NYでの大みそか第九

混声合唱団の方に誘われて、大みそかにマンハッタンの教会で第九を歌うイベントに参加することに。ちょうど渡米してきていた女房と一緒に、初めての体験を楽しんでまいりました。

New York Festival Singersという団体名で声がかかったのですが、NYでは色んな教会やホールで演奏会があり、その都度、合唱団が組織されるらしいです。核になる合唱団を運営しているKarenさんとAlecさんという方が、NY混声合唱団の団員さんに声をかけてくれて、私を含めた数人の方々が、舞台に参加しました。

前日のピアノリハーサルから、とにかく米国流のざっくりした感じが楽しい。教会の地下の集会室で練習があったんですが、出席をとるわけでもなく、とにかくざらざらっと人が集まってくる。核になる団体の方々はお互い顔見知りらしいのだけど、私と女房、お付き合いで付いてきた娘と、NY混声合唱団の団長さんが来るまで、手持無沙汰で待っている。

人も集まってきて、さて練習、となったのだけど、隣の団員さんが私の使い古しの楽譜を見て、「君、何回これ歌ってるの?」と聞いてくる。指を折ってみて、いや、数えきれないくらい歌ってるね、という話をすると、「おお、オレはラッキーだな、オレは初めてなんで全然分からんから、君の歌う通りに歌うよ」と言ってくる。私の楽譜には、1988年にジュネスで第九を歌った時の、合唱指導者だった阿部純先生のサインが残っているから、本当に何度となく歌ってるんだよね。アマチュアの方々の中に、ところどころにかなり歌える方が散らばっている、という感じで、まぁ日本のアマチュア合唱団と同じくらいの実力です。1時間だけの短いリハーサルで、翌日の本番を迎える。指揮者の指揮とどうしても息がそろわないところがあって、個人的にはかなり不安を抱えながら本番へ。

31日、リンカーンセンターの駐車場に車を止めて、教会の近くのコロンバス・サークル駅から会場へ。The Church of St. Paul the Apostleという会場は、コロンバスサークルの西側にある大きな教会で、とにかく天井が高い。しかも会場に行ってみて驚いたのだけど、オーケストラと合唱団の間に20メートルくらい距離がある。天井の高い教会のお風呂エコーと指揮者までの距離のせいで、ソプラノの音が反響して一拍くらいずれて聞こえてくる感覚があって、かなり面食らう。合唱団員さんの間でも、「こりゃ歌いにくいねぇ」という声が上がる。実際、オーケストラとの合わせでは、何箇所かどうにも指揮者と合わない個所があり、不安は解消されないままに本番へ。

本番会場はこんなところです→http://www.stpaultheapostle.org/

本番前に、指揮者と少しお話ができたのですが、彼が、「第九を指揮するのは初めてなんだよね」と言っている。聞けばまだ26歳。ベートーベンの交響曲は3・4曲振ったことがあるんだけど、第九は初めて、とのこと。日本では本当にメジャーな曲なんだよ、という話をする。演奏会は無料で、プログラムは以下のような感じ。オーケストラのメンバーもずいぶん若い人たちが多く、若いんだけど結構いい音を出しています。こういう若い音楽家の卵たちが、いろんなイベントで腕を磨いているのがNYなんだな、と思う。

・「こうもり」序曲(Johann Strauss II)
・「Fantasia on a Theme by Thomas Tallis」(Ralph Vaughan Williams)
・第九

休憩中に入場してみれば、200人くらい入る教会は満席状態。第九の第一楽章から、オーケストラの後ろで待機していたのだけど、教会という場所に響く交響曲、というのは、お風呂エコーだろうがなんだろうが、これが本来の姿、という感じがしてくるから不思議だよね。第九という素材は宗教色の強いものではないのだけど、それでも、楽器が本来あるところで演奏されている、という感じがする。それは、テナフライの教会で合唱曲を歌った時にも感じた感覚だったのだけど。

本番は、遠くに見える指揮者を必死に追いかけながら夢中で歌った感じで、ところどころ失敗もありましたが、なんとかお客様のブラボーをもらいました。隣で歌ったおじさんにも「Thank you for your great help!」と言ってもらえて、まぁ少しは手助けになれたかとほっと一息。

本番の写真をこちらで見ることができます→http://www.flickr.com/photos/nishitanih/sets/72157625600396943/

教会という場所と音楽の関係、教会での無料コンサートとNYの音楽家の関係、それに、日本での第九の持つ特殊な位置についての再認識、と、頭では分かっていたことを、肌身で感じた一日でした。会場から外に出てみれば、コロンバスサークルからタイムズスクエアに向かう道は閉鎖されていて、新年を祝う色んなかぶり物をした人たちがぞろぞろと南に向かっている。「ミッドタウンの方の駐車場に車を停めていたら、もう出られなくなっていたね」と言いながら、すっかりなじみになったリンカーンセンターの駐車場から帰宅。NJの自宅で年越しそばを食べながら、テレビでタイムズスクエアのカウントダウンを見ていると、カウント0と同時に、家の外から花火の音がバンバン聞こえてくる。地元なんだなぁ、と実感しました。

去年は夢にも思わなかったNYでの大みそか、家族3人で目いっぱい楽しみました。演奏会に付き合った娘は、「またかよ」という顔をしていたけどね。また来年もどこかで第九を歌っていると思います。