さくら学院祭2019~原石だから再現できる昭和歌謡バラエティの世界~

週末に開催されたさくら学院祭2019、19日(土)の公演舞台と、本日開催されたライブビューイング(20日(日)公演の収録)を見に行って、一応、二日間の公演のほぼ全容を見ることができました。学校だからこそのバラエティに富んだ舞台に、大正の浅草レビューから続く日本の舞台エンターテイメントの系譜や、懐かしの昭和歌謡バラエティ番組のワクワクを垣間見た気がしたので、そういう衒学的な感想を。例によって知ったかぶりの適当な書き飛ばし文ですので、あまり真剣に突っ込まないでくださいね。

さくら学院は「アイドルグループ」と名乗ってますが、実際には「芸能人育成機関」という側面が強い、という話はこの日記でもよく書いていて、生徒さんたちは、歌とダンスだけでなく、女優としての演技の勉強やバラエティの対応力など、芸能人として生きていくための色んなスキルを実戦的に学んでいます。毎年開催される「さくら学院祭」は、その学習成果の発表会という位置づけになるので、結果的に、寸劇やコント、「さくらデミー賞」という演技エチュードを見せるバラエティ的コーナーと、歌とダンスのパフォーマンスが混在する、という盛りだくさんの舞台になる。このおもちゃ箱的な構成を指して、「八時だよ全員集合」や、「ヤングオーオー!」のような昭和の懐かしい歌番組になぞらえる人がいて、すごく言いえて妙だな、と思った。

でも「八時だよ全員集合」の構成には元ネタがあって、もともとテレビの歌番組っていうのは、「シャボン玉ホリデー」や「夢で逢いましょう」の時代から、歌のコーナーとコントのコーナーやちょっとした小芝居のコーナーが混在して進行するものだったんですよね。そしてもっと乱暴なことを言えば、「シャボン玉ホリデー」「夢で逢いましょう」の原型は、大正時代の浅草オペラを源とする浅草レビューにまでさかのぼることができる。浅草レビューはさらに、パリのキャバレーのショウや、歌舞伎や狂言などの、「通し狂言」と「踊り=レビュー」をセットにする興行形式にもさかのぼれる。話がちょっと広がり過ぎてしまったので、ちょっと戻ろう。

「八時だよ全員集合」は、歌の間につなぎとして行われていたコントの部分を主役にして、歌をつなぎとして従属させた所が画期的で、「欽ドン」とか「俺たちひょうきん族」なども、コントを中心とする構成をそのまま引き継いだ「お笑いバラエティ番組」でした。一方で歌番組は、バラエティ要素を失って、ベストテンやミュージックステーションのようなライブだけを並べる歌専門の番組に特化していった。言ってみれば、歌とバラエティ、コントは引き裂かれてしまって、それぞれの専門番組になっていった、というのが流れだったのじゃないかなと。

でも、逆に言えば、その後に登場したニューミュージック系の歌手は、それ以前の歌手が必ずやっていた、「舞台上で演技をする」という必要性から逃れることができたんだよね。荒井由実さんや吉田拓郎さんが役者として演技する、なんてことあり得なかったわけだし。つまり、「歌手」と「役者」あるいは「コメディアン」の分業が明確になってくるわけで、芝居のできない歌手、歌の歌えない役者、というのもそれぞれの場所で活躍できるようになる。「シャボン玉ホリデー」の映像とか見ると、人気歌手と言われた方たちの達者なお芝居に驚くし、昔の歌番組の構成は、歌も歌えて芝居もできてコントもできる、ある意味万能芸能人のスキルに支えられていた。だからこそ、「SMAPSMAP」という番組が画期的だったわけで、あれはSMAPというグループが、歌も芝居もコントもバラエティもできる4人組だったからこそ成り立った、バラエティと歌のバランスのとれた番組だったんじゃないかな、と思います。そういえば初期のスマスマの木村拓哉さんのネタの一つが古畑任三郎だったな。関係あるのかな。あるわけないな。話を戻すぞ。

と、かなり回り道をしましたけど、やっとさくら学院祭に戻ってきますよ。さくら学院祭が、既に失われてしまった昭和の「歌謡バラエティ番組」の構成を再現できるのは、パフォーマーの生徒さんたちが、まだ歌手でもダンサーでも女優でもないダイヤの原石状態だからこそで、彼女たちはある意味何でもできるから。そして大手芸能事務所アミューズが全国のオーディションで選抜してきた小中学生の彼女達は、時に大人顔負けの高レベルの演技や歌やダンスを見せてくれる。昭和50年代から60年代くらいのテレビ番組にはまだ生き残っていた、次に何が出てくるんだろう、的なドキドキ感が、2000年以降に生まれた才能豊かな子供達によって、かなり高いクオリティで再現されるのが何だかすごい。他のアイドルさんの舞台を見たことがないのでなんとも言えないんですけど、芝居とレビューの二部構成のショウを見せている宝塚とか、同じようにお芝居と歌のショウの二部構成になっている一流の演歌歌手の舞台とか、歌もダンスも芝居もコントもできる方たちのライブでしか味わえないようなてんこ盛りのパフォーマンスを、商業ベースで毎年開催しているってのが本当にすごいなぁって思う。

もう一つ、さくら学院祭が昔のテレビ番組のワクワクを思い出させてくれるのが、これがライブだっていうことなんだよね。「八時だよ全員集合」も、生放送だからこそあのワクワク感が生まれていたと思うし。色々偉そうなこと並べた挙句に、結論は結局、さくら学院すげえ、ということだけかよ、と言われそうですけど、やっぱ色んな意味で、このシステムを作り上げ、それを支えているスタッフと生徒さん達って、凄いんじゃないかなぁって思うんですよ。