだりしています。そういう合間に時々目をあげて回りを見回すと、実に色んな方が、色んなことをしています。そういう人物観察も、通勤電車の中のいい時間つぶしです。